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専業主婦も体調をくずす

昭和の時代に生まれ育った実父からすると、どうやら驚きの事実だったようだ。

実母は夜中2時頃まで、Netflixで映画を見たり雑誌を読んだりして過ごす。どんなに遅くまで趣味の時間を満喫しようとも、翌朝父の起床時間には必ず起きて、仕事に見送る母。

昨晩の母の就寝時間はだいたい2時、そして今朝父が起きたのは6時。
今日母は起きるなり、低気圧のせいもあるのか睡眠不足のせいもあるのか、めまいと軽い動悸がするといって具合が悪かった。

昼間に少し横になって休んでいたものの、夕方になってもなかなか体調は戻らず。低血圧で貧血持ちの母なので、一度体調を崩すと調子がもどるまでに少し時間がかかる。

帰宅する実父。半日ゆっくりと過ごせば母の体調も良くなっているだろうと期待して帰ってきた父の期待に反して、まだ体調のすぐれない母。


そんな母を見るなり実父が放った一言は
「勘弁してくれよォ~」だった。
おまけに不機嫌そうにため息まで付け加えて。

娘の前では怒らないようにと心がけている私だが一瞬でカチンと来てしまった。実父とはつい最近大喧嘩をしたばかりなので、極力冷静に頭の中を保ちつつ、それでもつい「今度お父さんが体調壊したら、私同じように言うね」と顔も見ずに言い放ってしまった。

驚くのは実父がきょとんとしているということ。私がそんなことを言ったという事実ではなく、何を言われているのか分かっていなかった。

「あのね、自分が言った言葉は、そのうち言われる側になるからね?」、言い始めるといよいよ怒りが止まらない。
「普通は第一声だいじょうぶ?じゃないの?」と、ここまで言ってようやく父は理解できたようだった。

「1日休んでいてくれたら大丈夫かなと思って、ごめんね」と父は肩を落とす。

ここには解決していない根深い問題がまだ残っている。
「専業主婦なのだから1日横になっていてください」となんの家事もせずにただ言葉の上でだけ心配しているという構図だ。

1日の洗濯物が柔軟剤の香りをまとい綺麗に畳まれてクローゼットに入る、家じゅうにほこりひとつないように掃除機がかかっている、それから、実父がまさに今晩食べている夕飯は誰が作っているのか、分かっていない。

もちろん、身内の少々の体調不良のために、会社の重役である父にいきなり仕事を休んで家事をしてほしいということまでは思わない。偶然このタイミングで帰省していた私だが、実母が体調を壊した理由のひとつは私と娘の帰省も原因のひとつだったかもしれないと思うから、あまり強くは言えない。

とはいえ第一声が「勘弁してくれよォ」。
あまりにも、だ。なにを勘弁しろというのだ。


母に、「今日は早く寝なね」と声をかけたが、「でもどうしても読みたい本があるの」とピカピカのブックカバーがかかった本を出す。

ここで、私自身も気が付いてしまった。
日中に実母がゆっくりと本を楽しむ時間があってこそ、夜早く眠ろうと思えるのだろうと。そんなことを言ったら「働く社会人は本を読む暇なんてないのに」と反論がきそうで、すべての指摘にうまく返事をしようとすると私ももっともっと向き合わないといけない問題を秘めていそうな気がするが、母は毎日家でひとりで黙々と家事をこなす。365日、いつも。

そんな代わり映えのない毎日の中での唯一の楽しみであり、日々の変化が皆が寝静まった後の読書であり映画なのだろう。

1日1時間~2時間。この娯楽の時間を確保するのがこんなにも難しいほど忙しい世の中とは一体なんなのかと思う。


「大丈夫」の一言が言えない父への怒り止まらず、文字にしてみたが、この怒りを掘り下げれば掘り下げていくほど「男は働き、女は家事をする」というザ・昭和の時代錯誤の習慣に苛立ちを覚える私なのだった。

笑って流した実母の笑顔がかなしい。


2020/07/13 こさい たろ


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写真は呼吸 <こさいたろ>
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