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ママが日傘をさして歩いた日


実母に子守りを頼んで、ひとり手ぶらで歯医者に出向く。

いつもより少し早めに化粧を済ませ、朝9時すぎに家を出た。午前中とはいえ、梅雨があけて本格的に夏がスタートした今、日差しはそれなりに強い。

すれ違う“朝の散歩中”のママ達は皆、つばの深い帽子をかぶってベビーカーを押していた。中にはアームウォーマーをつけているママもいる。ベビーカーの重さが平均3~5kg、そこに5~10kgの子どもを乗せるのだから、その総重量はお察しの通りである。雨が降らない限り基本的にベビーカーは両手で押すものだ。

今日、ひとり身軽なわたしは久しぶりに日傘をさして歩いた。かばんの中身も財布とハンカチだけ、だったつもりがつい母子手帳ケースまで入れていた。母子手帳はどこに行くにも必ず携帯するようにと言われて常に心掛けていたのだが、あくまで「子どもと一緒に携帯すること」が大切なのであって、娘が留守番しているというのに母子手帳だけ持ってきてしまうところが我ながら滑稽だった。

治療は待ち時間を入れてもほんの30分で終わる。
たいした症状ではないのだが(知覚過敏症)完治まで時間がかかる治療のため、長くて半年ほど定期的に通院しなければならない。治療に痛みを伴わない歯医者の通院というのはなんとも都合の良い必要至急の用事だった。

知覚過敏症の経過を見てマウスピースを調整してもらう。治療費は保険適用で1,000円ちょっと。帰り道、日傘を開いた途端 足取りがついつい浮ついてしまった。

気温は決して涼しくないのに、日傘をさして歩いていることが嬉しくてたまらなくて暑さを感じない。家と歯医者、つかの間の往復時間だが花壇に咲く夏の花や街路樹で鳴いている大きなセミなどたくさんの発見がある。こんなに身軽な時間があったものかとさえ思ってしまった。

帰宅後に私の姿を見つけて嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる娘を抱きしめる。ハイハイとはいえ覚えて1か月も経たないのにお手の物だ。ちなみに留守番中は実母によると「ずっとごきげんだったよ」と。ホッとするようで、どこかさみしいようで、私の母性はわがままである。

蛇足かもしれないが、帽子をかぶって両手で総重量10kgを超えるベビーカーを汗だくになりながら押す時間も、嫌いではない。まだ「あー」とか「うー」とかしか言葉を返さない生後8か月の娘に「暑いね」と話しかけながら歩く時間も、私の人生の中でかえがたいひとときであることには間違いない。

汗だくでベビーカーを押す夏、ひとり身軽で日傘をさして歩く夏。
ママになってはじめての夏を全身で感じながら過ごしたい。

2020/08/04 こさい たろ

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参考リンク:育児をしていたら知覚過敏症になった話

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