4年で10,000人が受診した、無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)の成績
コロナ禍でも急激な伸び
2018年3月から正式にスタートした、「無痛MRI乳がん検診」(ドゥイブス・サーチ)は、丸4年で受診者10,000人となりました。
コロナ禍で、一般の検診が数十パーセントも落ち込む中、逆に伸びを示しました。その上昇ペースに私自身も驚いています。
これは、「痛い」「見られたくない」というつらさの解消が、女性に歓迎されているからだと思います。
NPS(エヌピーエス)と呼ばれるスコアが+30を示していることも、これを端的に物語っています。
TV(「世界一受けたい授業」で2度)や女性雑誌・新聞でも、繰り返し取り上げてくださいました。
癌発見率 は、1000人中 約25人
では、どの程度の乳がん発見率だったのでしょうか。
無痛MRI乳がん検診における発見率は、受診者1000人中、24.8*人でした。
参考までに、X線マンモグラフィ検診における発見率は、 受診者1000人中、約3人です。
なぜ、これほどまでに高いかというと、マンモでは、高濃度乳房の方では写らないことが多いからです。
一方、無痛MRI乳がん検診では乳腺があっても問題なくがんを発見できます。
*最近、4病院の乳腺外科医や放射線科医によりまとめられた 1247人での成績。詳しくは講演動画をご覧ください。
受診者の内訳
受診者の内訳は、2年以上マンモ検診を受けていない人(全く受けていない人を含む)が76%でした。
マンモが苦手な方の朗報になっていることが、データからも分かりますね。
なぜこんなに成績が高いのか
ドイツのクール (Kuhl) 先生が世界各地で行った研究によって、1,000人が乳がん検診をうけると、15人に癌が見つかるということがわかっています。
無痛MRI乳がん検診では24.8人ですから、これをはるかに超えています。
それはさすがに変ですよね。
これは以下のような理由によります。
1000人中15人というのは、リスクが特に高くない人(Average risk / 平均リスク)を対象としたときの割合です。
無痛MRI乳がん検診を受診している人は、2年以上マンモ検診をしていない人が含まれていて、その場合は乳がんリスクは約2倍と言われています。全く受けていない人もいますから、もっと高いかもしれません。
逆に、40歳未満の方も20%ぐらいは受けていらっしゃるので、その方たちのリスクは、下のグラフから分かるように、平均よりは少ないです。これらが混ざっていることになります。
いま仮に、年齢条件を無視して、「1倍リスクの方が24%、2倍リスクが76%」として、概算すると、1000人中26.4人ほど乳がんの方がいらっしゃると仮定することになります。
実際に発見された1000人中24.8*人は、この値をやや下回っていますが、とても良く似た数字です。
このことから、無痛MRI乳がん検診が、従来のマンモ検診(1000人中3人)に比較して、はるかに高い頻度で乳がんを見つけていることがおわかりになると思います。
「社会的実力が高い」
*科学的には上記のような計算や仮定をして、他と比較するときの参考にしますが、実は検診としては、科学的な比較もさることながら、社会的な成績(24.8/1000という実数=見つけていること)が重要です。「今まで受けてもらえない人に受けてもらってがんを見つける、社会的実力」という意味があるのです。こうした捉え方は、「別解力」のひとつでもあります。
マンモには意味がある
しかし、40歳以上の方を対象として行なわれている対策型検診(国が行っている無料検診)には、しっかりと意味があります。
なぜかというと、無料であることに大きな意義がある*からです。無料というのは素晴らしいことで、誰でも受けられるという大きなメリットがあります。
さらに、受診することによって、自分の乳房に関心を持ち、触れるので、自分自身で乳癌を発見するきっかけを与えてくれるからです(ブレスト・アウェアネス)。
マンモは検診の精度がきちんと全国で管理されていることも、良い点です。
5世帯に1人?
いま、9人に1人が生涯で乳がんにかかるようになりました。
これだけでも、驚きの多さですが、
「娘さんとお母さんがいる家族では、5世帯のなかで1人か乳がんにかかることだ」と聞けば、本当に身近なリスクであることがおわかりになると思います。
こんなに頻度が高い乳がん。
痛い人、辛い人は、もう我慢しなくて良いので、どうぞ無痛MRI乳がん検診をお受けになってください。世界に先駆けて日本で実現しました。
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*マンモも最初は無料ではありませんでした。多くの研究や受診者の協力により無料化されました。
**詳しくは講演動画をご覧ください。
高いけど、高くない
無痛MRI乳がん検診は、レポートがすごく充実しているとはいえ、2万円ぐらいはするので、出費が大変です。
「高原先生はお金持ちの人だけを相手にしているの?」と言われたこともあり、これはショックでした。僕の両親は働きながら夜学を出たりして、苦労人だったから。
たしかに2万円は、一回で払うととても高いお金です。
でもサブスクで考えると、実はかなり安いんです。下をご覧ください。
女性がお化粧品にひと月4500円程度使っていることと比較すると、
無痛MRI乳がん検診の「月額900〜1800円」は、
「お金持ちの人だけが受けられる高額なもの」ではない・・・
のは、わかっていただけると思います。
進行した乳癌が見つかったら、働くことはなかなか難しくなり、収入は確実に減り、また病院に通うための費用も発生します。それは2万円とは比べ物になりません。
「今」受けようと慌てずに、自分の大切な乳房を守るために、「一年後に受けるには」と考えて月々の出費を計画されることも、ひとつの方法だと思います。
残りの10人はどうなるか
前述したように、1000人の受診者の中には、乳がんの方が15人います。
このうち、3人ぐらいはマンモで見つけることができて、エコー(超音波)を足すと5人ぐらいは見つけることができます(合わせるともう少し見つかることが期待されます)*。
*30,000人以上で調べた日本発の有名な研究(J-START)
では、5人見つかるとして、残りの10人はどうなるのでしょうか?
その方たちは、マンモ・エコー検診で「異常なし」と診断されていますが、本当は乳がんが存在します。
この10人のうち、5人は、次の検診を待たずして、自分の乳房に異状を感じて病院に行き、そこで乳がんと診断されることになります。
「異常なし」と言われているので病院に行くのが遅くなったりしますし、また自分で分かるようになるのがだいたい2センチぐらいと言われていますので、(2センチを超えると)進行がんで見つかる可能性が高いことを意味します。
これは、「検診と検診の中間に発生した癌」ということで「中間期癌*」と呼ばれます。
*詳しくは講演動画をご覧ください。
なお、よく「あそこの病院でマンモを受けて、異常なしと言われた。でも後で乳がんが見つかった。ヤブ医者だ」ということを聞きますが、
そうではなくて、もともとマンモに写っていないのです。高濃度乳房だと隠れてしまって見つからないという、物理的な限界や特性があるのです。
ですからそのお医者さんがヤブ医者だと決めつけるのは気の毒です。
画質が大切
私は、この検診の根幹をなす撮影法(ドゥイブス法(DWIBS法))の考案者です。
私は、医師(放射線科医)ですが、MRIのスキャン(つまり技師としての働き)も出来ます。また企業と開発ができます(つまり開発者としての働き)。
この3つが重なってはじめてこの高精度の乳がん検診を実現できました。患者さんとのやりとりには、最初小児科医だったことが生きています。
今回ご紹介した高成績を得るには、機器の調整や画質の監視が大切です。
詳しくはホームページを御覧いただきたいですが、MRIにも、DWIBS法に適したものとそうでないものがあるのです。
将来的にはどの会社のMRI装置でも出来るようにしたいと思って努力していますが、現時点では吟味して行わないとなりません。
都内でも似たようなサービスをしているところはありますが、私が自信を持っておすすめできるのは「ドゥイブス・サーチ(DS)」だけです。
似たサービスで経験した、病変の見逃し
先日、ある方から「これを受けたんです!! ありがとうございました!!」と言われました。
聞いてみると、ドゥイブス・サーチ(DS)の病院ではありませんでした。
「異常なし」だった、とのことでしたが、心配になり、DSの病院を受けていいただきました。
そうしたら、所見があるのです。それもひとつではなく、複数箇所に認められました。
前の病院(DS以外)の画像では写っていないのかとショックを感じて、見せていただきました。
そうしたら、画質は悪いけれど、一応は写っているのです!
しかし、2名の画像診断医は、「異常なし」としていました。
えええ〜っ、と、愕然としました。
でもこれは、読影医の見逃し、ということとは、すこし違っていると感じています。
いつも画像に常にアーチファクト(偽像)があるので、「多分偽像であり、病変ではない」と思ったのだと思います。でないと「見逃し」以外に説明が付きません。
「異常があっても指摘されない」・・これを目の当たりにしてしまい、画質を軽視すると、こういうことになるのだと、改めて思いました。
やはり画質をしっかりといつも管理することが大切だと思っています。
過剰診断
ところが、検診でがんを見つけることは必ずしも良くないという意見もあります。あまり組織学的に怖い癌で無いもの(成長がとても遅い癌)も見つけてしまうと、手術をしてしまうから、不幸にするということです。
これは大切な考えです。ただ、ひとつ賢く考えるべきなのは、「過剰診断」という名前だけれども、実際に害を生じるのは「過剰治療」になるときです。
低悪性度のがんと診断されたときは、注意しながら様子を見ることも選択肢に入るので、それを知っておくと良いと思います。実際に治験も行われています。
ドイツのKuhl(クール)教授は、マンモは確率的に過剰診断の割合が多く、造影MRIは過剰診断の割合が少ないことを示しています。
無痛MRI乳がん検診は、非造影ですから、過剰診断の割合が低いとまでは証明されていません。
しかし、造影効果があること(血管が豊富なこと=造影MRIで写る)と細胞が密になること(無痛MRI乳がん検診で写る)ことに相関があることは既によく知られた事実ですから、同じような良いプロファイルを持つ蓋然性はきわめて高いです。
また、この検診には、造影MRIが持つ、「BPE」と呼ばれるやっかいな過剰造影(病変に見えてしまう)の問題もありません。これは偽陽性の減少に寄与します。
「症状があるなら乳腺外科へ」 の問題点
従来、「症状があるときは検診ではなくて、直接乳腺外科へ」 と言われていました(今もそうです)。
しかしこれは、なかなかに困難です。
受診者にとっては、
・混んでいる。
・痛いかも。
という思いがあり、とくにコロナ禍の今は、受診もままなりません。
乳腺外科医にとっては
・めちゃくちゃたくさん患者が来る。
ので、実際にさらに患者が来ると爆発してしまう、というジレンマがあります。
この無痛MRI乳がん検診では、
・予約できる(混雑する場所で待つ必要がない)。
・自分でおかしいと思うところを問診で書いておくと、レポートでお返事をもらえる。
という良い点があります。
最初は私も「まず乳腺外科へ」と言っていたのですが、受診者も先生もあまりにも大変なので、無痛MRI乳がん検診ファーストでも良いと思っています。
そうすれば、異常が実際にある人だけをご紹介できるからです。
最初は批判的だった乳腺外科の先生も、10例、20例と経験すると、実際に癌の方が多いことに驚かれ、意見を変えてくださるようになっています。
このことは進行形ですから、また機会のあるときに書きたいと思います。
御礼と、これからの活動
いま、無痛MRI乳がん検診は、最初の4病院から、34病院になりました。いわゆる営業はこれまでしてきませんでした。
営業無しでもこんなに増えたのは、学会などで聞いてくださった医療関係者の方が、導入してくださったためです。
エビデンスを語るよりも先に、自分の目で見て本物だと思い、あるいは、本当に大切だとわかり、まず実践してくださったことによってここまで来ました。
この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
すべての県のみなさんに届けられるようにしたいと思っています。そうすると生命保険のサービス(割引など)の対象になり得るのです。
今後、病院数が増えていくに従い、最終的には認知されて、私の寿命が尽きるころには、エビデンスになることと思います。意外と早く、自治体の補助が出る日が来るかもしれません。
提携してくださる病院が増え、みなさんが受診して下さることで、ゴールに近づいて行けると思います。これからもご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。