電気自動車の人は雪の立ち往生で「凍死」しない💦
日本海側の豪雪による立ち往生や渋滞のニュースに伴って「電気自動車(EV)なら凍死する可能性すらある。まだまだ危ない」という意見がたくさん出ています。
有名な自動車評論家も書いていますね。
全くの誤りです。
どうして誤りなのか、説明します。そのために、まずガソリン車のほうが先にアウトになることを説明します。
ガソリン車の「タダ暖房理論」は、走っているときだけ成り立つ
良く「ガソリン車はエンジンをかけている排熱で暖房ができるからタダ」と言われますよね。
確かにそのとおりなんです。
走っている限りにおいては、その熱を利用するので、暖房はタダです。
だけどこれは、「ガソリンエンジンの熱効率が悪い(大量の排熱をだしている)ので余熱として利用できますよ」ということでもあります。
ゴミ焼却場のそばの余熱利用プールと同じで、「せめて無駄にしないように」という利用法です。
そしたら、雪国の交通ストップの渋滞でも、タダなんでしょうか?
アイドリングストップを思い出して!
皆さんの車、新しめのものだったら、「アイドリングストップ」がついているでしょう。
信号待ちで止まっているときにエンジンをかけていると、ガソリンが無駄だから、ストップするんですよね。
雪の立ち往生ではどうですか? 車が進めないのですよね。車、止まってます。
だったらアイドリングストップしたいですね。
でも、できません。なぜか。
暖房しないといけないからです。
タダどころか、逆にものすごく無駄な暖房をするシステムに変わるんです。
すごく重い、金属でできたピストンなどの部品を上下させて、1〜2トンの重さの車を動かせるぐらいの大きな仕事を「アイドリング」として無駄にさせて、一部を暖房に流用するわけです。
アイドリングは、毎時1リッターのガソリンを使い続ける
アイドリングでどのぐらい消費するかは、排気量2000ccの車だと1時間あたり780ccとされています(一般財団法人 省エネルギーセンター)。これはニュートラルかつエアコンOFFのときで、Dレンジ・エアコンONでは毎時1.5L消費なので、ざっくり毎時1リッターと考えましょう。
もしガソリンが20Lしか残っていなければ、1日も持たない、ということです。その後は暖房ができません。
だからって凍死・・・しないと思いますけどね。
(だって道路で渋滞なら、他の車がいっぱいあるじゃないか)
「電気自動車(EV)で暖房できないと凍死する」って思うなら、ガソリン車でも凍死するかもしれない、ということには、なります💦
ハイブリッドでもアイドリングのガソリン消費は同じ
あなたの車、ハイブリッドかもしれません。
効率、いいですよね。燃費、いいですね。
でも、それは、走っているエネルギーを上手に回収するから、燃費がいいんです。(回収には電池を使います)
実は、走っていなかったら、ハイブリッドも、普通のガソリン車も効率は全く同じ。
ハイブリッドだったら、排気量が小さめだから、1400ccぐらいかもしれません。排気量2000ccよりは少ないけど、それでも、毎時0.5〜0.7Lぐらいずつはガソリンが減ることになります。
電気自動車は全く違う
電気自動車は全く違います。電気自動車は電気を蓄えているので、その電気を使うことができます。
その電気で、暖房することができます。
え? 電池が持たないですって??
はい。もし車の部屋の暖房をすればね。たしかに電池は大して持ちません。
でも、凍死を避ける方法があります。それもめちゃ効率的に。
電気自動車は、シートヒーターや、電気掛毛布を使える
電気自動車のほとんどには、シートヒーターが装備されています。このシートに必要な電力は100W。(強弱も普通はあって、弱なら40Wぐらいです)
もし電気自動車の電池がいま20kWh(キロワットアワー)しか残っていなかったとしましょう。そしたら、20000Whぶんあるってことです。
20000÷100=200時間
つまり、200時間分(一週間!)もシートを温める事ができるんです。
シートが温かいのに凍死、します?
シートだったら寒いですか。はい、それならこんなのを買っておきましょう。2500〜3500円ぐらいでいろんなのがあります。
これも40〜80Wぐらいしか消費しません。じゃぁ贅沢に、シートヒーターと、掛毛布の2つ、全力最強で使っちゃいましょうか。ぬくぬくになった上で、
20000÷180=111時間
うーんと、4日半ですね。
電気自動車はエンジンをかけなくても電気を供給できる
電気自動車には、アイドリングストップのような余計なしかけは要りません。電気を必要なときに瞬間的に取り出せます。
部屋(車室)の暖房をすれば、すごい無駄だから、それは緊急時にはしないほうが良いです。
暖を取るには、シートヒーター+普通の毛布、あるいはシートヒーター+電気掛毛布で十分です。「凍死する」といった極端なことを考えるんだったら、なおさらそれで十分すぎるくらいです。
こういう条件なら、4日でも7日でも持たすことができます。
「凍死」は、知らないものに対する想像でしかない。
電気自動車だったら凍死する、という論調には、シートヒーターのことが全く触れられていません。知らない人が書くと、そういうことになります。
シートヒーターがもし装備されていなくても、電気毛布を買っておけばそれですみます。
実は、凍死するかどうかなんて、電気とも関係なく、ただの毛布があるかどうかが一番大きかったりします。すごく極端な意見が正しいように聞こえてしまうのは、まだ多くの人が電気自動車を使ったことがなくて、経験が少ないからなんです。
ガソリン車の一酸化炭素中毒死こそ知っておくべき
ガソリン車でも電気自動車でも、燃料(電気)がなくなれば暖房はつかなくなります。それで凍死したというニュースは、あまり聞かないですね。
でもガソリン車の一酸化炭素中毒死は、遥かに頻繁に起こります。降雪が続くときに、雪が排気管(マフラー)を塞ぐと、車内に一酸化炭素が充満して死んでしまうからで、実際にこのような事故が何度も起こっています。以下は日経2018年2月の記事で、3人が亡くなっています。
一酸化炭素中毒を防ぐには、降雪がひどいときは頻繁にマフラーのあたりの雪かきをしておかないとなりません。ガソリン車に乗っているなら、決してぐうぐう寝入ってはなりません。それは死に直結します。
電気自動車では、何かを燃やしてはいません。だから一酸化炭素中毒が起こる確率は、「ゼロ」です。その意味ではとても安全です。
もっとよく知ろう
電気自動車は、乗っている人がまだ少ないので、どうしても怖い感じがします。でも、北国のノルウェーは、2020年の新車販売の半分以上が電気自動車(日経リンク)でした。国全体で、ですよ。
利用者が増えるにつれて、正しい知識が身についてくると思います。もちろん電気自動車ならではの欠点もありますが、今回の「凍死」は、事実とは全く違うのだということを、書いてみました。
(文:高原太郎 / 東海大学工学部 医用生体工学科 教授)
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注:
本論では、超厳寒時のバッテリー性能低下(最大で2割程度)は無視していますが、それを考慮してもガソリン車よりずっと長く暖房ができることには変わりありません。バッテリー容量は、いまの主流(40〜60kWh)の1/2〜1/3程度が残っている状況を仮定しています。100kWhのものもあり、それだと、1/5に減った状況に相当します。
余談ですが、暖かくなるまでの速度(空調の立ち上がり)も違います。ガソリンエンジン車は、エンジンをかけてから5分ぐらいしないと暖気が出ません。電気自動車は暖房方式にもよりますが、電気ストーブと似ていて、おおむね1分以内に暖気が出て、すぐ温まります。最近では、部屋の中からスマホで暖房をONにできる車もあります。
なお、「ガソリン車でもシートヒーターがあればいいのですか」という質問をもらいました。これはダメなんです。電気を起こすのにエンジンを使うことは同じなので、シートヒーターがいくら効率的でも、アンドリングが必須で、同じかそれ以上のペースでガソリンを消費しつづけます。