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- 最新医療のカギは光?話題の「光免疫療法」とは何か?

昨日は、「第1回がん死ゼロ健康長寿社会 膵がん診断・治療シンポジウム」にお招きをいただき、講演をして参りました。この会の特徴は、専門医の講演を、患者さんにもあますところなくお伝えすることです。このため患者さんも多数参加されていました。


お招きくださったのは、放医研の小畠隆行先生。MRIの黎明期からお互いに研究を続けてきた同世代の研究者です。私自身、多くの研究者、また患者さんと知り合うことができ、とても収穫が大きかったです。改めて御礼を申し上げます。

小畠隆行先生(左)と筆者
自分の講演風景(DWIBS法が造影CTより安価であることを説明している

さて本日の特別講演は、最近マスコミでも取り上げられ多くの方の知るところとなった「光免疫療法」の小林久隆(こばやし・ひさたか)先生。もともとは放射線科医である小林先生とは古くからの知り合いで、僕がオランダに行っている時(2007-2010)から、研究中の新法の評価についてDWIBS法(ドゥイブス法)が使えないかという議論をさせていただいていました。

初期の段階で得られた、「がん細胞のみが破裂する動画」を見せていただいたときは、椅子がひっくり返るぐらいびっくりした覚えがあります。のちのオバマ大統領の一般教書演説(2012年)でこの研究のことが紹介されたのも本当に驚きました。

その後私は三木谷浩史さん(楽天会長)とDWIBS法に関連してなんどかお目にかかっておりましたので、三木谷さんが光免疫療法の特許使用許諾を得たときも「これで日本でも将来可能になる」と、とても興奮した覚えがあります。特別講演の座長を担当された東 達也先生(放医研)のお計らいで、特別講演前の控室でお話をさせていただきました。

小林久隆先生(右)と筆者(左)

光免疫療法はかなり有名になりましたから、「がん細胞をすごい方法でやっつける」ところについてはよく知られています。しかし免疫を強くするところ(=免疫療法の側面も持つ)についてはまだあまり詳しい解説がウェブ上にないと思うので、この機会にここで説明をします。

光免疫療法とは何か。どうやってやっつけるのか。「光」の意味は分かっているが、「免疫」の意味はなにか。

1) 普通の抗がん剤

皆さんは「抗がん剤」という名前はよくご存知だと思います。抗がん剤を投与する治療法は一般に「化学療法」と呼ばれています。英語ではChemotherapy(ケモテラピー(セラピー); ケモは化学、テラピー(セラピー)は治療)といい、医学関係者の間では「ケモ」「ケモテラ」、カルテ記載ではCTxと書いたりします。

さてこの抗がん剤治療(ケモテラ)は、古典的には、細胞分裂に悪影響を与えるような、いわば「細胞一般にとって邪悪なもの」を投与します。普通の細胞は、いわば「足るを知る」人なので、新陳代謝のために必要な分だけ、ちょっとずつ分裂・増殖します。これに対して、がん細胞はめちゃくちゃに、人の迷惑も顧みず自分だけの利益のために果てしなく増殖するという迷惑な人です。正常細胞よりも遥かに高頻度に分裂を繰り返します。

通常の抗がん剤では、がん細胞のみならず、正常細胞もダメージを受ける

ですから細胞分裂に悪影響のあるクスリ(抗がん剤)を投与すると、がん細胞にとくに大きなダメージが生じて、分裂できなくなり、最終的に死に至るわけです。まあこれで良いと言えば良いわけですが、正常細胞も分裂ができなくなりますから、新陳代謝(細胞分裂)が盛んなところ、たとえば髪の毛などは最初にやられてしまいます(脱毛)。しびれ・味覚障害・倦怠感・下痢など、抗がん剤の種類によって強く出る症状は様々ですが、ある意味、本当の悪者(がん細胞)をやっつけるために、身をすり減らして行う治療法とも言えます。

実際の臨床では、このような症状(副作用)がなるべく少なくなるよう、主治医の先生がさまざまな配慮や対策をいたします。

2)分子標的薬

普通の抗がん剤は、原理上副作用がかなり出てしまうわけですが、がん細胞をよく見てみると、注目すべき点があることがわかってきました。がん細胞の表面にはいろんな特徴があります。たとえば、乳がんのなかのある種類のものは、がん細胞の表面に「HER2(ハーツーと読みます)」と呼ばれるタンパク質が存在します。

このHER2は、がん細胞の表面にいて、「増殖しなさい!増殖しなさい!」という命令を激しく、のべつ幕なしに出しています。ですから、このうるさいHER2のところに行って、「おしゃべりやめなさい!」と止めさせたら、増殖が止まりますね。これが「ハーセプチン」という名前のお薬です。HER2に対して(のみ)作用するので、「抗HER2療法」と呼ばれています。

HER2 のところをブロックするので、がん細胞に選択的に効く

こういった、がん表面の特別なタンパク質を狙い撃ちするお薬を一般に「分子標的薬」と呼びます。ひと昔前までは、こういったことを知らずに、抗がん剤を使っていましたが、上手に使い分けることができるようになってきました。最近では患者の遺伝子解析も用いて治療選択に用いるようになってきており、こういったことはプレシジョンメディシン(精密医療)パーソナライズメディシン(個人別の医療)などと呼ばれています。

3)分子標的薬の限界

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