悪い男

久しぶりに再会したあの日から
1週間後、私はまた彼に会った。
今度は2人で。

実はこの間会った話を
会社の仲のいい同期2人に話をしていた。
すると彼女たちは今すぐ2人で飲む約束を
入れなさいと言ってきた。
私は戸惑った。
そんなことをしてもいいのか。
でも2人で会わないと進まないし意味がない
これは私もわかっていた。
同期2人の力とお酒の力を借りて
彼をすぐに誘い、1週間後にまた私は会った。

お互い仕事終わりだった。
私の会社近くまで来てくれて
待ち合わせをして会った。
2人で会うのは初めてだったからドキドキした。
大げさかもしれないが
胸がはち切れそうなぐらいには
ドキドキしていたと思う。

彼は少し顔が赤かった。
聞いたところ、上司に付き合わされて
缶ビールを飲みながら帰ってきたのだと。
そのあと飲みに誘われたらしいが
私との予定があるからと断ったと。

私はふーんと聞きながら内心うれしかった。
私のために上司の誘いを断ってくれたから。

ごはん屋さんは彼が以前行ったところの
和食系の居酒屋に連れて行ってもらった。
席は半個室だったが、畳1畳もないぐらい
狭い部屋だった。

彼は私に「こんなに狭くて大丈夫?」と
言った。
でも他に空いてる席もないし、その日は
週末だったし、何より私は緊張はするけど
嫌ではなかった、むしろチャンスだと思った。

お店には2時間半ぐらい滞在した。
こないだは仕事の話しかしなかったが
この日は仕事の話から家族の話まで
たくさん話をした。
こんなに話が絶えないとは思わなかった。

彼は色々なことを知っていて
私にもいいことから悪いことまで教えてくれた。

お酒や食にも詳しく、この日も日本酒の飲み方を
教えてくれた。
辛口や甘口飲みやすいものをたくさん教えてくれて
日本酒には「カツオが合うから一緒に食べな」と
彼は言った。
「日本酒は酔いやすい分、お水を飲んだら
すぐ抜けるから、一緒に飲みなね」とペースが
だんだん早くなってきている私に気を使ってくれた。

閉店ギリギリまでいた私たち。
正直楽しすぎて帰りたくない気持ちもあった。
でも彼は明日も朝から仕事だし
男女が朝までいたら何が起きるかわからない
だから終電で絶対に帰ろうと決めていた。

「いくらですか?」と私が言うと
「いいよ、いらないよ」と彼は言った。

でも先週もほとんど支払ったのは彼だったし
ちょっとでもいいから出したかった。
そのことを話ししたら
「じゃあ2軒目で払うってことで」と彼は言った。
2軒目に行くと言っても時刻は23時前。
終電で帰るとなるとタイムリミットは30分。
迷っていた私は流されるまま
2軒目のカラオケに向かった。

正直、私は男の人と2人でカラオケは嫌だった。
密室で友だちとはまた別の緊張感があるし
何より怖いと思ったからだ。
ましてや、この日が初めて男の人と2人で
カラオケに行ったから余計に怖かった。

カラオケは深夜ということもあり
前金制だった。
飲み放題 + 室料の支払いで
意外と値段が高くなってしまい
彼が気を利かせて半分出してくれた。
部屋に入り、お互い好きな曲を歌うことになった。
彼は私たちの年齢が6個離れているから
ジェネレーションギャップが出てきてしまうのでは
ないかと気にしていた(笑)
私的にはその辺りはあまり気にしていなくて
むしろ私も最近の曲より昔の曲とかの方が
歌うから大丈夫かなと思っていた。

彼は知ってる?と言いながら
ORANGE RANGEの『花』を歌った。
当然私も知っていた。
世代は少し違うがドラマも知っていたし
こういう曲を歌うのかと聞き入った。
彼の歌声は少し癖があったが
力強くて聞きやすかった。
今でもこの曲を聞くと彼を思い出す。

次は私の番だった。
こういうときに好きな曲とか歌いたい曲とか
全然出てこなくて、どうしようか悩んでいたが
変に歌ったことがないものを歌うより
歌い慣れている方がいいと思い
AAAの『恋音と雨空』を入れた。
歌い慣れているからこの曲を入れたはずが
イントロから自分とリンクする歌詞が流れてきて
少し恥ずかしくなった。
彼は「上手いね」と言いながら聞き入ってくれた。

そのあとも何曲か歌った。
ちょっと困ったのが、2人で飲んでいるのに
しかも私はそのときジュースを飲んでいて
酔いが冷めてきていたのだが
彼は 大塚愛の『さくらんぼ』を1人で歌い
コールをし始めた。
私自身、飲みゲーを飲みの場であんまり
やることがなかったから、ちょっと困った。
そしてちょっとシラけた、、笑
彼は一生懸命、場を盛り上げようとしてくれたのかなって思ったので私はとりあえず笑って誤魔化した。

そろそろ帰ろうかな、なんて思い始めて
電車を調べていたら、タイミングが悪く
電車が運転を見合わせていた。
時刻は23:30。あと15分で終電がなくなる。
でもおそらくもう朝まで動かないかもしれない。
彼は家がそんなに遠くはないから
タクシーを使って帰ることもできるが
私は少し遠いからタクシーを使ったら
とんでもない金額になる。
彼に焦ってそんな話をしたら
じゃあ朝まで遊ぼう、となった。

このときの私は "彼と朝までいる" という意味を
わかっていなかった。


つづく

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