#15 空を駆ける鉄道。
ポーーーーッ!!とこだまするSLの汽笛。
遠くからでも聴こえる汽笛は、少しずつ近づいてきているのがわかる。
こんなにも居場所がわかる列車はあるだろうか。
でもこんなに人間くさい存在も、最近では見なくなった気がする。
登り坂では一生懸命煙を吐き、どんな坂、こんな坂、と意気込みながら走る。
中では石炭を焚べ、SLが蒸気を作るためにエネルギーを与える。
それに応えるようにSLは走る。踏みしめるように走る。
どこか人間のような地道で、ひたむきな感覚が感じられて、道具とは思えない感覚。
鉄道ってこうあって欲しいよね。と乗るたびに思うものである。
会津地方は快晴。
抜けるような青空の下、カメラマンたちが主役を待つ。
遠くからポーッと聞こえると、直前の駅にそろそろ着くのかな?なんて話が聞かれ、長く力強いポーーーーッと聞こえると、そろそろ来るぞ。とシーンと静まる。
黒い煙が先に見え、走り抜けていく姿が気持ちいい。
青空を背景に自然の中を走るSLは、まるで生き物のように活き活きとしているように見えた。
下手したら人間よりも生き物らしい感覚で、この空気、景色を感じているかもしれない。人が忘れてしまった感覚を、人が作りしものが思い出させてくれるような気がした。
しかし、人は機械にも目を向けなくなりつつある。職人と一心同体の道具たちすらも見なくなっては、いよいよ人間のアカシックレコードの一部すら、失ってしまうのではなかろうか。
人は様々なものを壊し、そこに創造してきた。
ただ、そのまま新たな破壊と過去の否定を繰り返していくのだろうか。
これからは何を肯定するか。肯定の仕方を忘れたか。
過去に囚われるのはもちろん違う。何か大事なものを無かったことにする気がして、今を見るのが悲しい。
温故知新。伝統と先端。過去があっての今であることを忘れてはいけない。生きていく中で大事な何かを残すことをしていかねば。
SLの煙と残り香のように。
『空を駆ける鉄道』Photo by Taromaru
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