#26 SLが魅せるシネマ
12月の下旬。世間はクリスマス。
SLは雨が降りしきる中、会津若松から一路新津へと向かう。
力強い鼓動とレールのジョイント音をBGMに、ゆっくりと流れる車窓を眺める。
なんてゆっくりした旅なのだろう。
せわしなく停まったり動いたりすることもなく、新幹線のように急ぎすぎることもない。
トンネルが近づけば、ボックス席の窓側の人が煤だらけにならないように慌てて窓を閉める。
「危なかったですね。顔真っ黒になりますもんね。」
そんなことから、見ず知らずのボックスの相席の人と話を楽しむ。
隣のボックスからも
「昔なんかもっといろんなとこから煤が入ってきて大変だった!」
なんて、お酒の入った陽気なおじさんが話しかけてくる。
ここには昭和のノスタルジーが残っている。そんな人間くさい旅が好きだ。
少し走ってすぐに日没の時間。
あたりは暗くなり、SLの車内の電灯が周囲を照らす。
「次の駅で15分停まります!記念写真などはいかがでしょうか?」
その車掌の放送を聞いて、乗客は皆傘を片手にホームへ。
先頭のSLと写真を撮るべく、子どもたちも大人も勢いよく飛び出していく。
一通り写真を撮り終わり、車内に人が戻っていく。
どうやら自分が最後のようだ。
戻ろうとすると、SLの煙と光が傘をさす車掌を演出する。
映画のワンシーンのような画がそこに広がっていた。
まるで自分が車掌とその脚本の中にいるかのように、SLはしっかり作品の作り出すスローな世界へと導いてくれた。
私のこころのディスカバー。
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