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憂鬱な専務の裏話

 本稿で言うところの「憂鬱な専務」は、こちらのショートショートになります。

 実はこの話は、元ネタがあり「憂鬱な専務が世界を回す」という作品のリライトでした。

 タイトルは「陽気なギャングが世界を回す」のオマージュです。

 そして、「憂鬱な専務」はもともとは、拙著「光流るる阿武隈川」の外伝として執筆したものになります。

 本作の粗原稿を読んでいただいた方から、登場人物の一人である
「中村の活躍をもっとみたい」
という感想をいただき、エピソード(主人公とのデート)を追加しました。本作から引用します。

 その日の二人は、東京都中央区人形町で働く先輩を一緒に訪問した。本社ビルを出たところで、里美が提案した。
「ちょっと早いけど、せっかく東京まで来たし、お昼をこの辺で食べていく」
「親子丼が食べたい」
「いいよ。今日もお世話になったし、お昼代は私が出すね」
ランチだし、親子丼ならそう高くも無いだろうと考えて、里美は少し安堵しながら応えた。来る前から、今日のお昼代は出すつもりだった。
「そういう訳にはいかない。俺も練習でお世話になっているから、俺が出す」
「なぁに、男だから出さなきゃいけないとか考えているの。そういうのは、今時流行らないから、割り勘にしようか。相手が彼女とかなら奢るのも有りだと思うけど」
隆夫は黙って頷いた。

 そうか、やはり私は奢るような相手ではないのね。
 自分で割り勘を提案したものの、少しがっかりしながら店内に入り、大勢の客で賑わう座敷でメニュ―を見て、里美は驚いた。
「隆夫君、これ見て。「川俣シャモの親子丼」だって、川俣って、知らないと思うけど、東和町の隣にあるんだよ」
「知っている、川俣シャモを食べるために、この店に来た」
確かに、隆夫は最初から店を決めていて、本社ビルから迷わず、この店に歩いて来た。
 ということは、もしかして、私が東和町出身ということも、この店で川俣シャモを出すことも、知っていて連れてきてくれたということなの。
「ここは親子丼発祥の店。江戸時代、船荷を扱う船頭たちに、美味しくて栄養がある食事を食べさせたいと考えた女将が、親子丼を創ったと言われている。船に乗る俺たちに相応しい」
ぞんざいな話し方だが、声は弾んでいる。
そんなことも調べていたの。そうか、そういう人だから、部員に的確な説明ができるのか。普段から、いろんなことを調べたり考えたりしているのね。
 ふわトロの卵に包まれた川俣シャモの親子丼は、出汁が良く効いており、優しくて滋味豊か、懐かしい味がした。里美の心に、故郷の風景、家族の笑顔が浮かぶ。
「美味しい、凄く美味しい。お肉も卵も」
「喜んで貰えて嬉しい。確かに旨い」
二人に笑顔が生まれる。
「地元だとね、親子丼だけじゃなくて、焼き鳥とかスモークはもちろん、ラーメンとかメンチカツとか、色んな料理が食べられるよ。いつ…」
話の流れで「いつか、一緒に食べに行こう」という言葉を口にしそうになった里美は、慌てて味噌汁で口を閉じた。その姿を隆夫は笑顔のままで見つめていた。里美が、胸に熱を感じたのは、味噌汁の熱さが原因か、それとも隆夫の笑顔のせいか。

福島太郎著:光流るる阿武隈川

 そして、このエピソードを追加した後、
「この隆夫をもう少し使いたい」
という気持ちが沸き上がり、
「けど、あんまり隆夫の出番を増やすと、焦点がぼやける」
という気持ちもあり、【外伝】という位置づけで、隆夫の勤務先のエピソードとして「憂鬱な専務」を執筆したのです。

 なお、隠れ設定として、中村は東京都中央区人形町に本社がある大手紡績会社「富士坊ホールディングス」に、数年間勤務していたので、その時の知識・経験・人脈が斎藤織物での仕事に活かされました。
 そして、私は「富士坊ホールディングス」が製造・販売している肌着BVDを十数年愛用しております。

 人形町にある親子丼の名店「玉ひで」さんは、東日本大震災が発生するまで「川俣シャモ」を材料として使用して、メニューに掲載していたことは実話です。昔、私も食したことがあります。
 また、「玉ひで」さんは、川俣町への支援として「玉ひで監修の親子丼レシピ」を川俣町に伝え、「玉ひで」の名前を使うことも許諾されているようです。

 なお、「憂鬱な専務」については、川俣町にある「斎寧織物」さんの「フェアリーフェザーの話をベースにしています。

 ということで、私よりも文章が巧みな方は、星の数ほどいると思いますが「富士坊ホールディングス」さん「玉ひで」さん「斎寧織物」さん、それに「横浜シルク」や「カヌーと船頭」まで繋げるような「変態」といか「馬鹿」は、そんなにいないとも思うのです。

 馬鹿な自分だから描ける世界をこれからも回していきたいと考えています。
#何を書いても最後は宣伝
 こういう裏設定も含め、この作品が大好きです。


 
 

 

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福島太郎
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