【駄文】講道館の思い出
何度かお越しいただいている方は御承知のとおり、私は柔道経験者であり、2011年から2012年にかけては、聖地「講道館」で稽古をしていたこともありました。この講道館の伝統的な行事に「寒稽古」と「月次試合(つきなみじあい)」があり、ちょっと自慢しますが、寒稽古については2年連続で「皆勤賞」をいただきました。まぁ、「だからどうした」という話ではあります。
また、講道館には「春日柔道クラブ」という、小中学生を中心とした柔道教室も開催されており、同じ大道場で稽古をすることもあったのですが、「春日柔道クラブ」でも、一際大きな体躯で目を引いたのが、背中に「ウルフ」というゼッケンをつけた中学生でした。
講道館で稽古をする社会人同士では、グループ的に稽古をする方も入れば、私のように「フリー」で参加し、自由に相手を探して乱取りをする者もいましたが、さすがの私も中学生と稽古をしようとは思わず、ウルフ選手を遠目に見ていただけでした。が、ちょっとモノが違う。という印象はありました。
また、「月次試合」というのは、昇段に向けたポイントを獲得するための試合で、ほぼ毎月、段別による試合が開催されるのですが、一般的なトーナメントやリーグ戦ではなく、選手名をアルファベットで表記すると
A B C D E F G H I J K
のように、選手名が横一覧に掲げられ、初戦は A選手対B選手が試合をして、以後、勝った選手が残り、右に名前があるC選手、D選手と順に試合をします。引き分けの場合は、二人とも試合場を去り、新たな二人で試合をします。
勝てば1ポイント、引き分けで0.5ポイントとなり、初段から2段に昇段するためには4ポイントが必要になるのですが、この組み合わせが良くできていまして、早い段階で試合をする左の方になるべく弱い選手を配置することで、弱いながらもポイントを獲りやすくなっています。ただし、少しポイントが溜まると、中盤の強い選手のところに配置されて、昇段に向けた壁が高くなるのですが、それを越えなくてはならないのです。
また、勝ち残りで連戦になりますので、強い選手でもスタミナを奪われ、連勝が難しいという仕組みなのです。
私が2段昇段に向けて出場した際、中盤にウルフ選手の名前がありました。中学生ながら二段昇段に向けた意気やヨシ!という感じです。(なんとなくですが、強い中学生で初段、並みの中学生は白帯。強い高校生は2段、並みの高校生なら初段というのが相場観でしたので、中学生で2段は相当強いレベルです)
で、私は序盤で試合を終えましたが、後学のために残っていたところ、ウルフ選手の登場です。
いやぁー、凄かったです。
高校生、大学生をモノともせず、7~8人を投げ飛ばしました。中盤から出場して、残り全員を勝ち抜いたのです。オール一本勝ち、しかも、しかもですねぇ、一本を獲った技が全て違う技だったのです。およそ、考えられないことでした。全てが嘘のような光景でした。
本来のルールでは、最後まで勝ち抜くと最初の選手に戻るはずですので、私も一度冷えた体を温め直し、「ウルフ、止められないまでも、オッさんの意地を見せてやる」と意気込みましたが、その日は最初に戻ることなく、ウルフ選手が右端まで勝ち抜いたところで、試合終了となりました。
残念な気持ちと、安堵の気持ちが入り混じる、不思議な感覚でした。
その一時間後、講道館の近くにある居酒屋で友人と杯を重ねながら
『いやぁ、凄いもの見ちゃったね。あーいう選手が将来、オリンピックに出場するんだろうね』
と語ってから10年、いよいよウルフ選手が100㎏級でオリンピックに出場します。
いろいろ物議を醸している東京五輪ではありますが、ウルフ選手の躍動を応援したいと思います。お読みいただいた皆様にも、ウルフ選手を応援していただければ嬉しいです。また、拙著の応援もしていただけたら嬉しいです。
偶然ですが「元宮ワイナリー黎明奇譚」の主人公である「大沼係長」も「柔道経験者」という設定であり、「日本武道館」で試合をしたことがあること自慢する場面があります。