見出し画像

【創作】ゴーーール!

 横っ飛びに飛んだ。
「来るッ!」
 と感じる前に飛んだけれど、一陣の風が吹き、ビンッ、ザッ、ドッという音が後頭部に響いた。ドン!と体が落ちて地面にぶつかり、背中を向けて自軍ゴールに走る相手チームの背番号を見た。
 キャプテンが通りすがりに
「まだだ、まだ、慌てるような時間じゃない」
と言いながら、僕の後ろにボールを取りにいき、ボールを掴む気配を感じる間もなく、チームメイトを鼓舞しながら、センターサークルに向かって走り去った。

 試合時間はロスタイムしか残っていない状況で、敵の勝ち越しゴールを許してしまった。ここまで0ー0だったのに、勝ち点1が目前だったのに。けど下を向くわけにはいかない。仲間を信じて勝利を目指して最後まで戦うんだ。

 フィールドプレイヤーならば、最後までボールを追い、敵の裏をかくような動きをして力を尽くせるのに、キーパーは皆の背中を見て、声を出すだけなのが歯がゆくて仕方が無い。あぁ、今、逆サイドに出すんだ、その密集した場所で時間を費やすのはもったいない、ほら、篤史がフリーで要求しているじゃないか。
 キャプテンも同じように指示を出しているのが動きで判る、けど達也には届いていないようだ。

 達也が倒され、高いホイッスル音が鳴った。ペナルティエリアの外側だけど直接フリーキックだ。審判が時計を確認した、もうロスタイムも残っていないだろう、おそらく最後のワンプレイになる。キャプテンも同じ考えらしい、ミッドフィルダーだけじゃなく、ディフェンダー、そして僕にも上がるように指示を出してきた。最後のワンプレイに全てを賭ける、ベンチを確認すると監督も同じ考えのようだ。
 
 失点の借りはゴールで返す。僕が加われば数の上での不利はなくなる。敵のゴール前に22人のプレイヤーが集まる。ガタガタと動きゴツゴツと体が当たる。キーパーだからと嘗めてもらっちゃ困る、当たり負けなんかするもんか。普段からストライカーたちと頭と体で勝負しているんだ。
 ゴールから少し少し離れた位置で、体を入れ替えながら激しく動き回る。僕が狙うのはキーパーが弾いた後のセカンドボールだ。

 達也がゴール前に上げる、中央で待っていた篤史にドンピシャだ!
 弾丸のような勢いでボールがゴール右上の隅に放たれた、キーパーが飛びつき、左手を伸ばす。
 何でこった、神がかりなセーブでボールがフィールド方向に弾かれた。だけど、闘いの神は気まぐれだ、ボールは僕の方に向かってきている。これを叩き込めば同点、キーパーは倒れているから相手をかわして枠に放り込むだけでいい。

 刹那、相手のユニフォームの色が世界を覆った。
 ボールは僕の頬を掠めて、後方に大きく飛んでいった。
 高く上がったボールは虹のような大きな弧を描いた後、誰もいないフィールドを数回バウンドして無人のゴールに転がりこんだ。
 ピーーッ、ピッピッピーーッ。
 得点を告げる音に続き、試合終了を告げる長い音が続いた。
 キャプテンが火照った腕を僕の肩に回してきた。
「負けたなぁ」
「あぁ、だけど…、だから…、面白いんだよなぁ」

 今日の試合は負けた。
 だけど、僕らの真のゴールはまだまだ先にある。次に向けて、落ち込んでなんかいられないんだ。
 僕は顔を空に向けて、足を踏み出した。

(おしまい)
#何を書いても最後は宣伝
 こちらの「ショートショートパラダイス2」に、三毛猫かずらさんのイラストから生まれたお話を1本だけ収録しています。いつも前向きな気持ちを奮い立たせていただいています。

 三毛猫かずらさんが連日サムネ画像を提供してくださいましたので、ちょっと頑張って1日2本の投稿です。

いいなと思ったら応援しよう!

福島太郎@kindle作家
サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。