【創作】そういうところが #シロクマ文芸部
「レモンから……ライムは無いかな」
遠慮が無い言葉にカチンと来てしまい、ちょっと冷たい口調で応えた。
「今、貴方が飲もうとしているのは、何ですか」
私の怒りに気づかない素振りで返してきた。
「そば焼酎です。なので、貴女に傍にいて欲しいです」
ちょっとちょっと、無邪気な少年のような笑顔を浮かべているけど、貴方はもう四十歳、不惑になるオッサンよね。可愛くも無いしデリカシーも無いと思うのよ。
「嗜好品だからあまり言いたくないけど、『そば焼酎』の醍醐味は『蕎麦の香り』でしょ。なのにレモンとかライムとか香りの強いのを入れたら、香りが混ざっちゃうじゃない、台無しになっちゃうよね」
貴方のこと好きだけど、そういう雑というか配慮が足りないところはどうかと思う。そういうところがある人だから、今までずっと独身なんだろうけど、私のこともゾンザイに扱われているような気がして反発しちゃう。
「うん、だから焼酎に入れるつもりは無いよ」
カラカラと音を立て、ゆらゆらとグラスを揺らしながら、シレっとした顔をして返してくる。
「じゃぁ、なんでレモンとかライムが欲しいの」
私が怒っているのに平気な素振りでいる。そういうところにますますイラっとしてしまう。
「爽やかな柑橘系の、口直しが欲しいなっと思って」
彼は立ち上がると、私の両肩に手を載せて自分に引き寄せた。
影が揺らめき、一つに重なった。
少しの、甘い刻が過ぎた。
「お酒臭くない、嫌じゃなかった」
無邪気な少年のような表情をしているけど、貴方はもう四十歳、不惑になるオッサンよね。可愛くも無いし、デリカシーも無いと思うのよ。コトが終わってから聞かれても、良いも悪いもないじゃない。いっつもそう、自分の気持ち優先で行動するのよね。
そういうところ、自分に正直なところが大好きなのは、私ぐらいだと思うから、ちゃんと大切にしてよね。
「かなりお酒臭いです、ずいぶん飲んだのね。そんなんで大丈夫なの」
彼の体調が心配になる。
「うん、お酒は終わりにする。昔、『人生に必要なものは勇気と創造力、それにちょっぴりのお金』と言った偉人がいるけど、僕の人生に必要なのは、ちょっぴりのお酒と君だけ。だからレモンもライムもライトも要らない」
彼は部屋の灯りを消した。自分だけ飲んで満足したみたいね。
ほんっと自分勝手だと思うけど、そういうところが大好きなのは、惚れた弱みかな。ほんっと、大切にしてよね、私のことも満足させてね。
体と心を彼に委ねた。
(おしまい)
こちらの企画に参加です。
ちょっとアダルトな感じにさせていただきました。
#何を書いても最後は宣伝
先日、sanngoさんの「創作物語」の朗読に挑戦しました。
sanngoさんの美しい世界観に影響された気がしますが、足元にも及ばず嬉しさと悔しさが同居しています。
月とスッポンというやつですが、月は孤高にあるから美しく、届かないことを嬉しいとも思うのです。
sanngoさんの(現時点の)最新作はこちらです。
私が一番好きなシリーズがこちらです。