見出し画像

転がる石コロ #想像していなかった未来

「道端で拾った石コロみたいな命をどう使おうか」
病院の集中治療室、モヤっとする頭で考えていた。

 2019年11月、宇都宮駅近くの路上で心臓発作を起こし意識が遠くなる中、通りすがりのオッさんが救急車を呼んでくれ、病院に救急搬送されたことは解った。
 救急外来から集中治療室に移動し、手術は回避できたものの、心臓は痙攣して激しく動き、酸素が脳にロクに届かない状況で
「このまま死んじゃうのかな」
と覚悟しつつ
「生き延びて退院できたら、拾った石コロみたいな命をどう使おうか、オマケみたいな人生で何をしようか」
と悶々としていた。

 高校を卒業してから公務員として働いてきた俺には専門的な知識や技術、誇れるようなものは何も無い。ただ、公務員のことなら他の方に伝えられるかもしれない。公務員を目指す若い方々が、採用されてから理想と現実のギャップで苦しまないように、公務員の現場、現実、実態を伝える本を書こう。
 自分が生きた証を遺そう。電子書籍なら少ない費用で出版できるかもしれない。というアイディアが浮かんだ。

 それから、病院のベッドの上で本のタイトル、内容、ペンネームなどを考え続けたので、酸素吸入、尿カテーテル、点滴などの管塗れで身動きできない中でも、それほど退屈はしなかった。
 治療のおかげで病状は回復し無事に退院することができた。

 退院をしてから毎日のように原稿案をパソコンに入力し、ある程度の文量になったところで信頼できる友人たちに原稿を見せ
「『公務員のタマゴに伝えたい話』という電子書籍を発刊したいと考えている」
と相談したところ
「需要ありますか?(売れないし儲からないよ)」
との言葉を貰った。
「売れなくて良い、儲けは要らない。必要とする1人に届き、役に立てればそれで良い」
 石コロを転がす方向がカチリと決まった。
「儲からなくて良い、お金が要らないなら、noteに無料で投稿するのはどうでしょう。ニーズを確認しながらファンを増やしては」
 全く想定していないアドバイスを受けて、帰宅後すぐにnoteのアカウント登録をした。2020年3月下旬のことだった。

 noteへの投稿はキリ良く4月1日から開始したが、俺の投稿に対して「需要はほとんど無かった」。
 ビュー数が2桁に届くか届かないか。スキ数は0が続いた。
「需要は無かった、電子書籍の発刊は諦めるか」
そんな考えが何度も過っていたある日、コメントをいただいた。
「公務員を考えている学生です。参考になりました、ありがとうございます」
 俺が挑戦したことは全くの無駄じゃなかった。1人だけど読んでくれた人がいる。売れなくてもいい、いつか誰かに届けばいい。死んでしまう前に電子書籍を発刊しよう。
 世間ではコロナ禍が広がり、いつ感染するかわからない流行病に怯える2020年6月に電子書籍「公務員のタマゴに伝えたい話」をKindle出版した。

 noteのビューもスキも相変わらず増えなかったが、電子書籍は予想以上に売れて、Kindle Unlimitedも予想以上の方に読んでいただくことができた。

 電子書籍の発刊から2ケ月後にAmazonから振り込まれたロイヤリティの金額の多さに驚きながら、お金を自分の収益にすることに抵抗を感じた。
「去年の11月に死んでいたかも知れない。けど命を拾っていただき生かされた。今の活動は俺の命でも金でもない。なら自分が使うのではなく、未来を担う子どもたちに投資しよう」
 振り込まれたロイヤリティを全額、シングル家庭を支援するNPOに寄付することにした。

 始めのうちは
「1年間とか10万円とか、キリのいいところで寄付を終わりにしようか」
という考えもあったが、途中で相手を変えたものの「シングル家庭を支援するNPO」への寄付はずっと継続している。金額は小さいけれど「0と1は違う」と考えながら、これからも続けていく。
 寄付額は累計で、5年間で30万円を超えた。金額の大小は別として、毎月継続できたことは嬉しい。

 寄付が継続できているのは自分の力じゃなくてnoteの交流のおかげだと確信している。文学賞の受賞歴が無い、無名で下手な文章を応援していただけるのはnoteというプラットフォームでの交流があればこそと感謝している。
 noteがあるから書き続けることができ、Kindle出版を重ねることができている。

 最初は「公務員のタマゴに伝えたい話という電子書籍を出版したい」という思いだけで始めたnoteとKindle出版だけど、次第に
「福島県の素晴らしいところを伝えたい」
「人間讃歌のお話を書きたい」
「寄付額を増やしたい」
「創作を楽しみたい」
と、欲望が広がるばかりな自分に、ちょっと困惑している。

 noteの活動からご縁が広がり、文学フリマに出店したり、WEBメディアへの寄稿、出版社からの書籍発刊など、活動する世界が広がっていることにも感謝している。Kindle出版した本は2桁を超えて、電子版だけではなく紙書籍も発刊という、考えもしなかった場所に立っている。

 道端で拾ったような命、オマケみたいな人生が、全く予想もしていなかった世界に連れてきてくれた。
 売上や数字を意識していたら来ることができなかった、noteに参加しなければ存在しない世界に来ているとも感じている。
 未来のためにとロイヤリティを寄付しているからこそ、純粋に「書くこと」や「人生」を楽しめている気がする。

 この世界はまだまだ終わらせない。石コロがこの先、何処に向かうのか見当がつかないけれど、最後まで書き続け、未来を良くするために足掻き続けることを心に決めている。
 道端で拾ったような命だもの、これ以上、何も欲しくも惜しくも無い。
 ただ、5年前には想像していなかった未来にいること、これからも転がり続ける人生を思うままに楽しみたいんだ。

#想像していなかった未来
#2024年のいっぽん



 



いいなと思ったら応援しよう!

福島太郎@kindle作家
サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。