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【創作】進化する結末 #下書き再生工場
「お前、自分が何言ってるか分かっているか」
村上キャップはパラパラっと捲っていた「連載企画書」を机の上に放り出して、座ったまま僕の方に向き直り続けた。
「結末は進化していくから、どうなるかわかりません。って、そんなんで新連載の企画が通るわけないだろう」
よく通る声のおかげで、編集室内に緊張感が奔る。もっとも4人しかいない狭い部屋なので、誰かが話をすると全員に声が届くのはいつものこと。小さな出版社の文芸誌編集部なんて、どこもそんなもんだと村上キャップが前に教えてくれたことを思い出した。
反対されることは予想していたので、予定どおり意図を説明する。
「粗筋は、そんなに悪くないと思いませんか。で、今のところ『いくつかの困難を乗り越えて妖精美術館を建設し大成功』という展開までは想定しています。けど、作者によると『もう一捻り、二捻りして結末を進化できる気がする』ということなのです。それを読みたいと思いませんか」
村上キャップは企画書をその手に戻し、粗筋を声に出して読みだした。編集部にいる全員に聞かせるつもりなんだろう。
『福島県奥会津に位置する小さな町、銀山町。大きな産業はなく水力発電事業の恩恵に依存している。
時は平成三年、日本中がバブル経済、リゾート構想に踊るが銀山町には何の恩恵もないまま。選挙を控え町民から突き上げを受けていた町長が思いついた「妖精の住むふるさと」という町おこし事業。
担当させられるのは町に縁がないのに役場に新規採用された職員、田中。町に妖精にまつわる伝承はなく、田中は役場を一年で辞めたいと考えている状況で、先輩職員や町の若者で組織され町の活性化策を考える「若者定住会議」の者たちと田中の交流が生み出す物語。
果たして妖精は現れるのか。「妖精の住むふるさと事業」は実現するのか!』
「ありきたりな、町おこしの話だな。若手の奮闘記ということか」
僕は頷きながら応えた。
「はい、正直なところ『妖精』以外には目新しさはありません。で、まぁ、事業は成功するまでは見えているそうですが、『その先も書けそうだ』と作者は言っています」
キャップは呆れた顔のまま、珈琲の入ったマグカップを口にして顔を顰めた。
「なら、それを書いてからもう一度だな。ゴールにむかって 登場人物を動かしたり、伏線を貼る。それが常道ってもんだ」
「仰ることわかります。けど、作者は『自分一人では良くならない。読者や編集の皆さんと交流することで、作品が成長し結末が進化していく』と言ってきかないんです。うちみたいな小さな出版社は、そういう可能性に賭けるのも有りでは」
キャップは後ろにいる編集長の方を向いた。編集長はすぐに気づいて立ち上がった。
「よし、その可能性とやらに賭けてみようか。ただし失敗は赦さんぞ。お前と作者で、物語だけじゃなく、俺たちもハッピーエンドを迎えられるように、結末を進化させろよ」
その言葉を聞いて、秋山キャップは連載企画書を編集長に渡した。
「『銀山町 妖精綺譚』か。俺にはあまりピンとこないタイトルだが、まぁ、タイトルはともかく、ハッピーエンドに向けて頑張れ」
編集長は笑顔で企画書を戻した。秋山キャップも笑顔になり、そのまま企画書を僕に渡してきた。
「だとさ、新連載頑張れ、何かあれば相談してくれ。どんな結末を迎えるか楽しみにしてるよ」
作者と一緒に、目指すは大団円だ。僕は決意とともに企画書を受け取った。
(おしまい)
#下書き再生工場
#本田すのうさん
#何を書いても最後は宣伝
#猿荻レオンさん
本日も「本田すのうさん」の企画に参加です。
お題は「猿荻レオンさん」の「進化する結末」でした。猿荻さんからネタをいただくのも2本目になりました。同じ方を意識している訳ではないのですが、インスパイアされてしまうようです。
でまぁ、実際のところ「銀山町 妖精綺譚」はまだまだ進化していく予定です。noteで交流している「まほろさん」が読書感想文を書いてくださいました。
拝読した感想として「このお話は、もっと面白くできる」とフツフツした想いが湧いております。
できれば「創作大賞2024」での受賞、商業出版へと結末を進化させていきたいものです。
#何を書いても最後は宣伝
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