【創作SS】月の耳
月の耳は美味かった。
おじいちゃんは、時々同じ話をしていた。地元の銘菓「福の月」を製造する工場で働いていたおじぃちゃんは、甘いお菓子が好きじゃなかったけど、時々「月の耳」の話をしていた。
銘菓「福の月」は、カステラ生地をふんわりしっとり丸く型どり、カスタードクリームを中に詰めた、大福より大きめの饅頭型のお菓子で、洋菓子と和菓子の良いとこどりをした感じで、お店の大ヒット商品だった。
おじいちゃんは、若い時に、開発・製品化を担当していたらしく、試作を繰り返す中、焼き過ぎたり、形状が駄目だったりと、失敗したお菓子は自分たちで食べていた。そんな失敗作を「パンの耳」みたいな感じで「月の耳」と呼んでいたらしい。
おじいちゃんが自宅で暮らせなくなり、施設に入った後、何度か「福の月」を差し入れした。そんな時も
「福の月は美味いなぁ。けど、太郎知ってるか。月の耳は、もっと美味かったんだ」
同じ話を教えてくれた。
「福の月」を販売している会社の人と知り合いになり、「月の耳」のことを尋ねたけど、今の時代は製造工程の機械化がしっかり整備されていて、「月の耳」のようなロスは出ないことを教えてくれた。
その知人から連絡があり、指定された店を訪問すると、小さな紙袋を渡された。
「焦げたりしていて、見た目は悪い。けど、古い職人さんに話を聞いて、再現してもらった。よかったら、おじいちゃんに渡してもらえないだろうか。良い勉強をさせてもらった。ありがとう」
紙袋からは、香ばしい香りが立ち昇っていた。
夜空に高く在る 月を見る。
ひんやりとした空気の中 胸が温かくなる。
中学を卒業してから、家族のため、会社のため、ずっと働き続けた おじいちゃん。
月の耳は、おじいちゃんの青春の味だったのかもしれない。
今は空の上で、あの日のように、極上の笑顔で味わっているのだろうか。
(本文ここまで)
小牧幸助さんの【シロクマ文芸部】
#月の耳
に参加です。
https://note.com/komaki_kousuke/n/nad2c66c90781
さて、福島太郎は「文学フリマ岩手8」(6月18日(日)に出店予定です。持参するのは、こちらの「WEBカタログ」の本です。
https://c.bunfree.net/c/iwate08/2F/ウ/11
東京の時は書籍ごとの情報を登録できませんでしたが、今回はある程度の情報を掲載できました。
「文学フリマ」は「絶対赤字」というスキームで参加しております。
「損得だけではない価値がある」、「参加することそのものが人間賛歌の物語」とも考えております。
福島文学とは 福島に生きる方を描く 人間賛歌の物語
福島文学とは 交流と挑戦 成長を目指す物語
note街、文学フリマなど皆さんとの交流を力に変えて、精進してまいりますので、引き続き仲良く交流していただきますようお願いします。
岩手出身の女性とのnoteの交流から生まれた物語が、こちらの「恋する旅人」になります。どんな甘い「恋の旅」なのか味わっていたけたら嬉しいです。
「福の月」というお菓子は、「萩の月」をモチーフとさせていただきました。
「萩の月」を製造・販売されている菓匠三全様から削除要請が届いた場合、本稿は削除いたしますので、あらかじめご了承いただきますようお願いします。