【創作SS】キシの闘い #シロクマ文芸部
読む時間が足りる筈が無い。
大沼の棋風を知らない人間は必ずそれを感じる。ほとんどの場合、彼は中盤までに持ち時間を使ってしまうからだ。
しかし彼を知る者、ファンは期待に胸を高鳴らせる!
「さぁ、大沼マジックが始まる」
将棋の公式戦では棋士に「持ち時間」が設定されている。多くの棋士は終盤の攻防に備え時間を温存しようと「定石」を覚え研究し、自分の「技や型」を磨いている。
大沼は序盤からよく時間を使う。先人たちが考え研究しつくした序盤から中盤戦の
「一手の意味」
に溺れるかのように考えてしまうこと、持ち時間を費やしてしまうことがあった。
散々考えた挙句、定石どおりの凡庸な手を打つこともあれば、不利になるような手を打つこともある。
そして、終盤に入り持ち時間が無くなり、1分以内に手を打たないと「時間切れで負け」という「1分将棋」、逆境とも言える場面になると、棋風が大きく変化する。
国を追われ落ち延びた王を護る独りの騎士が、獅子奮迅の働きを見せるような動きをする。
相手が打つやいなや軽やかに手を返す。
芝居の殺陣のように、盤上の駒が流麗に動く。
己の優位を味わっていた敵は、口中に苦味を腹中に酸味を感じることになる。
中盤までの悪手が巨大な敵に姿を変えて襲ってくる。
しかしダイヤモンドのような強く硬い輝きではなく、サファイアのような儚い輝きであり、必ず大沼の逆転劇が生まれるとは限らない。
大沼が散れじれに粉々破れることもある。
しかし大沼棋士のファンは、終盤戦に胸を高鳴らせる!
「起死回生はここからだ」
大沼はその棋風から「非凡の騎士」とも言われている。
(本文ここまで)
小牧幸助さんの
#シロクマ文芸部
に参加です。
#何を書いても最後は宣伝
「大沼」という名前は、こちらの作品の主人公からお借りしました。
諦めず、あがくキャラクターが大好きなのです。