【創作SS】銀河売り〼 #シロクマ文芸部
銀河売り〼。
なんだ、このポスター?
大勢の人、華やかなブースで賑わう「文学フリマ岩手8」の会場で、白い大きな紙に、華色のマジックペンで書かれた「銀河売り〼」というポスター。そして、平積みされたコピー本のブースに興味をそそられた。
貧相というか貧弱というか、静かな熱気に溢れる会場の中で、そこだけが夜の帳に包まれているようにも見え、その暗さに吸い込まれるように近づいた。
テーブルの上に、手書きの案内も置いてあった。
『どなたさまもどうかごらんください。けしてえんりょはありません』
【ぎんがてつどうのよる】というタイトルのコピー本を手にした瞬間に抱いた違和感を売り子の女性に尋ねた。
「この本は、もしかして手書きですか」
手にした本と、テーブルに残された本は、微妙に書体が違っていた。書体だけじゃない、タイトルも「ちゅうもんのおおい りょうりてん」とか「どんぐりとやまねこ」とか、異なる作品名が書かれていた。
30~40代と見える女性は、隣にいた小学校低学年に見える男の子に視線を向けた後、笑顔で教えてくれた。
「はい、この子たちが手分けして、1冊、1冊、学校の本から書き写しました。文学フリマの話を聞いてから『出店したい』と言い出して、手書きで原稿を準備してコピーしました。
私は、学童保育のスタッフなんですが、この子たちが「文学フリマで稼いで、お母さんたちの力になりたい」って言うので、今日はボランティアでお手伝いです」
男の子は、少し誇らしそうな表情を浮かべた。
「全部ください!」
と言いそうになった自分を抑え、手にしていた「ぎんがてつどうのよる」を少し上に掲げ
「じゃぁ、この本をいただけますか」
「はい、500円になります」
男の子が元気な声で値段を言い、トレイを少し前に押し出した。
(より多くの人に手にしてもらうために、僕が買い占めてはいけない。けど、全部売れてしまえ!)
そんなことを考えながら、500円をトレイに置いた。
少し格好つけて言わせてもらうと、僕はコピー本を購入したんじゃない。
子どもたちの未来に広がる世界、果てしない銀河の欠片を購入したんだ。
僕が持ち込んだ本は1冊も売れなかったけど、「へいたさん」の本も買えたし、文学フリマ岩手8を堪能した満足な気持ちで、帰りの新幹線に乗車した。
(本文ここまで)
フィクションです。実在のイベント等とは関係なく、個人による創作物語です。
小牧冊助さんの【シロクマ文芸部 「銀河売り」】に参加です。
#シロクマ文芸部
はい、銀河と言えば「銀河鉄道の夜」≒「宮沢賢治先生」≒「岩手」≒「文学フリマ岩手8」ということになりました。
文学フリマ岩手8まで、あと3日というタイミンでお題を示していただいた小牧幸助さんに感謝です。
この話はフィクションですが「へいたさん」が文学フリマ岩手8に出店すること、私がへいたさんの本の購入を楽しみにしているのは本当です。
そして、子どもたちの未来が幸福であることを願い続けていることも本当です。
#地には平和を人には愛を
#何を書いても最後は宣伝
文学フリマ岩手8に持ち込んだ本が、1冊だけでも売れるよう、今夜は星に願い〼。