2016年祇園祭りの夜 #シロクマ文芸部
こちらの企画に参加です。
かき氷をシャクシャクとスプーンで突きながら猫がちょっかいを出しあうようにお互いを構いながら話をしている二人を見る。自然に笑顔が浮かぶことを感じた。
商店街が町内会の所有かわからない、くたびれたテントの下で子どもたちと二人で向かい合わせで座っていた。周囲は祇園祭りの人込みと喧騒で賑わっていたが、そこだけは家族三人の穏やかな空間があった。今から8年前、2016年7月のことだった。
2015年から京都の大学に進学し一人暮らしを始めた長女、引越の手伝いやその後のなんやかんやで僕が一人で京都を訪れることはあったけれど、二女を京都に連れていく機会はなかった。費用面もあるけれど子どもたちの母親と離婚し、子どもたちとは別居していたのでそういう計画が立てにくいということも背景にあった。
二女と面会していた春のある日、
「私もお姉ちゃんに会いたいなぁ」
ポツリと漏れた本音を受けて、若干面倒な交渉と程調整をして、高校の夏休みに合わせて二女と京都を訪問した。
考えてみれば親が離婚してから二人はずっと支え合って生きてきたのだ。一年以上も離れたのは初めてのことで、不安や寂しさに包まれていたことに気づかない自分の愚かさを恥じた。
新幹線で郡山から京都まで移動し、娘のアパートにて合流。一度駅に戻ってから、レンタカーを借りて比叡山までドライブし御山に登り、近江神宮でコスプレを楽しみ、琵琶湖周辺を散策してから京都に戻り、祇園祭りの山鉾を眺めてからの休憩だった。
「お父さん、少し食べる」
「いや、父はいいよ」
なんとなく二人の世界を邪魔してはいけないような気がして断った。
カップに山盛りだったカキ氷はあっという間に消えていた。食べた分と溶けた分のどちらが多いのだろう。二人がこのまま成長を続けていくと父として果たすべき役割はどんどん小さくなっていくのだろう。
かき氷の姿や美味しさがほんの一瞬のことだとしても、こうして三人で過ごす時間が束の間だとしても、この夏の夜のことを心に留めて生きていくよ。
離れて暮らしていても時が過ぎたとしても、決して溶けることがない想いとともに、父として君たちと生きていくことを八坂神社の神様に誓ったんだ。
(終わり)
#シロクマ文芸部
需要は無いと思いますが、ネタとして近江神宮での私のコスプレ写真をアップします。
今はわからないですが、当時は数百円でこんなコスプレをさせていただくことができました。もちろん、娘二人もコスプレしました。
ちょっと善い思い出です。
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