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【創作】カイギュウがいた村(第5話)
次の日、朝ご飯もお手伝いするつもりだったけど起きた時にはもう準備ができていた。お母さんを手伝うことができなくて申し訳なかったけど、やっぱりお母さんが作ってくれるご飯は美味しかった。
窓から外を見ると昨夜の雨のせいで地面は濡れていたけど、爽やかな青空が広がり、生き生きとした木々の芽が萌えていた。
学校に着くとすぐに僕のところに剛君がやって来て
「昨日はごめん、賢治君のお母さんのこと、非道い言い方をして」
と謝ってくれた。剛君のおかげでお母さんの病気のことをちゃんと知ることができたから
「教えてくれて良かった、ありがとう」
と伝えた。喧嘩したわけじゃないけど、何か気持ちが晴れてた感じになったから朝のうちに剛君に声かけてもらえて良かった。ただ、美幸にお母さんのことを教えたらポロポロと泣き出しちゃって、僕がイジメたみたいに冷やかされたのにはちょっと参った。もちろん美幸はイジメを否定してくれたから先生に怒られたりはしなかったけど、お母さんのことを思って泣いてくれたことにちょっと泣きそうになった。昨夜は「家族で頑張ろう」って思ったけど、お母さんのことを応援してくれているのは、家族だけじゃなくて美幸や剛君、お母さんの会社の人とかいっぱいいるんだと思うと心強かった。
帰りに一人でカイギュウセンターに寄ろうと思ったけど美幸も誘ってみた。なんとなく一緒に居て欲しい気がしたんだ。
丘の上にあるカイギュウセンターに入るとすぐ、ステラ―カイギュウの模型が出迎えてくれる。教壇三台分くらいの長さがあるから、小学生ならは背中に乗れそうなくらい大きい。これでも実際の半分くらいの長さらしい。
「賢治君、見学に来たの」
事務のお姉さん、関根さんがすぐに気がついて事務室から出てきた。僕は昨夜から考えていた話しを聞いてた。
「見学じゃなくて、お願いに来ました。ここで保管している化石をお借りできないでしょうか」
海と化石が好きなお母さんにちょっとでも楽しんでもらえるよう、色んな化石を見せてあげたいと考えたんだ。家事の手伝いだけじゃなくて、何かもっとできることができないか考え思いついた、アイディアだった。
関根さんが困った顔をして事務所の中の方を振り向くと、僕らの声が聞こえていたのか、おじいちゃん職員の加藤さんも玄関まで出てきてくれた。関根さんが小声で話をすると加藤さんは
「賢治君、申し訳ないけれど個人へ化石の貸出はできない規則なんだ。他の博物館とかならお互いに貸し借りできるんだけど」
加藤さんは頭を下げた。
「そうですか……普通に考えたら、そうですよね」
僕は自分の浅はかさが恥ずかしくなった。
「どうして化石を借りたかったんだい」
「お母さんが癌になってしまい、仕事を辞めて今で療養してるんです。お母さんが好きな化石を見せてあげたいっ思いました」
加藤さんは一瞬目を丸くした後、クルリ回って事務室に戻るとすぐに手提げ袋を持ってきた。
「化石は貸せないけどハンマー、杭、ケースとかが入った『採取セット』なら貸してあげる。この辺りの川沿いは化石の宝庫だから、色々な化石が採取できるよ。ただ絶対に一人で行ってはいけない、大人の人と一緒に行くんだ。それは約束できるかな」
「はい、約束します」
「使い方はわかるかな」
「何度かイベントで使ったことがあります」
今度は関根さんがクルリと回って事務室に戻りすぐに戻ってきた。
「加藤さん、これも渡していいですか」
加藤さんが頷くのを確認して、関根さんはホチキス留めされた資料を僕たちに渡してくれた。
「見たことあるかも知れないけど、採取方法が書いてある資料とよく採れる化石の種類や説明が書いてある資料なの、よかったら使ってね」
「ありがとうございます」
僕たちは二人に頭を下げた。自分で採った化石をお母さんに見せることを想像して、ちょっとわくわくした。
「絶対に一人で行かないこと、後、誰かと一緒でも危ないところには行かないように」
加藤さんは学校の先生みたいな口調で念押ししてきた。
「化石を勝手に採っても良いんですか」
「いい質問だね。法律では個人で時々採取する分には何の問題もない。大規模に土を掘り起こしたり、河川敷を占有したり、化石を売買したりすると駄目だけど、賢治君が持てるくらいの化石を採取するのは大丈夫だよ。珍しい化石を見つけたら、僕らにも見せてもらえるとありがたいな。『スズキフタバリュウ』とか『アイヅダイカイギュウ』みたいに珍しい化石は五十年前に発掘されたきりだから、新しい化石が見れたら嬉しいなぁ」
加藤さんは少し遠くを見るような表情を浮かべた。美幸が加藤さんに尋ねた。
「ここに『ステラーカイギュウは優しすぎて滅んだ』って書いてありますけど、どういうことなんですか」
美幸がステラ―カイギュウのところに掲示してある説明書きを指差した。
「ステラーカイギュウは優しくて仲間思いだから、仲間が傷つけられると、助けるために仲間の近くに集まる習性があったんだ。その習性を人間に利用され、傷ついた仲間の側にいるところを乱獲され絶滅した、とされているんだ」
話を聞きながら、仲間思いのカイギュウと家族思いのお母さんの優しい姿が僕の中で重なった。カイギュウを絶滅させてしまった人間の悪さを思うと、僕の心が黒くて持ち悪いなにかに覆われるような気がして心が重く感じた。
ステラ―カイギュウは人間に絶滅させられたけどお母さんは守るんだ。採取セットの袋を強く握りながら気持ちを奮い立たせたんだ。
(第6話に続く)
(閑話休題)
今回からサムネ画像を変えました。カイギュウセンターのモチーフとしている「カイギュウランドたかさと」のある場所の写真です。
当初の想定では、ここには来ない想定でしたが、カイギュウの話しを深掘りしたく急遽登場です。関根さん加藤さんも突然の出番となりました。また後で出番を作ろうと考えています。ちなみにカイギュウランドのWEBサイトがこちらです。
#何を書いても最後は宣伝
前作は「妖精美術館」、今作は「カイギュウランド」が実在していることにインスパイアされていますが、あくまでもフィクションです。
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