No.060 ミステリクイズ


問題文

放課後、図書室で雑誌を読んでいると、部長が来た。
何故か俺の対面に座る。

(部長)「探したんだよ。どうして部室に来ない?」
(  俺  )「暖房壊れてますし。あんなところに居たら凍死します」

窓の外にはまだ深夜に降ったらしい雪が積もっている。雪なんて何年ぶりだろうか。今日の早朝の気温は、なんと、氷点下5度だったらしい。

(部長)「ひどい。先輩を極寒の僻地に取り残して、自分ひとり優雅に読書なんて…」
(  俺  )「それで、何の御用です?」

部長は可愛そうな少女の演技を止め、いつものテンションに戻る。

(部長)「君、ついにわが校でも今朝、幽霊が出た!」
(  俺  )「そうですか。よかったですね」

雑誌に目を戻そうとしたら、部長は俺から雑誌を取り上げた。

(部長)「幽霊だよ、幽霊。私たち、怪異研の出番でしょ」

部長は勝手に幽霊の話を始める。

『幽霊が出たのは昨晩の屋上。
正確には、今朝、幽霊が現れた痕跡が発見された。
その痕跡とは、鮮血に染まった足跡。
足跡は屋上の扉から始まり、そのまま一直線に端まで続いていた。
そう、それはまさに半年前、この屋上で飛び降り自殺した美術部の3年生の足跡だった』

(部長)「以上が、みっちゃんから聞いた話。とうとう我が校にも幽霊が出たんだね。私、なんか感動しちゃった」

部長はハンカチで目をぬぐう。

(  俺  )「”みっちゃん”って誰ですか?」
(部長)「警備員の三浦さんだよ。知らないの?」

さも当然のように言われても困る。

(部長)「みっちゃんは血の足跡の第一発見者。朝の見回りの時に発見したって」
(  俺  )「半年前に飛び降り自殺ありました?」
(部長)「私の知る限りではない。しかし、だからといって100%なかったとも言い切れない。学校側が秘密裏に隠ぺいしたかも。実際、ちょっと前まで屋上を美術部が使っていたのは確かだし… きっとそうだよ、学校側は自殺があったから屋上を封印した。自殺した生徒は学校側の対応に死んでも死にきれなくて、ついに怨霊となって現れた。」

何言ってんだ、この人。本気でそんな話、真に受けているのか?

(  俺  )「学校が隠蔽したとして、どうして三浦さんが自殺のことを知ってるんです?」
(部長)「それは…」
(  俺  )「誰かのいたずらですよ。夜のうちに忍び込んでペンキか何かで足跡をつけた。ざっとこんなところでしょ」

反論すれば、部長は引き下がると思った。だがその顔には薄ら笑いを浮かべている。

(部長)「君は私のこと、”何でもかんでも怪異のせいにするヤバい奴”だと思っているの? その可能性を検討していないとでも?」

部長はニタニタ笑う。ヤバい奴だって自覚はあったんだ。

(部長)「屋上への扉は常に鍵がかかっている。鍵穴にはピッキングの痕跡はなし。鍵は管理会社が所有していて、生徒や教員が手に入れるチャンスはない」
(  俺  )「警備員が犯人の可能性は?」
(部長)「警備員が自殺した生徒の親類みたいな? そんな”金田一”や”コナン”みたいな展開あるわけないじゃん。これだからミステリおたくは」

目の前のオカルトおたくは、やれやれと首を横に振る。

(部長)「言ってなかったけど、屋上へ出る扉は監視カメラで見張られているの。犯人がもし人間なら、ペンキを持った人物が映っているはず。でもそんな人物はいなかった。以上より、犯人は人間ではない」
(  俺  )「仮に.…ほんの仮にですよ。幽霊だとしてどうするんですか?」
(部長)「それは君、愚問だよ」

なるほど。この人、何が何でも幽霊に会う気か。そして俺も巻き込まれる。
今、決着をつけるべきか。

(  俺  )「気持ちは分かりました。さっさと終わらせましょう」
(部長)「そうだね、とりあえず屋上に会いに行こ!」
(  俺  )「会えませんよ、幽霊には」
(部長)「どういうこと?」
(  俺  )「幽霊なんていません。謎はすべて解けました」

もしこの事件が人間の仕業なら、いったい誰がどうやったのでしょうか?














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ヒント

幽霊ではありません。
一方でペンキを持った怪しい人物は監視カメラには映っていません。


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解説

犯人は人間であると仮定しましょう。
では犯人はどうやったのか?

監視カメラには怪しい人物は映っていませんでした。
ヘリコプターやロープなどを使えば、屋上に行くこともできるかもしれませんが、あまり現実的ではありません。
警備員が犯人ならば簡単ですが、メリットがありません(第一発見者は当然疑われますし、仕事をクビになるリスクを負ってまで行う犯行だとは思えません)。

以上より、”事件の夜に犯行に及んだ人物はいない”と思われます。

では、どういうことでしょうか?

可能性は一つです。
それは、”足跡はずっと前から存在していた”、という可能性です。

しかし、それならば警備員が見逃すはずがありません。
でも実際は、足跡は今朝発見されました。

どういうことか?

可能性としては、”足跡は前から存在しており、かつ、昨日までは認識できない状態であったが、今朝になって認識できる状態になった”が考えられます。

そのようなことが可能なのでしょうか?
結論としては可能です。

突然ですが、消えるボールペンの原理をご存知でしょうか?

あれは『ラバーで擦ることによる摩擦熱によりマイクロカプセルに含まれる発色剤・発色させる成分・変色温度調整剤の3種類の成分の組み合わせが化学変化を起こし、インクが透明になる』という原理です。
つまり、温度変化を利用しており、高温にすれば文字は透明になり、低温では透明な文字が発色します。


犯人はこのフリクションインキ(メタモカラーインキ)を使用しました。

犯人はまず、フリクションインキで足跡を描き、その後、ドライヤーなどで足跡を高温にし、足跡を透明にします。
後は足跡が再び発色するのを待つだけです。

事件の当日は氷点下5度という極寒であり、これが透明だった足跡が発色させ、血の足跡として現れたのでした。

では、犯人は誰なのでしょうか?
犯人は屋上に上がることができる人物です。

屋上は閉鎖される前は美術部が使用していました。
犯人は美術部の部員である可能性が高いです。
およそ、追い出された腹いせにいたずらを仕掛けたと考えられます。

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