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次代を創る「スマートビル・スマートシティ」:その28「12.5.一口 コラム 「パラダイムシフト2」(2017年8月25日)
12.5. 一口 コラム 「パラダイムシフト2」(2017年8月25日)
1769年、ジェームス・ワットが蒸気機関を発明し、石炭の時代が生まれた。第2次世界大戦直前には石炭が世界のエネルギーの8割を占め、「石炭の時代」がピークを迎える。しかし、戦後、エネルギー資源の中心が石炭から石油に代わり、石炭産業が衰退していった。
しかし、ここにきて石油産業も曲がり角に来ている。英仏政府が40年までに、ガソリン車の国内販売を禁止する方針を決めたからだ。ガソリン自動車がEV(電気自動車)に変わる流れの中で、石油需要の減衰が確実に始まりつつある。経産省によれば、石油需要が05年比で40%減少し、40年度に半減するとの予測もある。事実、石油元売り大手は、合併につぐ合併で生き残りを図っている。
百貨店業界も1991年の9兆円が売上高のピークで、現在はその6割程度の規模まで縮小している。一方で、日本におけるeコマースは年率10%以上の伸びで、すでに物販系では8兆円を超え、すでに百貨店全体を上回る規模になっている。つい最近、Amazonは新鮮野菜に強いスーパーの米ホールフーズを買収した。その理由は、リアル店舗でモノを売る目的ではなく、ネットビジネスを展開する上で、スーパーという店舗立地が、生鮮食品のネット配達の拠点、冷蔵倉庫拠点として配達に適した立地だったからだ。ここでも、新たなビジネスへのパラダイムシフトがおきている。
自動車産業でも、EV(電気自動車)、AI自動運転へと大きく変わる中で、製造業としての自動車産業が衰退する予測がある。AI自動運転車が増加すれば、自動車を「所有する」意味がなくなる。いつでもどこでも自由に車を呼べば良く、自家用車である必要がなくなるからだ。また、電気自動車という寄せ集めパーツで自動車というハードの組み立てが誰でも簡単に製造できるからだ。AIによるパラダイムシフトが産業のあり方を大きく変える。
それでは、建設業界で起こり得る「パラダイムシフト」とは、何であろうか。
それは、発注者、設計者、施工者の関係における「設計者」の役割だと思う。昨今の建築プロジェクトでは、建築士法等の制度的制約を除けば、設計者の関与少なく発注者と施工者でプロジェクトが完結できる建設プロジェクトへ移行しつつある。設計施工分離発注を代替する形で、新国立競技場建設でも採用されたECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント:設計段階から施工者が関与する方式)や設計施工一括発注方式、詳細設計付工事発注方式などが、その典型だ。設計機能もBIMの普及で、設計段階でモノを確定しようとすれば、施工者の早期関与がより必要となってくる。また、グーグルに代表されるように、建築設計をAIで代替される取組みも始まっている。
しかし、「設計者」は建築家であり、AIよりもクリーティブであってほしいし、発注者の代理人としての立場を貫き、良いデザインと高い品質を確保するための存在であってほしいものだ。真に発注者の代理人として信頼できる、新たな役割の「設計者」を創造することも必要ではないか。他産業とは異なり、パラダイムシフトに対応できる「設計者」であってほしいものだ。
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未来の建設業を考える:
工学博士である筆者が、設計や建設工事に携わる多くの人の未来につながるコラム(1200字程度)にまとめました。150本を超える多様なコラムが…
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