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次代を創る「スマートビル・スマートシティ」:その2

1.1. 海外における不動産デジタル化の急激な進展


不動産テック(Prop tech)

 金融におけるフィンテック(Fin tech)により、金融業界のありようが大きく変わる今日、ITやAIを活用した大きな波が不動産業界へも押し寄せている。
 欧米を中心に不動産テック(Prop tech)と呼ばれる「不動産デジタル技術」が急速に発達しつつある。特に、不動産取引分野でその発展が目覚ましく、人が中心の取引から、AI、ITを活用した取引へ、まさにアナログからデジタルへ大きなシフトが進んでいる。
 不動産取引、不動産管理、建物エネルギー管理など不動産にまつわるデジタル化においては、当然ながら、建物のデジタルデータが必要不可欠であり、その建物デジタルデータのひとつがBIMデータである。

 本章では、不動産デジタル技術から見た建物デジタル化の必要性について論じることとしたい。


① 社会全体で進むデジタル・トラスフォーメーション

 世界は、確実にデジタル社会へ移行している。それに気がつかないまま、いつの間にか先端的技術の地位を失いつつあるのが、いまの日本だ。
 事実、国際経営開発研究所(IMD)の世界のデジタル競争力ランキング(2021年)において、第1位は米国、2位は香港。5位にシンガポール。日本は昨年からひとつ下げて、28位。一方、韓国が12位、台湾が9位だ。
 特に最近の新型コロナ対策を契機に、日本の「デジタル化」が世界から遅れていることを、だれもが痛感した。いまだに新型コロナ陽性者に関する保健所からの報告が、「紙ベース」で行われているのが日本の現状だ。

図 1 IMD(International Institute for Management Development) World Digital Competitiveness Ranking 2021

 建築業界でも、まだ設計や工事といった生産側では「紙ベース」での検討が圧倒的に主流だ。
 国の方針もあり、徐々に建築のデジタル化も進みつつあるが、いまだに建築業界のデジタル化が建築生産、設計、工事に中心がおかれ、圧倒的多数の既存建物のデジタル化が遅れているのが、日本の現状だ。

建築確認申請のBIM化

 よくある議論で、新築建物の確認申請をBIM化すれば、いずれすべての建物のデジタルデータが集まる、という話を聞く。日本の住宅ストック総数は6,200万戸(2018年)。一方で、新設住宅着工戸数は88万戸(2019年)であり、2030年には63万戸まで減るとの予測がある(野村総合研究所調べ)。単純に、住宅のデジタルデータを集めるのに100年以上かかる計算だ。

 それでは、速やかに社会が求める建物のデジタルデータを建築業界から提供できない。むしろ、異分野から都市における建築デジタルデータが生み出される可能性さえ感じる。

 何より、建築のデジタル化は必須だ。なぜなら、デジタルツインやスマートシティを生み出すためには、地図や道路、河川などの土木インフラのデジタル化に加えて、建物のデジタルデータが必要だからだ。

建築・土木のデジタル化

 国も、土木分野では維持管理も含めて、徹底してインフラをデジタル社会に合致させようとしている。それに対し、残念ながら、建築分野では公共施設も含め、特に新築工事を前提としたデジタル化、設計や工事といった建築生産を中心としたBIM化に偏り、圧倒的な数の既存建物のデジタル化を進めることについて、中心的な議題になっていない。

 一方、データ収集でも、施工図を含む竣工時点のBIMデータを、すべて集めておけば良い、何でもかんでも必要なデジタルデータをストックしておくことが望ましい、といった提案も聞く。確かに、クラウドなどを活用し、ディスク容量を気にせず集めることは可能だ。しかし、ただ集めるのではなく、むしろ今から、これらのデータで何を活用するのか、明確にしておくことが必要だ。目的の明確だ。それでないとデータはただのゴミだ。

 いつまで高度成長期の新築モデルにこだわるのか。本来は、既存建築のデジタル化にもっとフォーカスすべきである。新型コロナ対応は着実に、建築のデジタル化を進めるはずだ。デジタル社会から見放された建築業界にならないためにも、いまこそ、建築業界全体で、社会が求める建築のデジタル化を進める方向性を定義すべきだ。

「生産BIM」と「FM BIM」

 建築で用いられる「生産BIM」と維持管理で用いられる「FM(ファシリティ・マネジメント)BIM」では、その目的が異なる。

 生産BIMは設計、施工を行うための生産情報をオブジェクトの属性とし、設計から施工にかけて情報の密度を高め、設計と施工の共通の基盤・情報により、部位や機器を特定しながら、建物を竣工することにある。したがって、最終的な生産BIMのデータ量は相当膨大で、詳細なデータを含む。一方で、FMBIMは建物の資産管理、維持管理を対象とし、部屋の大きさや、モノ・機器の特性や大きさが分かればよく、詳細なデジタルデータは不要だ。

 BIMデータは、BIMモデルを構成するオブジェクトの詳細度合いを「LOD(Level of Development)」で表すが、「生産BIM」はLOD400程度(ワッシャー、ナットなどパーツも含めてすべての部材が表現可能)と言われるが、「FMBIM」ではLOD300程度(正確なサイズ、場所、方向性をもった主要構造部材が表現可能)で済むといわれる。

 したがって、生産BIMのモデルを使ってFMBIMモデルとするためには、生産BIMのオブジェクト情報にFMBIMで必要な情報を加え、一方で不必要な情報を削除することだ。

 それぞれの求めるBIMの目的の違いを把握したうえで、生産BIMとFMBIMを相互連携させることだ。

FM (Facility Management)とは

 FMは、企業が施設資産を効率的に管理し、無駄のない管理を促進するための手段だ。建物は多くの資産で構成されており、完成後は徐々に劣化する。このため、メンテナンスを行い、常に正常な状態に保つことが求められる。FMBIMを用いることで、膨大な量の情報を整理し、ITを用いた数理統計処理やAIを用いた人工知能の活用により、経営者が自身の建物の状態を正確に把握し、それを評価し、劣化を予測することが可能となるはずだ。的確なFMの実施により、資産の劣化を防ぎ、経営を成功に導くことができる。

 さらには、個々の建物におけるFMBIMの活用を、不動産や都市におけるデジタルデータの活用につなげ、日本におけるより良いIT社会の構築に役立てたいものだ。


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