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未来の建設業を考える:「設計品質」を考える

「公理的設計」

 「公理的設計」を提唱したMITのスー教授によれば、最適な設計を実現するためには、多様化する顧客ニーズを的確にとらえ、複雑なシステムを発注者要求機能の独立と設計情報量の最小化により、発注者要求機能と設計情報をシンプルな関係としてベクトルや行列を解くように設計の解を求めることが必要としている。
 この「公理的設計」は、単にシステムデザインのみならず、欧米の成熟した企業でも活用が広がっている。それまでの複雑系システムを根本から見直し、新たな設計とするために、発注者要求⇒要求機能情報の設定⇒設計情報の確定⇒設計計画の実現といった一連のプロセスを確立する努力をしている。

発注者要求の明確化

 「公理的設計」では、設計そのものを行う前に、発注者要求を生産に必要とされる機能として明確化することが求められる。そのうえで、発注者の要求機能に関する情報量とその機能を実現する設計計画の情報量が合致することが理想とされる。言い換えれば、発注者が満足する機能のそれぞれに対して、最適な設計の解が提供されていることである。
 失敗学で有名な畑村教授は、日本では発注者の要求する機能を明確に定義しないままに、課題が与えられればすぐに手をつけるような教育をしていることに問題が多いことを指摘している。
 建築学会でも建築企画やブリーフィング、プログラミングといった形で要求機能の明確を図る研究がなされてきたが、欧米における大学教育で見られるような発注者との対話を通じた要求機能の確定といった教育が実施されている例は少ない。まずは、独立した要求機能の確立が、顧客満足の観点からも見直されるべきである。
 システム設計では、発注者の要求機能とデザインソリューションが一義的に定義されることが望ましいとされるが、建築プロジェクトではプロジェクトの多様性により、一義的に設計の解を導くことはむずかしい。

経験に基づく論理的なアプローチと試行錯誤による実証的なアプローチ

 それゆえ、建築プロジェクトにおいては、それまでの経験で学んだ解のいくつかを適用することで部分的な解を設定し、それに基づく試行錯誤を繰り返すことで、最適な設計情報としている。
 また、意匠設計、構造設計、設備設計などと、設計行為そのものが分化する傾向にある現状では、意匠設計者が解となる構造パレメータの一部を設定することにより、その他の設計者がその解にすり合わせるように設計を実現するといった過程を経る。
 これらにより、擬似的に解とされた設計情報について、調整を繰り返し行うことで、最適な解としての設計情報をつくりあげる。つまり、経験に基づく論理的なアプローチと試行錯誤による実証的なアプローチの両方のアプローチを経ることで、解を導くことができる。

すり合わせ型アーキテクチャーの特性を持つ建築プロジェクト

 東大の藤本教授が指摘するように、すり合わせ型アーキテクチャーの特性を持つ建築プロジェクトでは、製造業の比較研究で指摘しているように、「設計情報の確定に時間がかかること」となる。また、最適な解は組合せにより変化することから、設計情報と確定される解が多数存在し、それらの解の組合せから選択するため、設計品質にばらつきが生じやすい。
 つまり、「設計品質の幅」が生じることとなる。
 設計品質のばらつきを少なくするためには、当初設定された要求機能情報と設計情報の合致の検証が必要であり、これまでないがしろにしてきたこの検証プロセスこそが、設計能力の差別化につながるのではなかろうか。
 より顧客満足度が高く信頼される設計者を確立するためにも、要求機能の確定を含めた設計プロセスのあり方について、業界全体で見直す必要があるのではなかろうか。

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