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未来の建設業を考える:「原発事故に学ぶ」

「フルターンキー契約」とは

 政府発表によれば、福島原発も、ようやく年内に冷温停止に至る過程に達しそうだとのこと。東電をはじめ、それを支えたゼネコンやそこで働いている皆さんの働きに敬意を表したい。
 ところで、その東京電力福島第一原発の建設は、1967年にさかのぼるそうだが、その当時の工事契約は、東電とGEの「フルターンキー契約」で進んでいた事実が、朝日新聞やNHKで明らかにされた。設計から建設まで、いわゆるすべてをGEに任せて、東電は鍵を受け取り、発電するだけ。
 文字通り、オールお任せのターン・キー方式であった。
 フルターンキー契約のため、原子力発電所の製造プロセスに、発注者が関わりなく設計が進められた。その結果、報道によれば、米国の自然災害と言えば、竜巻やハリケーン対策が最重要。これらの災害に備えた米国式設計をそのまま持ち込んだため、非常用発電機を地上ではなく、竜巻等に対して最も安全な地下に設置したとのこと。そのため、今回の被害日本大震災に起因する予想を超えた津波の被害により、福島第一原発の非常用発電機計13台のうち、地下1階にあった主要10台の電源損失につながってしまった。

フルターンキー契約を行ううえでの前提条件

 当時の原子力発電事情を考えれば「フルターンキー契約」や米国式設計をそのまま持ち込んだことは、致しかたない方法だったかもしれない。また、単純に今回の被害の拡大が契約方式にあったとも思わない。ただし、フルターンキー契約のリスクとメリットを明確に把握する必要があったのではないか。たとえば、契約前に、日本特有の多様な災害に対してのリスク等の条件を明確化し、それへの具体的な対策を求めるなど、フルターンキー契約を行ううえでの前提条件をつめる必要があったのではないか。
 また、同じ報道によれば、GEの元幹部の話として、フルターンキー契約では、米国においては、たとえ規制等が変更となっても契約変更の措置は取られなかったのに対し、日本では、設計変更で契約にないコストが発生しても、説明すれば支払ってくれた。結果として、米国内での原発プロジェクトは赤字だったのが、日本では一転、黒字となったとのこと。この逆のパターンとして、建設工事でも同様のことが、特に海外の受注において展開された。日本の多くのゼネコンがフルターンキー契約によって、設計変更処理がされずに、大きな損失を被ったことは記憶に新しい。

契約の前提条件を明確化

 これらから学ぶことは、フルターンキーの発注者としては、契約の前提条件を明確化するとともに、欧米の発注者のように、別途、プロジェクトマネジメント契約を行い、プロセスごとにきちんとした品質の工事ができているか、管理できる体制を構築すべきであろう。

変更処理方法の明確化

 一方、請負者としては、同じく契約の前提条件を明らかにしたうえで、契約で想定できない事象が生じた場合の変更処理方法を明確にすることが必要であろう。
 いずれにしても、多様な契約方式の選択の中で、発注者や請負者の置かれている環境を見極め、それぞれの契約のリスクと特徴を把握したうえで、最適な契約方式を選択していくことが、今後とも、重要なのではないだろうか。

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