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次代を創る「スマートビル・スマートシティ」:その23「11. デジタルツイン(Digital Twin)」

11.   デジタルツイン(Digital Twin)

メタバース(Metaverse)の世界は仮想の空間であり、実際には存在しない空間を構築したもの。 メタバース上に作られた会議室で世界中の人が集まってミーティングをしたり、メタバース上に作られたショッピングモールで買い物を楽しんだりします。一方、デジタルツインは現実世界を再現したもの。

ともに、バーチャルな世界でシミュレーションすることで、実空間ではできない実験やシミュレーション、ビジネスが展開される。

本書では、実空間とのつながりをデジタル化することに主眼が置かれているため、おもに、デジタルツインについて、説明する。

5G(第5世代移動通信システム)サービスが4月から始まった。5Gの特徴は、「高速大容量通信」、「超低遅延」、「多数同時接続」。2時間の映画でも3秒でダウンロード可能。1㍉秒以下の伝送速度でつながるため、ほとんど遅れが生じない。

この5G、大いに建設業界を変える可能性がある技術だ。

すでにいくつかの企業で活用に向けた試行が始まっている。

大成建設はソフトバンクと共同で、「5G」を使って北海道余市郡のトンネル内の複数のセンサーと結び、基地局から1400メートル離れた建設機械を遠隔操作することに成功した。

鹿島・竹中工務店の企業連合で開発した、「タワリモ」。大型タワークレーンのオペレーションを遠隔地でできるユニークな仕組みだ。風によるタワークレーンの揺れなども再現し、高速通信により現場にいる感覚で操作が可能だ。将来は、全国のタワークレーンの操作が、東京のオフィス1箇所でできるような画期的な仕組み。

大林組も、KDDI、NECと共同で、三重県のダム現場において、建設機械のリモートコントロールに成功している。

この5G技術、都市的には、さらにダイナミックに動き始めている。

新型コロナウイルスで外出自粛が続いた5月中旬、渋谷の街に5万人が集まった。これだけ蜜になると問題になるはずだが、実は、実際の街に集まったのではない。コンピューター上の都市、「バーチャル渋谷(主催:渋谷5Gエンターテイメントプログラム(KDDIを中心に約50社で構成))」に集まったのだ。参加者は、自身のアバター(PC上における自分の分身となるキャラクター)を操作して、自由に街を歩き回り、仮想のライブ中継にも参加できる。仮想空間における外出を、多くの人が楽しんだそうだ。まさに3密(密閉、密集、密接)でない空間を大勢が共有することに成功した事例だ。

この動きを更に加速した流れが、IT業界で急速に進む技術「デジタルツイン」だ。我々が現実にいる場所としての「リアル空間」とコンピューターで作られたバーチャルな「サイバー空間」を組み合わせることで、現実社会をより住みやすい社会にしようとする試みだ。

eXp Realtyという急成長中の米国の不動産仲介会社。従業員数は12,000人。この会社に社員が勤務するためのオフィスビルはひとつもない。社員全員、コンピューターの世界に作られたバーチャル(仮想)オフィスにログインすることで出社している。社員同士のコミュニケーション、セミナー、社内レクリエーションも含め、すべての仕事がコンピューター上で行われる。不動産エージェントという独立して仕事ができる特殊な専門職能をもつ人を社員としているため、特殊な要素はあるものの、いかようにも社員の増減に耐えうるバーチャルオフィスとなっている。

ここまで行くと究極だが、「バーチャル空間」との連動で、「リアル空間」で行われる作業や生活が、いまより良い方向に向かうことに大いに期待したいものだ。

リアルな都市をコンピューター上で同じように可視化する「デジタルツイン」技術。センサー、AI(人工知能)、ロボティクス、クラウド、5G(第5世代移動通信システム)など最先端の技術を統合したものだ。現実の都市環境を正確に把握するためには、都市全体で発生するあらゆるデータを補足し分析する必要がある。

その中で、注目すべきはセンサーの普及だ。

世界のIoTデバイスの数は390億台と、わずか5年でその数が倍増している。自動車での利用は言うまでもなく、スマートシティが拡大する産業用途(工場、インフラ、物流)では、前年度比で30%も増加している。2022年には「トリリオンセンサー時代」を迎えると言われ、1兆個を超えるIoTセンサーが出荷されるという予測があるほどだ。

 これらからもたらされる多くのデータが、社会のデジタルツインを加速する。

 製造業では、設計から製造、運営、メンテナンスまでの設計、製造、利用の一連のプロセスを一元的に管理する共有プラットフォーム「PLM(Product Lifecycle Management)」を導入している。モノをライフサイクル全体で運営管理しようとする動きだ。

 有名なところで言えば、GEやロールスロイスの航空機エンジン。エンジンそのものは売らない。エンジンの出力に応じて課金するサブスクリプションモデル(課金制)へビジネスの中心を移行している。各種センサーによりエンジンの実際の稼働状況をセンサーで把握し、最適なメンテナンスのタイミングを割り出し、トラブル回避につなげている。さらに、エンジンから得られたデータに基づき、エネルギー消費を最小化する最適な操縦について航空会社へコンサルするなど、周辺ビジネスへも進出している。

もっともデジタルツインを活用できているのは、自動車の衝突試験だ。実物実験がなくても、シミュレーションできることは、事業者開発を画期的に変えた。

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