未来の建設業を考える:建設産業における「共生」をめざして
アメリカ型の市場主義経済
アメリカ型の市場主義経済が拝金主義を生みだし、個と個のつながりを希薄化させていると言われている。
社会環境が変化する中、建設プロジェクトのあり方も大きく変わりつつある。特に、責任分担を明確化する傾向にあって、従来、領域を超えて、協調しながらひとつのものを作り上げてきたところから、領域を明確化したうえで、自分の範囲内でしか仕事をせず、結果として、領域にまたがる調整機能が劣化しつつあることを強く感じる。
その結果、品質の劣化という建設産業構造を揺るがす事態に直面している。
「英コンストラクティング・チーム」と題したレイサム・レポート(1993年)
この時代背景を見ると、1990年代初頭の英国の建設産業のおかれている状況に似ていることに気がつく。英国の建設産業のあり方を大きく変えたレポートのひとつに、「コンストラクティング・チーム」と題したレイサム・レポート(1993年)があるが、当時の状況を次のように表現している。
①発注者は主要な参加者であるのに、既存の建設市場の参加者たちを信頼していない。他の信頼できるコンサルタントを求めている。
②コンサルタントは、発注者の過剰な要求に脅えている。
③施工者は、発注者の支払いや倒産を心配している。
④下請けは、元請けの支払いや理不尽な値下げ要求に脅えている。
結果として、「建設市場におけるプロジェクト参加者間の信頼関係が完全に損なわれている。」とし、プロジェクト参加者の協調やチームワークでの解決、そして発注者、受注者双方の信頼を取り戻すことが、建設プロジェクト再生に必要不可欠であることを指摘している。
「英パートナリング」の導入
そこで英国では、プロジェクト参加者がまとまって目的を共有化し、「パートナリング」という形で、施工者間の協調や長期的な商取引を発注者受注者が継続的に実施し、協調体制を構築することで、問題の解決を図った。
今の日本の建設業
今の日本は、この指摘にあるように、発注者は専門家である設計者や施工者を信じることができなくなっているし、工事で言えば、専門工事業者は元請けの無理な値下げ要求に悲鳴を上げるなど、従来の建設プロジェクトの良さであった協調や共生といった概念がなくなってきているのが現状ではないか。
結果として、建設プロジェクト参加者が、自らの業務範囲内でしか仕事をせず、他の参加者のフォローどころか、調整も行わずに、仕事の終了だけが目的化してしまい、結果としてトータルな品質を確保しようとする動きがなくなってしまっている。
信頼される建設産業として
信頼される建設産業として、まずはプロジェクトベースの品質確保が行われるよう、モノづくりの現場において、元請けと専門工事業者の共生が求められているのではなかろうか。正当なコストにより専門工事業者が受注し、職人に正当な賃金が支払われ、モノづくりの喜びを感じられる配慮、そして、専門工事業者が適確な品質を提供できる能力を身につけ、それぞれの領域を超えたフォローができる体制を構築することが必要である。
そのためにも、建設の現場から共生を図り、協調できるマネジメント体制を確立したうえで、現場で実現した結果を建設産業全体で展開することが必要ではないか。
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