見出し画像

赤字ローカル線沿線自治体によるJR株式取得がもたらす影響について

 JR西日本の株式を沿線自治体が取得しようと言う動きがあります。目的はローカル線について今後の存続が危ぶまれることに対して沿線自治体がJRへの発言権を確保したいという事になりますが、こうした動きが拡大していった場合どのようになるでしょうか。

 今後、ローカル線沿線の地方自治体がJRに対して大きな発言力を得られるような規模での出資を始めた場合、大都市圏側も競争力や支配力の確保を目的に、より大きな規模での出資を行う可能性が高まります。こうした都市と地方の出資競争が生まれると、JRの経営方針が地域間の利害調整に直面することとなり、赤字ローカル線問題にさまざまな影響を及ぼすと考えられます。

  1. 大都市圏の自治体出資による赤字ローカル線への逆効果

地方自治体がJRに出資し、赤字ローカル線の維持を求める発言力を持とうとすると、都市圏の自治体も株主としての発言権を確保しようと出資を行う可能性が高まります。都市部自治体は特に収益性の高い都市部のサービス向上や大都市間輸送の強化に関心が向きやすいため、赤字ローカル線の維持に対しては消極的となりやすく、JRの経営方針が都市部中心となる圧力が生じることが予想されます。

以下のような点で、都市圏からの出資が赤字ローカル線の運営に与える影響が懸念されます。

・株主としての経済合理性と利益圧力
地方自治体が赤字路線の維持を求めても、都市部の株主は利益重視の立場からこれに対して懐疑的になる可能性があります。大都市圏の出資が増えると、JRは収益の出ない路線の廃止やサービス削減を求められる圧力が強まり、ローカル線の維持がさらに難しくなります。

・都市圏と地方自治体間の意向の対立
地方自治体が赤字路線の維持を求める一方で、都市圏自治体は経済合理性に基づき、効率の悪い路線を廃止するように求める場合があります。この意向の対立が、JRの経営方針において都市圏へのサービス集中化を加速させ、赤字ローカル線問題に対する対策が後回しにされるリスクが高まります。

大都市圏出資の拡大とサービス格差の拡大

都市圏からの出資が増えれば、都市部でのサービス強化が優先されるため、赤字ローカル線とのサービス格差が広がる懸念があります。例えば、新型車両の導入やダイヤの改善が都市部に集中し、地方路線は現状維持やサービス低下が進む可能性があります。また、都市部に限ってインフラ整備や輸送力強化が行われると、ローカル線はサービス水準が低いまま放置され、地域間格差が広がる恐れがあります。

利益調整メカニズムの必要性

こうした状況を回避するためには、都市圏の出資が増えても、地方路線の維持に寄与する利益調整メカニズムが不可欠です。地方と都市の出資自治体双方の意見をバランスよく反映し、赤字ローカル線を含む地域交通の維持を図るために、第三者機関による利益調整や、広域協力の共益モデルの導入が求められます。

まとめ

大都市圏の自治体からの出資は、JRにとって財政基盤の強化とサービス向上の推進力となり得る一方で、ローカル線の維持に逆風となる可能性があります。特に、都市圏の出資者が利益重視の姿勢を強めると、赤字ローカル線の廃止やサービス低下を促進し、都市と地方のサービス格差が拡大するリスクが高まります。このため、出資の際には、都市と地方の利益バランスを図る調整メカニズムを整え、広域的な協力モデルや利益再分配を通じた持続可能な運営体制が求められます。

JRの経営に与える副次的な影響

現在のJR各社には特定の出資比率の高い株主はなく、大部分が信託銀行を始めとした国内外の金融機関などでした。しかしJR九州において外国人機関投資家からの経営改善要求が出された事例もあり、自治体であれ機関投資家であれ「物言う株主」の登場はJR側からは警戒を持って受け取られる可能性もあります。
この場合、「物言う株主」の影響力を回避したいと経営側が考える場合、「時価総額1兆円の企業で1000億円出資したら議決権は10%だが、時価総額が10兆円になれば議決権は1%になる」というアプローチに出ることも考えられます。
つまり、上場JRが合併または経営統合などによって時価総額のより大きい企業体へ再編成し、自治体であれ外国人投資家であれ特定の出資者の影響力を制限しようという動きにつながるかもしないことを、最後に指摘しておきたいと考えます。

いいなと思ったら応援しよう!