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【感想】『累々戦記』人の心の闇に焦点を当てた王道的なオカルトアクションでありながら、独自の世界観とキャラクターの成長物語が絡み合った作品。

漫画『累々戦記』は、王道の退魔ものというジャンルに属しつつも、作者雨宮先生による独特のアプローチとデザインセンスが光る作品です。その主題は「人の心に宿る負の感情や思念を媒介に、身体や心を乗っ取る存在」との戦いであり、その戦いを通じて、正義と自由、そして人間の内面に向き合う登場人物たちの成長が描かれています。しかし、物語は期待されつつも早期打ち切りとなり、評価が割れる結果となりました。以下では、その理由や魅力について深掘りしながら感想を述べます。


1. 物語の骨子とキャラクターの魅力

『累々戦記』の物語は、理不尽を許さぬ風紀委員の朝風弥宵と、自由な精神を持つ転校生、涅森蒼葉の出会いから始まります。朝風は、強い正義感と自己犠牲の精神を持ち、学園内の秩序を守ることに全力を尽くすキャラクターです。一方、涅森蒼葉は柔軟で自由な考えを持ちながら、彼自身も「累」と呼ばれる存在と戦う「剥離師」としての役割を担っています。この二人の対比は物語の大きなテーマであり、「正義と自由」、「秩序と混沌」といった対立構造が巧みに描かれています。

物語が進む中で、累という存在の危険性が明らかになるにつれて、朝風と蒼葉の絆や対立が深まっていきます。累は人々の心に潜む負の感情を利用して乗っ取る存在であり、その出現は物語全体に不安感を与えます。この設定は、いわゆる「悪霊退治」や「怪異退治」といった類似作品と共通していますが、『累々戦記』が特に強調しているのは「人間の内面に潜む闇」です。敵対する累は単なる外部の脅威ではなく、人間の心そのものが原因となっている点が興味深いです。

2. 読みにくさと評価の難しさ

しかし、『累々戦記』が評価される一方で、しばしば批判される点として「読みにくさ」が挙げられます。読者の中には、この作品を「読む無量空処」と形容する声もあり、何とも言えない難解さが物語の理解を妨げていると感じた人も少なくありません。

この読みにくさの一因として、作品の語り口や構成に問題があったことが挙げられます。『累々戦記』は複雑な心情や概念を扱いながらも、それをストレートに伝えることができず、結果として読者が物語に入り込むのが難しかった印象を与えました。特に、累という存在の設定が曖昧で、彼らがどのようにして人々の心に作用するのか、またその影響がどのように現れるのかが明確に描かれないことが、物語の進行に支障をきたしているように感じます。

また、キャラクター同士の対話や感情のやり取りが多層的でありながらも、時に説明不足や飛躍があるため、物語のテンポが悪く感じられることもあります。これにより、物語の核心に迫るまでに時間がかかり、特に序盤では読者がついていけなくなることが多かったようです。

3. ビジュアルデザインとアクションの魅力

一方で、画力やデザイン面に関しては非常に高い評価を受けています。雨宮先生はキャラクターやクリーチャーのデザインにおいて卓越した才能を見せており、その点は読者の間でも評価が高かったです。特に、累というクリーチャーが持つ独特の不気味さや異質さが、物語全体に強烈な印象を与えています。

さらに、アクションシーンにおける迫力と動きの描写も見事で、画面全体が生き生きとしている点も見逃せません。キャラクター同士の戦闘は単なる力比べではなく、精神的な駆け引きや感情の衝突が伴うものであり、その緊張感がアクションをより一層引き立てています。このビジュアル面の優位性が、物語全体を支える重要な要素となっており、特に漫画のアクションシーンを楽しむ読者にとっては非常に魅力的です。

4. 打ち切りと今後の展望

『累々戦記』は、期待されつつも早期に打ち切られてしまった作品です。これは、近年のジャンプ作品においても稀なケースであり、その背景には様々な要因があると考えられます。読みにくさや設定の曖昧さが一因ではありますが、逆に言えば、作者が描こうとしていた物語のスケールや深みが、短い連載期間内では十分に表現しきれなかったとも言えます。

とはいえ、雨宮先生には十分なポテンシャルがあると感じられます。彼のデザインセンスやアクションシーンの描写は卓越しており、今後の作品でさらにその才能が開花する可能性が高いです。今回の『累々戦記』は、ある意味で作家としての成長過程を示す作品であり、この経験を糧にした次回作への期待が高まります。

まとめ

『累々戦記』は、王道の退魔ものの枠組みの中で、独自の世界観やキャラクターデザイン、アクションを展開しつつも、その複雑な設定や語り口が一部読者には理解しづらく、早期打ち切りに至った作品です。しかし、そのビジュアルデザインやアクションシーンには非常に高い評価が寄せられており、雨宮先生の今後の作品には大きな期待が寄せられています。『累々戦記』が持つポテンシャルを次回作でどのように昇華させるのか、楽しみに待ちたいところです。

▼ぜひ読んでみてください。


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