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【感想】『結婚するって、本当ですか』若木民喜先生のファンはもちろんのこと、結婚や人付き合いに悩む現代の若者にも響くテーマが詰まった作品【アニメ化】

若木民喜先生の最新作『結婚するって、本当ですか』は、独身生活を守るために偽装結婚をすることになった二人の物語。タイトルや設定だけでも興味を引かれますが、実際に読んでみると、これは単なるラブコメではなく、結婚や人間関係について深く掘り下げた作品です。

物語は、旅行代理店に勤める主人公の大原拓也と、本城寺莉香の二人を中心に展開されます。彼らは、共に社交性が低く、人付き合いが苦手な人物として描かれていますが、それぞれ充実した「一人生活」を送っているのが特徴です。拓也は猫と穏やかな日々を楽しみ、莉香は地図を眺めることで満足感を得ている。彼らは、自分自身のライフスタイルに誇りを持ち、それを維持し続けたいという強い思いがあるのです。

そんな二人に、突然の「シベリア支店開設」というニュースが舞い込みます。ここでのポイントは、独身者が優先的に海外派遣されるという会社の方針です。この時点で二人にとっては、充実した一人生活を脅かす危機が訪れるわけです。特に、コミュニケーションが得意でない彼らにとって、海外での長期滞在は大きな負担となるはずです。そんな状況下で、莉香は拓也に「結婚のフリをして、一人生活を守ろう」と提案します。ここから物語は、偽装結婚を装いながらも、次第に互いに惹かれ合っていく展開を迎えます。

偽装結婚のテーマと現代社会の結婚観

この作品の魅力の一つは、偽装結婚という設定を通じて現代の結婚観に触れている点です。偽装結婚という一見特殊な状況で描かれる二人の関係は、実は現代社会における結婚に対する多様な見方を反映しているとも言えます。結婚が必ずしも「恋愛の成就」や「家族を持つための手段」だけでなく、自分自身の生活スタイルを守るための一つの手段としても捉えられることが示唆されています。これは特に、現代の若者にとって共感できるテーマでしょう。結婚という制度そのものに対する捉え方が、個々のライフスタイルや価値観により多様化していることが、この作品を通じて感じられます。

拓也と莉香の二人は、それぞれの生活を守るために結婚を選びますが、そこには他者と共に生きるという選択が含まれています。結婚は他者との共生であり、その中で自分自身をどのように守り、育んでいくのかが重要なテーマとなっているのです。二人の結婚生活は、当初は単なる方便に過ぎなかったかもしれませんが、次第に相手に対する理解や尊重が生まれ、互いの存在を認め合う関係へと進化していきます。このプロセスを通じて、二人がどのように変化していくのかが、作品の大きな見どころです。

キャラクターの魅力と成長

キャラクター描写に関しても、若木先生の手腕が光ります。拓也は、猫を愛する穏やかな青年であり、莉香は地図に情熱を注ぐ無愛想な女性。このように一見個性的な趣味や特徴を持つ二人ですが、その背景には彼らの孤独や社会との距離感が反映されています。特に、彼らが自らの内面と向き合いながら、他者との関わりを避けてきた理由が丁寧に描かれており、読者は彼らに対して自然と共感を覚えることでしょう。

物語が進む中で、二人の距離が少しずつ縮まっていく様子は、非常に丁寧に描かれています。拓也が莉香の趣味に理解を示し、逆に莉香が拓也の猫との生活に興味を抱くシーンなど、互いに歩み寄る姿勢が感じられる場面が多く、そこには無理のない自然な成長が見られます。また、偽装結婚という特殊な状況に置かれたことで、普段では気づかないような相手の魅力や弱さに気づく瞬間が描かれており、これが作品にさらなる深みを与えています。

若木民喜作品らしさと今後の展開への期待

『神のみぞ知るセカイ』や『16bitセンセーション』といった作品で知られる若木民喜先生の作風は、本作でも健在です。独特のユーモアや温かみのあるキャラクター描写、そして何よりも人間関係の描写の奥深さが際立っています。本作はこれまでの若木作品と比べると、より落ち着いたトーンで進行していますが、それが逆にキャラクターの心情描写を際立たせており、物語に深みを持たせています。

今後の展開としては、偽装結婚がどのように二人の本当の関係へと発展していくのか、またそれが結婚という制度に対する二人の価値観をどのように変えていくのかが注目されます。恋愛要素はもちろんのこと、社会的なテーマにも踏み込んでおり、単なるラブコメにとどまらない広がりを持つ作品です。

終わりに

『結婚するって、本当ですか』は、結婚をテーマにしながらも、それを単なる形式的なものとして捉えず、人間関係やライフスタイルの選択に対する一つの視点を提示しています。若木民喜先生のファンはもちろんのこと、結婚や人付き合いに悩む現代の若者にも響くテーマが詰まった作品です。今後の展開に期待しつつ、二人がどのように幸せを見つけ出すのかを見守りたい作品です。

▼ぜひ読んでみてください!


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