#12【悪意/フリー脚本(5分・演者1人)】
【あらすじ】
あらすじだぁ?そんなん本編読んだら済む話だろ。
たかが5分の時間も作れないなんて、あまったれてるね。
どーせこんだけ言っても読まないんだろ?鼻から期待してねぇつうの。
(※椅子と人ひとりで出来る芝居です。メッセージをぎゅっと詰め込んでいます。)
【登場人物】
悪意
明転 。
とある男が舞台の中央にいる。
周囲は真っ暗で、そこにだけスポットライトが照らしている。
男は決心して、おいてある椅子にのぼる。
男は、首つりを試みているようである。
いよいよ、となると足がすくんで、体が震えて動かない。
そこで、客席に向かって台詞を吐く。
男:おい、お前ら、止めないのかよ。いくら演劇とはいえ、目の前で人が死のうとしてるんだぞ。なぁ、このまま俺が死んじまったら、どうするつもり?そうやって自分は立派な席に座って、のうのうと死を見過ごす気か?
一度、死ぬのを諦めて客席に説教。
男:さてはお前ら、人身事故が起きたときに限ってtwitterでつぶやくタイプの人間だろ?
舞台は電車内へ。さっきまで立っていた椅子は電車の椅子にかわる。
♪電車が走る音
男は椅子に座ってスマートフォンを操作している。
男:ガタンゴトン。ガタンゴトン。キーーーーーーッ!
男:ただいま、何らかの理由により急停車ボタンが押されました。
原因の解明を行っていますので、確認が取れ次第、発車致します。
お客様にはお忙しい中、大変ご迷惑おかけいたしております。
今しばらくお待ちください。
男:「おい、電車とまったよ~。最悪。」
「タイミング悪すぎ」
「人身事故乙。」
「え、これ人身事故なの?初めてリアルに遭遇したよ~」
「継東線は無能。人身事故多過ぎ」
男:すげぇよな。人が一人死んでるかもしれないんだぜ?人が一人死んでるのにこのつぶやきの量。Why Japanese Peopleだよな。
客席から笑い声。(サクラをいれる)
男:いや、笑い事じゃねぇよ?だって、人が死んでるんだから。
みんなで仲良く、手をつないで歩きましょうね~。
そう教わってきたやつに限って、こういう最も身近な悪意に気づかない。
自分の中の、悪意。
男:何がたち悪いって、無自覚なんだよ。
言葉さえ選んでいれば、人を傷つけても言いわけが効くって思ってる。
「そんなつもりなかったんです~。ごめんなさい~。」って。
だけど人の心って、そんなに強くない。
言葉で傷はつくけど、言葉で癒されることって少ない。
結果、「俺」みたいなやつが生まれるってわけ。
男:戦争によって亡くなった人たちに対しての黙祷。
これって誰が考えたんだろうね?だってさ、死んだ人の身になって考えてみてよ。
自分の生前愛した人が、親が、息子が、娘が、一斉に黙りこくって、それで気持ちが晴れる?
報われた気持ちになる?
俺だったら、自分の生活の為に働いて金稼いだり、友達と笑顔で遊んでたり、そういう様子を、笑顔を、見ていた方が嬉しいと思うんだよね。違う?
男:まぁ、自分のことをみんなが思ってくれる瞬間があっても、嬉しいのかもしれないけどね。こればっかりは俺にもわかんね。だって、死んだことないもん。
男:あと、黙祷してない人が悪者扱いされたりするじゃない。
「ニュースで黙祷のシーンを撮ってるカメラマンは黙祷をしていないじゃないか!けしからん!」とか言いだす始末。
お前は何様だ。神様か。神をも超越する存在か。
男:こうやって人と人との無意識の悪意で、自由なはずが余計がんじがらめになっていって。その結果、「俺」が大量生産されていくの。
男:まぁ俺は別にいいけどね。自分さえ楽しくて、満足できる生活を送れていれば何の問題もない。
他人なんて、勝手にすればー?って感じ。
客席からやじが飛んできている(という設定)
男:え?・・・・さっきお前が、死ぬのを止めないのかよって言ってたじゃないか、って?その理屈でいえば、お前を助ける義理はないじゃないか、って?
男:まぁそうだね。あなた方にとって、私一人が死んだところで何の被害もないしな。よし、じゃあ俺はこれでお暇することにしようかな。
♪電車の音
男、覚悟を決めたように電車の来る方向を見つめる。
男:あぁ~、なんかとんでもないこと起きないかな~。火事場のバカ力っていうけどさ、俺はもうそれを通り越して「無我の境地」に達しているのよ。
だって、死が怖くないんだもの。今なら空中浮遊とか、かめはめ波とか打てそうな気がするよ~。
男は死を決心し、走ってくる電車に体を向ける。
男:じゃあな。忘れないでほしいけど俺の産みの親はおまえ達だか・・
電車の通る音に台詞がかき消される。
電車の音は長い間響き渡る。