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【3分で読める】「オーバーライド/重音テトSV[吉田夜世]」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞の意味】

霧雨が降り注ぐネオ東京の夜。高層ビルの狭間に埋もれた小さなアパートの一室で、雨宮凛は瞬きもせずにモニターを見つめていた。

「くそっ、またダメか」

凛は舌打ちし、椅子から立ち上がる。窓際に歩み寄り、曇ったガラスに額を押し付けた。外では、無数のホログラム広告が雨に歪みながら明滅している。

生まれた時から、凛の人生は決められていた。下層区画出身者には、上層への道は閉ざされている。そう誰もが言う。でも、凛はその掟を受け入れる気はなかった。

「絶対に、この檻から出てやる」

独り言を呟きながら、凛は再びパソコンの前に座った。画面には複雑なプログラムコードが並んでいる。それは、彼女が密かに開発しているシステム。上層と下層を分断する巨大ファイアウォールを突破するためのものだ。

何度失敗しても、凛は諦めなかった。蟻が砂の城を築くように、一行ずつコードを積み上げていく。時には後戻りし、時には寄り道もする。でも、確実に前に進んでいた。

「おい、凛。また徹夜か?」

隣室の幼なじみ、ユウキの声が壁越しに聞こえてきた。

「うるさいな。お前こそ、いつまで眠ってるつもりだよ」

凛は投げやりに返事をする。ユウキは彼女の夢を「子供じみている」と一蹴する。でも、凛には分かっていた。彼の冷めた態度の裏に隠された羨望を。

キーボードを叩く音が部屋に響く。凛の指は休むことを知らない。たとえ世界が彼女の存在を無視しようと、彼女は世界を書き換えてみせる。

ブーっと機械的な音に弾かれて、大きくため息をつく。

「いつまでたってもエラーだらけの人生なんだよなぁ」

ふと、そんな言葉が頭をよぎる。でも、凛は構わず打ち続けた。誰かに読まれるためじゃない。自分自身を解放するため。そして、同じ境遇の人々を救うための文字群を。

夜が明けた。モニターに映る自分の顔が、ぼんやりと見えた。目の下にはクマができている。髪は乱れ、頬はこけている。

「ふん、これが限界ってわけ?」

凛は自嘲気味に笑った。でも、その目は決意に満ちていた。

「限界なんて、壊してやるさ」

彼女は深呼吸をし、最後のコードを入力した。エンターキーを押す指が、わずかに震えている。

画面が激しく明滅し、次の瞬間、真っ暗になった。

凛は息を呑んだ。

1秒。 2秒。 3秒。

突如、眩い光が部屋を包み込んだ。

「システム・オーバーライド...完了」

機械的な音声が響き渡る。

凛は目を見開いた。画面には、上層区画の地図が広がっていた。ファイアウォールは消え、全てのデータにアクセスできるようになっている。

「やった...」

声にならない声を上げる。喜びと興奮が込み上げてくる。

その時、ドアを叩く音が聞こえた。

「おい、凛!何があった?」

ユウキの声だ。凛は立ち上がり、ドアに向かった。

開いたドアの向こうには、驚きに満ちたユウキの顔があった。

「見てきたよ、ユウキ」凛は静かに言った。「私たちの新しい世界を」

ユウキは言葉を失った。凛の目に宿る光を見て、彼は理解した。彼女が本当にやってのけたのだと。

「準備はいい?」凛が尋ねる。「これから全てが変わる」

ユウキは小さくうなずいた。

二人は肩を並べて、アパートを後にした。霧雨は上がり、朝日が街を照らし始めていた。

新たな冒険の幕開けだった。バグだらけの世界を、彼らの手でリセットする。そんな物語の始まりを、誰も予想だにしていなかった。

〜Fin〜


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たみな涼介 | シナリオライター/アプリエンジニア
最後まで読んでいただきありがとうございます! ▶︎「4コマ漫画」「ボイスドラマ」 などで活動中のシナリオライターです。 活動費用が意外とかさむため、よろしければサポートして頂けると嬉しいです!“あなた”のサポートが私のマガジンを創ります。 お仕事のご依頼もお待ちしております!