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【3分で読める】「ロンリー/阿部真央」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞解釈】

信号待ちをしていると、少し前の方で自転車に乗る男子大学生が手を振っているのが見えた。手を振るその先には、彼と親密な関係にあると見える同い年くらいの女の子が、満面の笑みでこっちを見ている。

いつからだろうか、そんな光景を微笑ましいと思えなくなってしまったのは。

人間は年を重ねる度に、良くも悪くも心の機微に鈍感になると言われている。周囲の評価が気になって仕方がなかった思春期。その当時の心のまま社会を生きることは、例えるなら武装をせずに戦いに挑む戦国武将のようなものである。

擦れて、削れて、強化されて、隠して、失って、補強して。

そうして風化されながら出来上がったこの精神は、やがて他者への関心すら失ってしまった。いや、それだけではなく、自分自身にすら、あまり興味を持つことはなくなった。

きっと私だけではないのだと最近は思う。
そういった防衛本能は誰にでも備わっていて、要は程度の問題なのだ。

信号はまだ赤のまま留まっている。
夏の強い日差しが目に刺さるので、信号の方は見ないように伏せる。アスファルトから照り返す紫外線が鬱陶しい。ランチ時なので、自分と同じくご飯を食べに外出中のサラリーマンでごった返している。そのせいか余計に暑苦しさが増しているように感じる。

ちょうど自分が学生だった頃のことを思い出す。あの当時はまだ感受性豊かだったなと思う。誰かと一緒にいなくては、自分を保てない、そんな若さ故の眩しさがあった。

彼は今、どうしているだろうか。今更別れたことに未練があるとかそういう訳ではなく、単純に気になった。あれから何をして、どこで、誰と生活しているだろうか。あるいは私と同じく、大人らしい暮らしをしているのだろうか。

それを想像することは、案外楽しいものだった。ついでにちょっとした思い出話を思い出して、吹き出してしまうほどだった。

気づけば信号は青になっていて、私は慌てて人の波に乗って歩く。

一足先に先ほどの学生カップルは合流していて、男の子の方は自転車から降りている。それから同じ方向へと歩き出す。

女よりも男の方が、元カノとの想い出を捨てきれずに引きずるものだと聞いたことがあるのだけれど。

オフィスに到着するまでの間、しばらく彼のことを思い出していた。纏わりつくような夏の湿気も、少しだけ心地良いものに感じたのだから、人間は案外単純なものだなと思う。

デスク横の窓を開けると、さっきのカップルが歩いていた。その様子を目で追いながら、私はすぅっと深呼吸をした。

〜fin〜

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