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【3分で読める】「老人と海/ヨルシカ」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【考察と解釈】
生まれて初めて飛行機に乗った日のこと。
誕生日に買ってもらった新しいゲーム機に夢中になっていた僕は、離陸の瞬間にも気づかず、ひたすらにコントローラーを叩いていた。母の冷たい視線には気付いていたけれど、ちょうど物語の大ボスと遭遇したので、中断するにはあまりにもキリが悪かったのだ。
普段はテレビの大きなモニターに繋いで、それ専用のコントローラを使って操作しているもんだから、こうしてポータブルモードでゲームをするのは少々不便だ。コマンドが上手く打てず、これでボスに挑むのも10回目を超えているだろう。
飛行機に乗ることが怖い、という友達の話も聞いたことがあったけれど、僕はそうは思わなかった。
ふわっとした浮遊感と、席の背もたれに向かって無理やり押し付けられるような感覚は少し気持ち悪かったけれど、一度宙に浮かんでしまえば、それまでだった。
「もし飛行機が墜落したら、海の藻屑になっちゃうよ」
その友達は、そう言って飛行機に乗るのを怖がっていた。
海の藻屑、ってどういう意味だろう。クズっていうくらいだから、きっと使い古された雑巾みたいにボロボロになるってことなんだろうな。
ふと海の方が気になって、窓から外を覗く。
離陸してから5分も経たないうちに、窓からは広大な海がのぞいた。
陸と海の境界線が見える。そこには一人のおじいさんが座っていた。
おじいさん、と断定した根拠はない。気に入っている魔導師キャラが男の老人だったから、多分その影響だろう。
半袖のシャツから伸びた腕が握っている長い竿の先から、海に向かって糸が垂れている。随分と距離があるから、ここからはよく見えないけれど、あの糸の先には魚達を騙す釣り餌が結ばれているのだろう。
飛行機はますます、加速する。
モーター音がうるさく鳴り始め、身体にかかる重力がより一層強まる。
おじいさんはどんどん小さくなっていき、飛行機が雲のあたりに届いた頃には、それが人間なのかさえもわからないサイズになっていた。
心臓がバクバクと音を立て始める。
血の巡りが良くなり、身体が火照り始めるのがよくわかる。
気付いたら僕は、ずっと窓の外を眺めていた。
ゲームがスリープモードで画面を暗くしたことにも気づかない。
飛行機が雲にぶつかる瞬間を見ていたかったから。
これから僕は、見知らぬ土地へいく。
きっとそこには、僕が想像したことのない世界が拡がっている。
雲を抜けた先にも、そこには海が広がっていた。
青くて何もない海。下を見れば、真っ白な陸地が延々と伸びている。
もう、そこにおじいさんの姿はなかった。
民奈涼介
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