#3【地中探検隊/フリー脚本(15分・演者4名)】
【あらすじ】
本日の任務はこの地を掘り進め、なんらかの貴重品を取り出すことだ!
皆、準備はいいか?
道具の用意は?体調管理はできてるか?
先日マニュアルを渡したはずだが…忘れてきただと…?
ええい、仕方ない。とにかく掘り進めるんだ!命令に従え!
なぜなら私は…指揮官だからな。
【登場人物】
指揮官…何かと声がでかい。班員からは鬱陶しがられたりするが、根はいい人。班長…真面目で唯一指揮官のフォロー役に回る人。
副班長…緩い。適当だと思われてしまう場面も多々ある。
作業員…言われたことをやるが、言われなきゃ絶対にやらないポリシー。サイコパス。
指揮官:おはよう諸君。昨晩はよく眠れただろうか?
班長:はい!
副班長:はーい。(あくびをしながら)
作業員:はい。
指揮官:(時計を確認し)7:32。定刻を2分過ぎておる。
少し急ぎめで本日の任務について確認をしよう。私は指揮官の矢辺と申す。
私たちの任務はこのトンネルを奥深くまで掘り進めることである。
可能な限り掘り進め、発見したものを本部へと報告する。
ここまでは各々、マニュアルを確認した通りであろう。
作業員:(ボソボソと)マニュアルなんてありましたっけ?
副班長:(ボソボソと)俺は貰ったよ。読んでないけど。班長がくれた。
班長:昨日渡しとけって、お前に預けたはずだぞ?
副班長:あれそうだっけ?覚えてないなぁ~。
作業員:(副班長を睨む)
指揮官:手段は問わない。あくまでも私たちは「掘りすすめること」が重要なのだ。
作業員:あのぉ。マニュアル貰ってないんですけど。
指揮官:マニュアルに書いてあることは…まぁ大体常識の範囲内だから大丈夫だ。すなわち!私たちは今日の任務…
副班長:だったらマニュアルなんて作らなきゃいいのに。
間。気まずい空気。
班長:(指揮官に気を遣いながら)わ、私は、ちゃんと読みましたよ!万が一の状況にも対応できるように、緊急時マニュアルもありましたし。
副班長:緊急時か。要は命の危険を感じたら逃げればいいんだろ?
班長:(ボソッと)おい、お前。指揮官の話の途中だぞ?
副班長:へいへい。
指揮官は背筋をただし、再開する。
指揮官:とにかく、私たちの任務はこのトンネルを掘って掘って掘り続けること。その先にある「何か」を見つけた者にはボーナスも与えられる。心して取り組みたまえ。
班長:はい!(1人威勢のいい声)
指揮官:おうおう。いい返事だ。そうしたら次は…
ガイドラインその3のプリントは、皆持っているか?
副班長:まーたマニュアルかよ!マニュアルばっか読んでないで掘り始めましょうよ~。
班長:基礎が!何事も基礎と決まりごとが大事なんだぞ。黙って聞け!ね、指揮官?…指揮官?
指揮官は凹んでいる。
班長:指揮官!?どうしました!
指揮官:全然言うこと聞いてくれないからぁ~…この仕事向いてないのかな。
班長:そんなことありませんよ。続けてください指揮官。なんたって、あなたはこのグループのリーダーですから。
指揮官:そうか…そうだよな。よし、皆、気を取り直していこう!ガイドラインその3、52ページを開いてくれたまえ。
副班長:こんな分厚いマニュアル。誰が読むんだよ。(作業員に向かって)なぁ、これ欲しがってたろ?いる?
作業員:今更いらないですよ。どうせあたり前のことが書かれているだけなんでしょう?
指揮官:(ダメージを受ける)うっ。
副班長:重石代わりにはなるんじゃない?
作業員:何に使うんですかこんな重石。
指揮官:(ダメージを受ける)ぐっ。
作業員:持って帰るのだるいし。
指揮官:(ダメージを受ける)ぐぇ。
作業員:資源の無駄とはまさにこのことですね~。
指揮官:なんだか、君に言われるとダメージがデカイな。
作業員:あ、ごめんなさい。気にしないでください。私は指示に従うだけですから。この辞書みたいなマニュアル、あっても邪魔ですよね。持って帰りますよ。
指揮官:まだ私を追い詰めるつもりか!!!(苦しそうに)
作業員:(はっ?とでも言わんばかりの表情)
副班長:あーもう早く始めましょうよ。早く帰らないと嫁さんに叱られるんす。時間は有限ですよ。(勝手にスコップを手に取るマイム)
班長:あ、こらっ。待て。
作業員:賛成です。このペースじゃ日が暮れちゃいますよ。(一緒にスコップを持つ)
班長:あーもう。団体の規律を乱すんじゃない。どうします?指揮官。
指揮官:もういいよ。さっさと始めよう。(いじけ気味)
班長:大丈夫ですよ。私がフォローしますから。指揮官!
指揮官:(感動しながら)君…名前は?
班長:流石と言います。
指揮官:流石…流れる石と書いて、流石か?
班長:はい。
指揮官:いい名前だ。
作業員:すみませーん指揮官!どっちの方面に掘り進めていけばいいですかね?指揮官:指揮官…(指揮官と呼んでくれた嬉しさが隠しきれない)仕方ないな。どうした!なにがあった!
作業員:いや、どっちに掘っていけばいいか教えてください。
指揮官は方位磁針をポケットからだす。
指揮官:えっと、確か北西の方向を目指せばいいから…くそっ、方向が定まらないな…
副班長:(ポケットからスマホを取り出す)あ、じゃああっちの方角ですね。
指揮官:えっ。
副班長:北西でいいんですよね?ならあっちです。
指揮官:な、なぜそれを見てわかるんだ?
副班長:スマホのアプリっすよ。今の現在地と、向いている方角がわかるんです。(画面を見せて)ほらっ。
指揮官:こんな便利な物があるのか!?
副班長:便利な時代になりましたよね~。本当に。
指揮官は方位磁石を投げ捨てる。
指揮官:これどこにいけば手に入るんだ?
副班長:auショップ。あ、僕はキャリアがauなんでauショップですけど、一般的にはapple storeがオススメですね。最新モデルが欲しいなら8かxあたりが妥当ですけど。まぁiOSは変わりないですから、どれを選んでも大差はないと思いますよ。(ぺらぺら早口で話す)
指揮官:…日本語で頼む。
副班長:日本語ですよ。面白いですね、指揮官。
指揮官は「この若造が」とでも言いたそうな顔。
班長:指揮官(落ち着いて、の動作をしながら)とにかく掘り進めていきましょう。
指揮官:あぁ。そうだな。(怒りを噛み殺して)
一斉に掘り始める。しばらく経った頃。指揮官はただ見守っているだけ。
副班長:あのぉ…質問があります。
指揮官:なんだ?
副班長:指揮官は手伝ってくれないのですか?
指揮官:勿論だ。何かイレギュラーがあったらどうする?対応する人がいなくなってしまうだろう?
副班長:イレギュラーってなんですか?
指揮官:イレギュラーって…例えばその…不審者とかだよ。
副班長:不審者ぁ?
指揮官:あぁ。
副班長:こんなところに、人が来るわけないでしょう!?
指揮官:でも、万が一のために…
副班長:いいからいいから。
副班長は指揮官の服を引っ張る。
班長がそれを制止する。
班長:いい加減にしろ!
指揮官:…流石君!
班長はゆっくりと指揮官の方を向いて。
班長:指揮官。(もったいぶって)私からもお願いします。
指揮官:そんな…君は私の仲間だったんじゃ…
班長:確かに、彼の言い分も筋が通ってる。
それに、このままだといつまでかかるか見当もつきません。
作業員:(スコップを持ってきて)指揮官…。一緒に、掘りましょう。
班長:指揮官。
副班長:(状況を面白がって)しきかん。
指揮官:(感極まったように間を開けて)君達。もう、仕方ないなぁ!(はしゃぐ)
副班長:よし。勝った。(同時に)
作業員:よっしゃ、人手増えた(同時に)
班長:ありがとうございます!ありがとうございます!(同時に)
指揮官:よーし君達。今日は日が落ちる前に終わらせて、一杯(酒飲みの仕草)行くか。
副班長:パスです~。
指揮官:えぇ!?
副班長:言ったじゃないですか。嫁さんが待ってるんですよ。
そのまま副班長作業に戻る。
作業員:僕も~。
指揮官:えぇ!?そんな!?
作業員:育ててるサボテンに水やらないといけないんで。
そのまま作業に戻る。
指揮官の熱い視線を感じる班長。
班長:あのぉ。私もですね。
指揮官:君だけは信じていたのに!!
班長:すみません!指揮官!
指揮官:もういいわ!うぉぉぉ(急に無茶苦茶に掘り始める。)
副班長:そっちじゃないです。こっちですよ。
指揮官:こっちか。うぉぉぉぉ!やけくそだ!
それぞれ掘り続ける。
♪硬い物にぶつかる音
作業員:あれ?
指揮官:どうした?
作業員:ここ、ちょっと強めに掘ってみてください。
班長が掘ってみる。
♪硬い者にぶつかる音。
班長:何かあるっぽいですね。
指揮官がそのあたりを手で探る。
中に埋まっていたものを取り出す。
指揮官:みろ…ただのデカイ岩だ。
作業員:なんだ~。
副班長:帰れると思ったのに~。
指揮官:これ、どかすの手伝ってくれ。
作業員:はい。
指揮官と作業員の2人でその岩を、邪魔にならない場所に置いておく。
各々持ち場に戻る。延々と掘り続ける。
お客さんに「これなんの時間?」と思われるくらい延々と掘り続けていく。
徐々に副班長のペースは落ちていき、手が止まる。
副班長:あのぉ。指揮官。
指揮官:ん?どうした?(頼ってもらえて嬉しそうな顔)
副班長:この仕事の目的って、「可能な限り掘りすすめて、その先にある何かを見つけて報告すること」でしたよね?
指揮官:あぁ、そうだ。
副班長:「何か」ってなんですか?
指揮官:それは…きっと掘り進めていけばわかるだろう。
副班長:指揮官も知らされてないんですか?
指揮官:いや、その…なんでもトンネル開通が目的だそうだ。この辺りは地理的になにかと不便だから、開通してトンネルをつくろうとしているんだ!
副班長:でもさっきマップで見ましたけど、この先何キロ掘っても道にぶつかりませんよ?ほら(スマホの画面を見せて)
指揮官:…この地図が間違ってるだけじゃないか?…あぁそうだ!なんでも、この先を掘り進めていけば大量の秘宝が眠っているとの噂だ。それを掘り当てるための任務なんだ。
副班長:ははぁん。さては指揮官、今困ってますね?
指揮官:いや、それは…
班長:どうして教えていただけないのですか?
指揮官:…正直に話すと、私もこの計画の趣旨を聞かされていないんだ。
班長・副班長・作業員:え?
班長:どういうことですか?
指揮官は先ほどの辞書マニュアルを取り出す。
指揮官:このマニュアルは、実は指令書なんだ。出勤したらこの紙束が机に置かれていた。部長はあまり口数の多い方ではないから、仕事を振る時は大体デスクに指令書を置きっぱなしにする。それを確認して人材が必要だと判断し、募集をかけたところ君達が選ばれたというわけだ。つまり、このトンネルを掘り進めた後の計画については何も知らされていない。
作業員:えぇ…じゃあ!僕たちいつまで掘り進めればいいんですか?
指揮官:(指令書をペラペラめくりながら)正直なところ記載がないので、判断しかねる。
副班長:そんなバカな話ありますか!?
班長:そうですよ!そもそもその指令書、本当に指令書なんですか?
作業員:確かに…誰かが全く関係のない書類を置いただけかもしれませんよね…
指揮官:いつものことなんだ。その次の段階については、私たちは知ることが出来ない。他社との契約の都合とか色々あるんだろう。
副班長:本当に終わるまでやるんですか…?
指揮官:あぁ。
無言の間。
指揮官:君達の言いたいことはわかる、しかし、
副班長:目的がわからないのにやるなんてバカらしいですよ。なぁ?(同意求めて)
作業員:私も納得いきません。それにいつまでかかるかわからない、なんて聞いてませんよ!
班長:指揮官!私もこればかりは納得しかねます。分かっていないものを掘り当てろ、なんて無茶です。
副班長:そうだそうだ!今日は嫁さんの誕生日なんだ。さっさと帰らせろ!!
作業員:そもそも、スコップでコツコツ掘るなんて古典的すぎます!こういう(服のなかから爆弾を取り出して)火薬使って爆破した方が早いですよ!
副班長:そうそう、こういう爆弾で…(作業員の方をみる)爆弾?
作業員:え?
副班長:なんで、今爆弾持ってるの?
作業員:(ゆっくりと爆弾の方を見て)いけねっ。
指揮官・班長・副班長は黙って、作業員と距離をとる。
作業員:違うんですよ!
指揮官:それ、爆弾じゃないか。
班長:本物か?本物…なのか?
副班長:サイコパス…だったのか。
作業員:皆さん、落ち着いてください!いいですか、違うんです。僕は基本的に持ち歩いてるんですよ。
指揮官:…爆弾を?
作業員:えぇ。
指揮官:何も違ってないじゃないか!!爆弾じゃないか!
作業員:前の現場がこういうの使う場所だったんです。今回も使えるかもと思って、持ってたんですよ。
班長:危険物の持ち込み禁止ってマニュアルに書いてあったろ。
作業員:だから読んでないんですって。
班長の厳しい目線が副班長に飛ぶ。
副班長:(無視して)いやぁ、まさか本当に不審者に出会うとは…どうします指揮官。
指揮官:とりあえずその爆弾をあの辺りに置いてくれないか?
作業員:わかりましたよ。
しぶしぶ爆弾を置こうとする。
しかし、ほかの3人の目線が気になって爆弾を手放せない。
作業員:あのぉ~。
指揮官:…どうした?
作業員:置いたら、僕に飛びかかったりしないですよね?
指揮官:あぁ。しないからとりあえず置いてくれ。
作業員は置こうとする。が、やっぱり手放せない。
作業員:無理ですよ~(爆弾を振り回しながら)
3人は逃げ惑う。
副班長:こっちに向けるなバカ!
班長:どうしておかないんですか?
作業員:皆さんが怖いんですよ!変な緊張感やめてくださいよ!
指揮官:君が持ち込むのが悪いだろ!
作業員:(深呼吸して)置きますよ?
指揮官:あぁ。
副班長:変な真似するなよ。
作業員はゆっくり爆弾を置く。
(上手袖など、みえない場所に置くと良い。)
指揮官:そのままゆっくり手を上げろ。手をあげたらこっちに来い。
作業員:え、でも
指揮官:いいから早く!!
作業員はしぶしぶ手をあげて歩み寄る。
指揮官:確保ぉ!!!!!
副班長・班長が飛びかかる。
作業員:やめて、いたっやめてください!置いたじゃないですか!
指揮官:君は野放しにするには危険すぎる。
作業員:話が違う!!
♪時限爆弾の音
副班長:なんの音だ?
作業員:まずい…
班長:まだ何か隠しているのか?
作業員:スイッチが押された。
班長:スイッチ?
作業員:あなた方が変なことするから、アレのスイッチが押されたんですよ!!!
ほか3人:えーーーー!!!!!!!
副班長:おい、どーすんだよ。
作業員:離してください、時間式なのでまだ間に合うかも。
班長;指揮官、どうしますか!?
指揮官:急げ!!早く解除しろ!!!
作業員:えっと、確かこの辺りに(ジャケットの胸ポケットをまさぐる)
♪爆弾が爆発する音。
全員爆発した方を見上げる。
しばらく固まったまま。
指揮官:うぉぉぉおおおおい!!なんてこった!!!
班長:掘る手間が省けましたね…。
副班長:見晴らし良好だな。
指揮官:本部になんと報告すればいいんだ…
作業員:あ、あれは!?
作業員は少し離れた場所の地面をじっと見つめる。
作業員;温泉が、地面から温泉が湧いてますよ!!!
班長:恐らく水道管が破裂したんだ…なんてことだ。
副班長:指揮官。
指揮官:なんで?
副班長:もしかしたら…我ら地中探検隊が掘って探していたものはこれ、だったのかもしれませんね。
指揮官:…(無言)
全員がボーッと湧き出る温泉を眺めている。
終演。