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【3分で読める】「BOY/King Gnu」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞分析・解釈・王様ランキング】

【あらすじ】
塾の帰り道、僕は決まって、とある場所に寄り道することに決めていた。
建物が立ち並ぶ住宅街のなかで、少しだけ高台になっている場所。そこにおやつを持ち込んで、一人優雅にまったりとした時間を過ごすのが日課だ。

ほんのり暗くなり始めた頃、一つ、また一つと家の窓から灯りが漏れ出す。
そこから見える景色が、僕はとても好きだ。

寒い日が続いていた。雪が降っていてもおかしくないような空模様である。
お母さんが編んでくれたマフラーのおかげで、なんとか耐えられる。しかし、来週や再来月は、きっとそうはいかないだろう。

白い息を吐きながら、自転車を漕ぎ続ける。
若干傾斜気味になっていて、自転車で進むには少し大変な道路である。
時々向かい側の車道から車が飛び出してくることもあるので、それに気を使いながら、勢いを殺さないようにしっかりと足に力を込めた。

塾で頭を使ったばかりだし、試験前なので体育の授業でも身体を動かす機会がない。今の僕にとって、このくらいの運動は、むしろご褒美のようにちょうどよく感じる。

ほんのりと身体が熱を帯び始める。
それに反して、耳のあたりがひんやりとなったきたので、手で触ってみる。氷のような冷たさである。

耳に差したイヤホンから、大好きなあのアーティストの歌声が聞こえてくる。ハスキーな声なのに、輪郭が鮮明で、歌詞が聞き取りやすい。この間テレビの歌番組にも出ていたけれど、音源にも負けない素晴らしい歌唱を披露していたのを思い出す。どれだけ練習すれば、こんなに歌がうまくなるのだろうか。

そんなことを考えて無心に足を動かし続けていたら、いつの間にか目的地に到着していた。自転車の脚を下ろしてその場にとめ、カゴからリュックサックを取り出す。そして、近くにあった階段を駆け上った。

階段の上には、まだ工事途中の一軒家がぽつんと立っていた。
土台だけは組み上げられているものの、ここ一年間工事が進められた形跡はない。あるのは、作業員が残したコーヒーの空き缶と、積み上げられた石達、そして一人分の折り畳み椅子だけである。

僕はその椅子に腰掛けて、ふぅっと息を吐く。
そうしてそこから空を見上げると、辺りはいつの間にか暗くなっていることに気が付いた。星がちらほらと浮かんでいて、綺麗な空模様である。

だけど、僕が一番好き景色は、別にある。
「あっ」
この場所からは、向かいの山に立ち並ぶ家々の様子が一望できる。そしてたった今、そのなかの一部屋の電気が点灯したことに気が付いたのだ。
それをきっかけのようにして、次は隣の家…その次は少し離れた家が、部屋の電気をつけ始める。

向かい側の街が、全体的にほんのり明るくなる。
空にある星が、地上を照らすように。家々の明かりが街全体を覆っていく。
僕はこの、光が灯る瞬間が大好きなのである。

寒さも忘れて、僕はその様をじっと眺めていた。
そしてイヤホンから流れ続けていたあの曲を、大声で歌う。
大丈夫、ここは僕だけの場所。誰も邪魔する人はいないから。



民奈涼介

いかがでしたでしょうか?
これは自分の経験に基づいた作品です。

中学生の頃、親に内緒で塾の帰りに寄り道していたことがあります。屋台の焼き鳥を買って、自転車をこぎ、誰もいない空き地でぼーっと空を眺めている。そんな時間が、僕はとても大好きでした。

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たみな涼介 | シナリオライター/アプリエンジニア
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