大滝詠一「ペパーミント・ブルー」マスターデータに関する幾つかの事柄(6) '89リマスターと初版CD
SONY期大滝詠一楽曲「ペパーミント・ブルー」のデジタルマスターについて書いていますが今回は、今まで書いてきたCD選書や1989年リマスターシリーズ以前、初めてCD化された盤におけるペパーミント・ブルー(歌入り)との比較を見ていきます。
1984年リリースのEACH TIME CD [35DH 78]に収められていたペパーミント・ブルー(以降【初版ET】とします)
1986年リリースのComplete EACH TIME CD [32DH 555]に収められていたペパーミント・ブルー(以降【初版cET】とします)
1989年リリースのEACH TIME リマスターCD[27DH 5303]に収められていたペパーミント・ブルー(以降【89ET】とします)
【89ET】と【初版cET】
まずは【89ET】と、その前にリリースされていた【初版cET】を比較してみましたが、曲の先頭で波形を合わせても、時間経過に従って時間差が増えていきました。曲の後半では0.5[s]ほどのズレが生じていました。
アナログ機材、特に回転機構がある場合、同じ機材を使った場合で全く同じものが記録されることはありませんし、同じアナログマスターテープを再生した場合でも毎回同じタイミングで音が出ることはありません。温度や湿度によりモーターの回転速度には毎回誤差が生じます。
このことから、
【89ET】は【初版cET】作成時のデジタルマスターを使用したものではない
【89ET】は【初版cET】とは別のアナログマスターからデジタル化、もしくは、同じアナログマスターから別のタイミングでデジタル化されたもの
であると考えられます。
【初版ET】と【初版cET】
次に【初版cET】と、最も最初にリリースされたEACH TIMEのCDの音源【初版ET】とを比較してみます。
両トラックの時間軸を合わせ、それぞれノーマライズ(最大振幅に合わせてボリューム増幅)しました。片トラックを逆位相にしてミックスしたところ無音状態となりましたので、【初版cET】【初版ET】は同じデジタルマスター由来である可能性が極めて高いです。
ここで気になるのは大滝詠一の過去の発言です。
”デジタルマスターを使用したのは35DH 78のみ”?
「『EACH TIME』の初版」というのが、今回の【初版ET】の収録されている「35DH 78」ですね。つまり大滝詠一の発言によれば、【初版cET】の収録されているComplete EACH TIME の初版「32DH 555」はアナログマスターを使用しており、ミックスダウン時にデジタルマスターに記録された「35DH 78」とは違うマスターである。とのことですので、今回の調査結果と異なります。
もちろん、限りなく同じ条件でアナログマスターが記録された可能性もゼロではないでしょう。上記の対談では、EACH TIMEのトラックダウン時にはデジタルマスターを記録すると同時にアナログマスターを記録するテープを回していた(パラ回し)との発言も残っています。
ただ仮にこの時のデジタルマスターと、パラ回ししたアナログマスターからCD化した音を並べてトータル時間が一致した場合でも、回転機構のあるアナログ再生機器では避けられない「ワウフラッター」による音揺れが起こる為、逆位相のミックスで音が消失するほどデータが一致するとは思えません。
また、Complete EACH TIMEは別途ミックスしたマスターを使ったとの発言も残っています。
『Complete EACH TIME』には多くの別ミックスが収録されておりますし、実際『EACH TIME SINGLE VOX』や初版の『B-EACH TIME L-ONG』には僅かに異なるバージョンが収録されています。
※こちらのサイトを参考にさせていただきました
しかしながら今回の調査結果を見る限り「ペパーミント・ブルー」に関しては、【初版cET】は【初版ET】と同じ段階でデジタル化された、同一ミックスであると考えますがいかがでしょうか。