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【No Reading Day!】乾杯したいな
見るからに辛そうな真っ赤なカップ焼きそばを軽快に吸い込んで「うーん、これは喉にきますねぇ」と笑う彼女は、ほとんど無くなりかけのマヨネーズを手に取ってしぼりはじめた。マヨネーズが、星の口からブシュ、ブシュ〜とハシタナイ音を立てて限界を訴えているが、彼女は気に止めることなく再び焼きそばを吸い込み続け、あーだこーだと話が止まらない。
あのマヨネーズ、もう捨てるのかな。私だったら捨てるけど。
マヨネーズの星の寿命は短い。
もしかしたら口の中が熱すぎるのかもしれない。辛いものを食べたとき、舌が空気に触れると拷問であることを私は知っているし、なによりみるみる輪郭を失う彼女の唇が心配で話がまともに入ってこない。それなのにこんなにも惚れ惚れしながら見入ってしまう。
彼女の話のほとんどは劣等感だ。今は「このまま彼氏もできないかもしれないし、幸せになるために猫が飼いたい」と言っている。この間は確か、犬が飼いたいと言っていた。不確かだからこそ、彼女の時代が回る速度は速い。
ちっとも乱れていない前髪を丁寧に櫛でとかし、落ちていないリップを塗り直しながら、いつの間にか少なくなった焼きそばをお箸でクルクルと愛でたら「最後の一口」と小声でささやいた。
淡いミントグリーンのTシャツには“飲酒主義”の文字と、ビールジョッキが重なり合っている。春みたいだ。画面の向こう側で、残り少ないビールを傾けたら、最後の一口を幸せそうに流し込んだ。