初学者のための建築基準適合判定資格者検定対策
この記事は建築基準適合判定資格者検定(主事試験)の初学者であった私の経験をまとめることで、少しでも検定受検者の参考になればと考えて作成したものです。
建築基準法の審査を行うための専門的な検定に対して、初学者がどのようにアプローチしていくべきか、この記事で方向性を少しでもお示しできればと考えています。
【対象者】
以下のような方を対象としています。
・この資格を初めて受験する方
・建築学科出身ではない方
・できるだけ早期に合格を目指す方
・資格の勉強に対してある程度習慣化できる方
※本対策はあくまでも私の経験則をまとめたものなので、ご自身の責任で活用するかどうかを判断して下さい。
1.資格の概要
【建築基準適合判定資格者とは】
建築基準適合判定資格者(都道府県等においては建築主事)とは、建築物や建築設備・工作物等に関する建築確認申請において確認や検査等を行う資格者のことです。
国土交通省が主催する国家資格の1つで、建築基準法に関するスペシャリストとして、高い知識が要求される資格でもあります。
【試験概要】
・受検料
30,000円(市区町村、都道府県職員は無料)
・検定の内容
「建築基準法第6条第1項の建築基準関係規定」に関する知識
〇考査A
時間 :1時間25分
出題数 :17問(34点)
出題形式:5肢択一式問題
〇考査B
時間 :3時間25分
出題数 :66点
出題形式:記述問題(指定部分の適合判定)
◯合格基準点 : 67点(毎年公表)
・受検資格
次の2つを満たす者のみ受検が可能
①一級建築士試験に合格した者
②所定の業務について2年以上の実務の経験を有する者(なお、令和6年度から実務経験は受験要件から登録要件に変更予定)
・検定の日程(令和5年度の場合)
①受検申込受付期間
令和5年6月5日(月)~6月9日(金)
②検定日時
令和5年8月25日(金)10時〜16時
③合格発表日
令和5年12月11日(月)
※検定の詳細は国土交通省のホームページを
ご確認下さい。
2.参考図書等
私が利用した参考図書や講習会等の一覧です。
【参考図書】
・建築基準適合判定資格者の手引き(日本建築行政会議)
⇒制度概要や過去問の解説をまとめた手引き
この検定に欠かせない参考書
・基本建築関係法令集(井上書院)
⇒横書きで見やすく、関係法令も充実している法令集
・建築申請memo(新日本法規)
⇒法の規定を表や図にまとめる等、わかりやすい参考書
・過去10年分の過去問データ(国土交通省のホームページで公表)
⇒周回に利用する過去問データ
(ホームページはこちら)
・考査B対策用A3解答用紙(BONTのホームページで公開)
⇒考査Bの記述練習に利用するA3解答用紙
(ホームページはこちら)
【講習会等】
・建築基準適合判定資格者検定受検講習会(ICBA主催のオンデマンド講習会)
⇒手引きの発行時期(6月頃)から視聴できるようになる講習会で、手引きの購入と講習がセットになったものもあります。
・BONT模試(BONT主催)
⇒BONTというNPO法人主催の模試で7月中旬くらいに開催。この検定においては有名な模試で、実施方法が本番と近く、3年分の模試のデータを無料でもらうこともできます。
・ERI模試(ERIアカデミー主催)
⇒ERIアカデミー主催の模試でBONTと同じ時期に開催。こちらは在宅コースもあり、私はそれを受けました。模試の解答はかなり端的に記述されているので参考になります。
・その他の講習
⇒近畿では近畿建築行政会議主催の講習会があります。私はその講習会にも参加しました。
3.参考スケジュール
私の受検までの参考スケジュールを示します。
毎日1時間程度勉強できる環境であれば実現可能なスケジュールだと考えています。
3月
・過去に受検した先輩の法令集を参考に、法令集の線引きを開始
・過去の手引き(過去10年分)を入手して、考査Aの過去問10年分を解きながら、さらに線引き追加
4月
・考査Aは過去問を解いて線引き
・考査Bの建築計画1(4号建築物)と建築計画3(構造)の書き写しを始める。
5月
・考査Aは過去問を解いて線引き
・考査Bの建築計画2(特殊建築物)の書き写しを始める。
6月
・受検の申し込みを行う。
・令和5年度の手引きを入手して、オンライン講習を受講。
・考査Aは2周目に突入。
・考査Bの解答(試験用に過去問の解答を短くまとめたもの)をノートにまとめ始める。
7月
・近畿建築行政会議の講習を受講。
・BONTとERIの模試を受検。
・考査Aは内容を忘れない程度にすき間時間で周回。
・考査Bの過去問をノートにまとめて、ひたすら暗記。
8月
・土日とお盆期間にBONTでもらった過去の模試を使って、検定と同じ時間帯で解く練習をする。
・平日は模試の復習と、暗記できてない問題のチェックにあてる。
8月25日
・検定当日はノートにまとめた考査Bの解答を流し読み
4.考査Aの対策
私が行った考査Aの対策は、大きく分けて次の2点です。
①過去問の周回による暗記
②法令集の作りこみ
②の法令集の作りこみについては、後段で取り上げますので、ここでは①の過去問の周回による暗記について説明します。
まず、考査Aは建築基準法関係規定の知識を問うもの、考査Bはその知識で具体的な建築物の適合性を審査できるかを問うものとなっています。
そのため、考査Aを先に勉強して建築基準法の知識を習得してから考査Bを勉強した方が効率が良いと考え、3月に法令集を入手してすぐに先輩の法令集を借りて線引きを開始しました。
さらに、過去問10年分を解きながら線引きを続けて、5月末頃までに法令集を完成させました。
そこから、2回目の周回をだいたい模試の直前の7月中旬頃までに終わらせました。この時に意識していたのは次の2点です。
①問題と解答用紙を本検定と同じものを使用。
②時間配分を本検定と同じ時間で行う。
この2点を意識することで、本検定でも練習と同じ感覚で問題を解くことができました。
また、用紙はファイルに綴じて後で苦手な問題の分析にも使用しました。
7月の模試が終わってからは、模試の問題の線引きと、2周目に間違った問題とその分野の重点的な見直しを行いました。
これは考査Aの出題傾向が下記のように定められており、自分の苦手な分野の確認と対策が有効だと考えたからです。
〇考査Aの出題番号毎の分類と出題傾向(手引きより抜粋)
総則規定(3題)
問1:法の適用等
問2:建築基準法の手続きの要否
問3:違反建築物等に対する特定行政庁等の対応
単体規定(6題)
問4:一般構造
問5:地震力に関する建築物の構造計算
問6:保有水平耐力計算に関する構造方法
問7:防火・耐火規定
問8:避難施設等
問9:建築設備等
集団規定(5題)
問10:都市計画区域内等の道路等
問11:用途地域等
問12:日影規制・建築物の各部分の高さ
問13:容積率の算定の基礎となる延べ面積
問14:防火地域等
雑則(1題)
問15:建築基準法におけるその他の規定
関係法令(2題)
問16:消防法
問17:建築物省エネ法またはバリアフリー法
これらの対策を行うことで、本検定では32点(17問中16問正解)を確保することができました。
5.考査Bの対策
私が行った考査Bの対策は次の3つのステップで記述と法令を暗記することです。この方法は記述に対するハードルを下げる有効な手段だと考えています。
①解答を書くことに慣れる
②本検定用の記述を作り込む
③記述の簡素化と本検定の作戦を考える
もし、先輩等に試験用に作り込んだ解答例がもらえるのであれば、①と②をまとめてスタートできるのですごく有利だと思います。
ステップ①
まずは手引きの解答を丸写しすることから始めました。解答を写す順番は、①建築計画1(4号建築物)⇒②建築計画3(構造)⇒③建築計画2(特殊建築物)で進めました。
これが終わったのが5月末くらいで、記述の全体像は把握できたのですが、ボリュームが多くて時間内には全然終われないというのがその時の実感でした。
ステップ②
6月からは先輩の資料を持っている友人にお願いして、作り込んだ解答例を入手。これを基に自分なりに記述内容を作り込み、過去問10年分を解いていきました。
過去問を解く時に意識したことは次のとおり。
・目標時間を設定して、毎回時間を測る。
⇒建築計画1:40分、建築計画2:105分、建築計画3:40分、見直し20分で計画
・解答は本検定と同じA3用紙を使う。
⇒BONTの練習用用紙を利用しました。
・検定で使う解答例を作ることを意識して、
解答を再度ノートに清書する。
⇒復習による記憶の定着を図ることを意識して取り組みました。
これを10年分繰り返すことで頻出問題については、確実に記述できるようになりました。しかし、これでも全ての解答を時間内に書くのは難しかったです。
ステップ③
さらに、時間短縮を図るため、講習会や模試等の参考資料を利用した記述の簡素化と、捨て問を作る作戦を立てました。
私の場合は建築計画2の道路斜線を除いてちょうど、見直し時間20分の確保ができる状態だったので、道路斜線は適合判断と法令の条項だけ書くように割り切ることとしました。
これらの対策を行うことで、本検定では建築計画2の道路斜線以外の記述を全て書きあげ、適合の判断も全て間違わずに解答することができました。
参考で令和3年度の私の解答案を載せておきます。記述と法令の関係を色分けしてイメージしやすいようにしてます。
6.法令集の線引きのテクニック
法令集の線引きで活用できそうなテクニックを載せています。
①ペンは後で消せるようにシャーペンやフリクションペンを使用する。
⇒法令集のチェックで文字を消すように指示されることを想定して、消せるペンを使用してました。
②基本のアンダーラインは赤ペン、ただし書きは青ペンを使用する。
⇒これは、建築士試験でも採用されている色分けだと思います。同じように色分けすると分かりやすかったです。
③構造の仕様規定の適用箇所を縦ラインで見える化する
⇒私は耐久性関係規定をピンク色で、保有水平耐力計算を行った場合に除く規定を青色のマーカーで縦に引くことで、視覚的にその規定が判断できるようにしてました。
④第〇〇条において同じ等、略されるものを色で分かるようにする。
⇒例えば、施行令121条中の物品販売業を営む店舗(床面積1500mを超えるものに限る)の規定が施行令124条等で同じ規定を使うので、物品販売業を営む店舗の文字を全て同じ色で塗って分かるようにしてました。
⑤考査Bに使用する条文を箇条書きしておく。
⇒考査Bは該当する条文を解答用紙に箇条書きする必要があるので、出題される問題の条文の近くに関係条文を箇条書きしてそれを写すようにしてました。
⑥考査Bの関係条文はそのまま解答に書く部分だけ線引き
⇒記述内容を忘れた時に、線引きした部分だけを利用して記述していくと、解答が作れるように考えて線引きしてました。
⑦消防法は施行令7条の設備一覧を利用する。
⇒施行令7条には消防設備の一覧があるため、そこに関係条文とページ数を記入して、目次代わりにしてました。
⑧インデックスは最小限にする。
⇒ インデックスが多いと、法令集を開くのに邪魔になります。慣れてくると条文は覚えられるので、頻出条文だけ素早く引けるように厳選してました。
7.その他のテクニック
ここでは検定の対策として、使えるかどうか判断の難しいものや大事だと思う考え方をまとめています。
私は⑨の法令集の分割以外は全て採用しましたが、使用するかどうかをしっかり見極めて、自己責任で採用を決めて下さい。
①見直しの重要性
⇒考査Bの記述は時間との戦いになるので、適合判断の書き忘れや記述ミスが必ずあります。
これを防ぐために、見直し時間20分程度は確実に確保した方が良いです。
②検定当日は早めに会場入りして準備
⇒当日は法令集のチェックで混雑すると聞いてたので、チェック開始30分前くらいに行ってました。机の大きさや配置の確認も大切です。
③考査Bの解く順番
⇒考査Bの解く順番は建築計画1と建築計画3を解いてから、最後に建築計画2を解くのがセオリーのようです。
私は④のテクニックを有効に使うため、建築計画1→建築計画3→建築計画2の順に解いてました。
④文字が裏に映らないよう図面を敷く
⇒記述の解答用紙は冊子のようになっており、両面見開きなので、解答を書くと裏面の文字が反対側に写る可能性があります。(ERIの模試は本検定と同じ形式)
それを解消するために、建築計画1を解き終わったら、その問題用紙を折り畳んで下敷きのようにして、写り込みを防止してました。
⑤記述の情報を書き込みながら問題文を読む
⇒問題文に記述に使用する数値や情報が記載されているため、問題文を読み込みながら、情報を書き込むことで整理を行なってました。
建築計画1と2では、面積算定の緩和規定の部分に『1/10緩和あり』の文字を書いたり、内装制限の表の難燃材料の部分をチェックしたり、後でわかるようにしてました。
建築計画3では、記述に使用する数値を◯で囲って、どの数値が正しい数値か一目で判断しやすいように心がけてました。
⑥計算途中の単位は書かない。数値の計算が必要なものは表にする。
⇒これは講習会で教えてもらったんですが、計算過程の単位は時間短縮のために省略して、結果だけに単位を記入してました。
また、道路斜線の判定、歩行距離の判定、地震層せん断力の判定等は表形式にして、文字数を減らしてました。
⑦解答速報はBONTとERI模試の特典から
⇒これは検定に直接関係ないですが、検定以降にBONTのホームページで考査Aの予想解答と、考査Bの適合判断の解答がアップされます。
また、ERIの模試を受検すると、後日自己採点用資料がメールで送られてきます。こちらの方が詳しく解説されてました。
⑧使用するシャーペンの種類
⇒ 周囲にヒアリングした結果、クルトガを使用している人が圧倒的に多かったです。ただし、芯が尖る分抵抗が強くて、指が疲れやすい。
そこで私は、クルトガにソフトグリップをつけて、ソフトグリップが潰れない程度に軽く握ることで、無駄な力が入って疲れないよう工夫してました。
⑨法令集を分割するかどうか
⇒これは結果として、リスクが高すぎて採用しなかったんですが、一部の人は建築基準法とその関係規定を分割して使用されてました。
考査Bは建築基準法部分だけで対応できるので便利なんですが、リスクを考えるともう一冊持っていかないといけないので、それが嫌でやめました。
⑩『第』の有無
⇒これが1番悩んだと思います。建築基準法第〇〇条第〇項、この『第』を書くのが以外と手間で、初めは異体字の『㐧』で練習してました。
しかし、講習会や先輩の話を聞くと、減点はされるかもしれないが、一発失格にはならないと言われて、思い切って書くのを辞めました。
結果として合格できたので、書かなくても合格は可能と言えそうです。
8.おわりに
建築基準適合判定資格者検定は、考査に関する情報が少なく、そのため適切な対策が難しい人も多いのではないかと考えています。
私はこれらの情報が少しでも検定受検者の役に立つことを願っています。
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