『テスカトリポカ』感想。闇社会への知識欲を満たしながら、コシモの成長を見守る物語
直木賞受賞作『テスカトリポカ』を読んだので、感想です!
全体
近年? インターネットでよく叫ばれる、"メキシコがやばい"という共通認識をフックとして使い、メキシコでのギャングの幅の利かせっぷりと、そこから逃げようとする、聡明で若く美しい女性を初めの主人公として置くことで、読者の興味を引きながら読みやすい導入になっていました。
その後の世界各地の闇社会をリアルに描いて、読者の興味を引きつつ、終盤は最初の女性の息子であるコシモの成長と、闇社会からの逃避行、そして対決を疾走感たっぷりに表し、満足のいくクライマックスが提供されていました。
コシモ
全体を通してコシモの成長が描かれていたため、危ういキャラでもあるコシモを読者が応援したくなる構図になっていたと思います。
序盤~中盤にかけては肉体的な成長がメイン。コシモが幼少期に毎日行っていた彫りも、少年院の中で評価され、工房でもパブロに高く評価されることで、不遇だったコシモが認められる喜びを感じることができます。
中盤~終盤では、パブロの下で人間的な教育を受けながら、バルテロからはアステカ文明という芯を与えられ、精神的な成長も遂げます。
シェルターで出会う男の子との不器用なやり取りも、コシモの絵と精神の成長を感じさせ、いとおしく感じます。
ベタですが、パブロとカヌーにのり、振り向く様子で心の開き具合を表現する描写も良かったです。
バルテロ
悪の権化ながらも主人公の一人でもあるバルテロ。
南米からの脱出の際に、傷を負いながらも灼熱のコンテナに潜り、苦しんで死の淵を彷徨う描写によって、同情し読者が主人公として受け入れられるようになっていました。
それだけでなく、この描写があったからこそ、日本で兵士を育てるときに理不尽感が出ず、兵士がバルテロを畏怖することにも納得が出来ました。
闇社会感
メキシコのドンパチやる闇社会感、
インドネシアでの路地裏こそこそ闇社会感、
日本での社会問題に根を張った闇社会感、
沢山の闇社会がリアリティをもって描かれていて、知識欲が満たされるような楽しみを得ることが出来ました。
アステカ感
悪…ではないかもしれませんが、ダークなカッコよさを表現する仕掛けとして機能していました。戦士感、グロテスク感、伝統感、目的のために殺人を厭わない狂信感……。あと、シンプルに名前が長くてかっこいい。
そして、序盤~中盤にかけて散々描かれていたアステカの心臓の描写が、心臓医の末永の登場と心臓移植ビジネスの誕生により、現代と明示的につながったときは身の震えるような快感がありました。
繋がりはシェルターの男の子に関してもありましたし、多分自分が気づいていない、明示されていないアステカと現代の繋がりもいくつも仕込まれているのだと思います。少なくともそう思わせるほどの描写がありました。
アステカ描写が長いという批判もあったようですが、そういうところを読者の裁量で読み飛ばせるところが小説のいいところだと思います。
Not For Meだったところ
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