毒舌寿司【毎週ショートショートnote】
また来てしまった。
「大将、いつもの」
大将は頷くと、カウンターの笹の葉の上に鰯の握りを優しく置いた。
「イワシてもらうが、自分勝手な恋愛だったな」
佳奈子は鰯に手を伸ばしながら、深夜に何度彼を呼び出したか思い出していた。大将は佳奈子が食べ終わる頃にイカを握った。
「どうせ嫉妬して怒ったんだろ?イカりをそのままぶつけちゃダメだ」
次にハマチを。
「ま、恋はハマッチまった方が負けだ」
海老、マグロ、ホタテ、いくら、うに、と次から次へと大将が繰り出す美味と毒舌が押し寄せてきた。
中トロを。
「所詮、あんたの恋は中トロ半端だったんだよ」
卵を。
「結果的にはギョク砕して良かったろ?」
佳奈子の頭の中は悲しさと美味しさで溢れかえり、わけのわからない涙が止まらなかった。ごまかすように佳奈子はお茶を一気に飲み干した。
「大将、おあいそ」
大将はニッコリと佳奈子に微笑んだ。
「二度と来るんじゃねえぞ」
恋寿司
この店は恋愛で傷ついた人々が連日押し寄せる。
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