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太宰治 正義と微笑 を読んで
みなさん、こんにちは。太宰治の「パンドラの匣」に収録されている「正義と微笑」を読んだ感想を書いていきます。
あらすじです
芹川進という、プライドが高い青年が16歳になり、日記を書き始めます。彼が言うには、人間は、16歳~20歳までの間に人格が出来ていく。という考えを持っていました。将来、立派な人になったときに、人や自分が読んでも恥ずかしくない記録として、残しておきましょう。という感じで日記をつけていくことになります。主に学校生活、兄妹のこと、自分の夢など・・・赤裸々に書きます。
学校生活では、クラスメイトや先生のレベルが低いし、目の前のことしか考えていない人ばかりだ。と呆れつつ「僕だったら、こうするだろう」と心配したり、自分の考えを書いたり、愚痴をこぼしたりしています。芹川くんは「自分は他の人とは違うんだ」と一匹狼的なポジションです。
要するに、孤独で周りと合わない印象です。
兄妹については、大学に通っているが、あまり行っておらず、将来小説家を目指している、兄貴と裕福な家に嫁にいった姉について、書いています。姉が旦那さんのことで兄貴と揉めて、険悪な関係になりそうなところを、芹川くんが解決するといった活躍ぶりを見せます。母の約束である「兄妹皆、仲良くしてほしい」という役目を守り、初めは苦手だった、姉の結婚した家族と次第に打ち解け、仲良くしていきます。
自分の夢では、将来映画俳優になる夢をもち、それに向かっていくプロセスが描かれ、芹川くんはプライドは高いが、それに応じた努力していきます。
果たして、芹川くんは立派な人になれるのか。という感じです。
感想です
テレビでいう、芸能人や有名人のエピソード風な感じで、芹川くんの成長物語といってもいいです。4月から日記をつけるのですが、最初は毎日、原稿用紙400字の2~3枚ぐらい? 程度の量を書くのですが、途中でTwitterの呟きみたいに短かったり、日記をサボったりしています。
誰でも、物事を始めたときは気合を入れるのですが「1日ぐらいいいや」とサボって、三日坊主になってしまうこともあります。誰でもあるある、といった感じが、芹川くんが書いた日記から、うかがえます。
芹川くんが俳優に向かっていくプロセスは、読んで面白いです。高校を卒業して、大学に通いますが、嫌気がさし、家を飛び出します。映画俳優になろうと、横浜に一人で向かい、映画の撮影をしているところに行くのですが、この日はやっていないことにショックを受け、途方に暮れているところを、兄貴や親戚の人によって、連れ戻されてしまいます。
矢沢永吉さんのように、トランクとギターと5万持って、ビックになってやる。と飛び出した感じと似ていますね。
その後は、兄貴の慕っている小説家の先生からの齋藤先生という有名な先生を紹介され、劇団を受けたり、歌舞伎役者の面談を受けたりと奮闘します。特に劇団や歌舞伎役者の面談シーンは、芹川くんの性格と強い自信と、素直な態度が物語っています。
劇団の面接官の高圧的な態度と機械的な質問に、呆れつつ「もう、落ちてもいいや」という思いから、面接官が指定した、ゲーテの「ファウスト」の箇所を読まず、自分に自信がある箇所を読みます。結果、芹川くんの演技と台詞に、その高圧的な態度の面接官が思わず、満点にするぐらいに唸らせる。といったことを見せます。芹川くんは合格するのですが、面接に筆記試験もないことに不安を覚え・・・
「ここでは、立派な俳優になれないだろう」
と思い、結果と詳細を伝えに、齋藤先生のところに駆け込みます。すると、齋藤先生は芹川くんの顔を合わさず、お手伝いさんの人から
「春秋座」
という、超有名な歌舞伎舞台の名が書かれた紙だけ渡されます。芹川くんが戸惑っていると・・・
「ここを受けろ。ってことですかね~」
お手伝いさんは言いますが、芹川くんは「こんなの無理ですよ」と嘆いていると、齋藤先生は
「ふん。勝手にしろ」
と喝を入れられます。実はその様子を、襖の影に隠れて立って聞いていたのです。
なんやかんやで、芹川くんは「春秋座」の面談を受けることになります。ここでは、以前受けた劇団の面接と違って、きっちりしており、器械体操や筆記試験、面談、身体検査といったものがありました。
面談にて、面接官が
「ここのどこが、気になって、受けようと思ったのですか?」
に対し、芹川くんは
「別に」
と沢尻エリカさんを感じさせるような口調でそう言い、面接官が一斉に「え?」と言い、眉間に皺を寄せていきます。
芹川くんの姿勢に、会場は重苦しくなっていきます。しかし、緊迫のある雰囲気に飲み込まれず、芹川くんはこう言います。
「僕はここを知りません。ここを受ける前、ある先生に相談に行きました。『あそこの劇団では、僕は立派な俳優になれません』と劇団の面談に合格しましたが、面接官の高圧的な態度と下品な発言といった、俳優にあるまじき態度と姿勢を見て、不安を覚えたことを伝え、立派な劇団を教えてください。と頭を下げました。すると、お手伝いさんからの取り次ぎで、ここの名が書かれていました。僕がこんな立派なところに行けるはずがない。とお手伝いさんと言い合っていると、『ひとりでやれ』と、襖の影に隠れて立って聞いていた、先生から一喝され、ここを受けることになりました」
という感じで、これまでの経緯を包み隠さず、素直な口調でそう言います。
面接を受ける際・・・
「こういうことを言ったら、面接官にアピールできるだろう」
「出来なくても、出来る風に言っておかないと、落とされるかもしれない」
といった、ちょっと背伸びをした口調と内容を言い、マニュアル的になってしまいがちですが、芹川くんはそんなこと気にしていない様子です。まさに事実を述べることで、素直な人間性で勝負しているところが、グッときました。
就職やオーディションなど、受ける予定がある方は、芹川くんのような素直な人間性のある受け答えと姿勢を参考にしてもいいかもしれません。
太宰治の作品の中では、明るく、希望に満ちたものを感じました。20代青年の気持ちと揺れ動く葛藤や感情が生き生きとして、私も共感できる箇所が色々ありました。
読んで、頂きありがとうございます。