ファーストアルバムから完璧だった音楽家達
やっと音楽ネタ書きます。いつもコロナコロナじゃ気が滅入るばかりだし、こういうときだからこそ楽しいことを!
世の中、星の数ほどミュージシャンやバンドがいる中で、デビュー当時から既に完成されている人たちも相当います。このエントリーでは、そういった人たちに触れていきます。
パターンとしては2つありまして
1) 全くの新人なのにデビュー時点で完璧な人たち
2) それなりのキャリアがある人たちが万を持して作ったバンド
全部で10名(バンド若しくは個人)に触れる予定ですが、上記2つのどちらに該当するかを考察しながら進めたいと思います。
また、記述はデビュー年順で行きます。
1.Please Please Me / The Beatles (1963)
https://www.youtube.com/playlist?list=PLycVTiaj8OI9COuVDJdw_RdBWy11ALc4T
いきなりビートルズからは、我ながらハードルが高い…
ビートルズは、もちろん全てのアルバムが(Yellow SubmarineのB面を除き)音楽史に残る大傑作ですし、人類史上最高のバンドです。
ですが、そういった後世の評価を全く取り除いてこのデビューアルバムを聴くとき、その完成度の高さに驚愕します。この印象は、何百回聴いても変わりません。
よく知られているように、ビートルズはデビュー以来キャヴァーン・クラブやヨーロッパ遠征などの下積みを経てデビューしています。ジョン・レノンは「ライブバンドとしてはデビュー前が最高だった」と言っています。
このファーストアルバムは1日で録音されたことで有名です。つまりは実質上スタジオライブだった。マイクは基本的にモノラル1本。それで、このクオリティってヤバくないですか?
ビートルズの構成要素である「疾走感パネエ」「キャッチーなメロディ」「唯一無二のヴォーカルとコーラス」「緻密なアンサンブル」「リンゴのクセスゴドラム」、全てこの時点で揃っているのですよ。
アンソロジーを聴くとさらに驚くことに、ライブではどんなに状況が悪くてもこのアルバムと同じクオリティで演奏してるんですよね。録音技術に依存している今のミュージシャンで、同じコトできる人はどれだけいるでしょうか?
上記の区分で言うと1)、全くの新人なのに完璧なバンド。それがビートルズでした。
2.The Court Of The Crimson King / King Crimson (1969)
https://www.youtube.com/watch?v=7OvW8Z7kiws&list=PLXhfRoiJBIiuXOUv_7EJ1i7UKj0aGfy0U
初めに、クリムゾン以外のいわゆるプログレ5大バンドのデビューアルバムを並べてみましょう。
・The Piper at the Gates of Dawn / Pink Floyd
・From Genesis To Revelation / Genesis
・Emerson, Lake And Palmer / ELP
・Yes / Yes
さて、何枚知ってるかな?(苦笑)
例えばフロイドのデビュー・アルバムは、シド・バレットの実質的なソロアルバムと言える静謐な作品集で、私は大好きです。でも、完成度は大したことない。それ以外のバンドも「これなんだっけ?」と首をかしげるようなデビュー作品揃いです。
お解りですね。「クリムゾン・キングの宮殿」がどれだけとんでもないデビュー・アルバムだったのか。この1枚がProg Rockと言うジャンルを作り出し、その方向性を決めてしまったのです。
この1枚のアルバムの中に怒濤のユニゾンあり、ジャズ的なインプロと集団即興の同居があり、甘美極まりない叙情的な展開があり、この後50年にわたって展開されるキング・クリムゾンの要素が全て含まれています。
クリムゾンの頭脳、ロバート・フリップは基本的に理詰めで音楽を作る人で、実際彼の感傷を排したドライな音楽はどれも大好きなのですが、そんなフリップとマクドナルド&ジャイルズが奇跡の邂逅を果たし、人類史に残るデビューアルバムを作り上げた、それが「宮殿」なのです。
その後袂を分かった彼らはそれぞれ「ポセイドンのめざめ」と「マクドナルド&ジャイルズ」という佳作を生み出しましたが、いずれも佳作止まり。この2つのアルバムを融合していれば、或いは「宮殿」を超える作品が出来ていたかもしれませんが…まあ、これも歴史の必定ですな。
タイプとしてはもちろん1)。なんでこんなデビューアルバムが作れたのか…謎だらけですね。
3.Chicago Transit Authority / Chicago Transit Authority (1969)
えっと、シカゴですww
シカゴと言えばSaturday In The Parkとか「素直になれなくて」とか「長い夜」とか、全体的にはピーター・セテラがテノールで歌うバラードのイメージが強い感じがしますが、デビューアルバムは全く違います。Tower Of Powerも真っ青のブラスロック・ソウルバンド。
結成2年目のデビュー、かついきなり2枚組というMothers Of Invention(aka フランク・ザッパ)ばりの扱いを見ると、これは間違いなく1)パターンですね。
テリー・キャスのサステインバッチリギター、バンドの屋台骨を支えるロバート・ラムのキーボード、さらにはこの当時からハイトーンボイスを聴かせるピーター・セテラが揃っており、この時点でシカゴのサウンドは完全にできあがっています。でもってその上に豪勢極まりないブラスセクションが乗っかる。完璧っすわ。
テリー・キャスはこのバンドの実質的なリーダーだったのですが、デビュー9年後の1978年、ふざけてリボルバーで自分の頭を撃ち抜いてしまい即死。実に残念な出来事だったと思います。
4.The Brecker Brothers / The Brecker Brothers (1975)
実はこの記事、このアルバムのことを書きたくて始めました。
泣く子も黙ってまた泣く、ランディとマイケルのブレッカー兄弟のデビュー作。デビューアルバムの1曲目がこれですよ。Some Skunk Funk。完璧すぎません?
もちろんパターンは2)。百戦錬磨のスタジオ・ミュージシャン達が万を持して作ったアルバムです。作曲の大部分を手がけたランディのクリエイティビティが素晴らしく、Some Skunk Funkを始めセットリストの定番となるSponge、珠玉のバラードと見せかけて怒濤のファンクになだれ込むTwilight、さらにはホーさん(アラン・ホールズワース)とフランク・ギャンバレが火花を散らす「Truth In Shredding」の劈頭を飾った「Rocks」など、聴き応え十分すぎます。
このバンド、なぜかテリー・ボジオを呼んで彼がムチャクチャして帰っていった怒濤のライブ「Heavy Metal Be Bop」が有名すぎて、他の作品が余り知られていません。(もちろんこのアルバム最高なんだけどさ)。そうじゃなくて、スタジオ録音をもっと聴いて欲しい。そのような思いで書いております。
5.Jaco Pastrius / Jaco Pastrius (1976)
故・中山康樹氏は著書で何度も「ジャコはソロアルバム2枚をこの世に残して去る運命だった」と書いています。この言い方には色々と賛否あるでしょうが、実際このソロ・デビュー作が余りにも「完璧」だったために、そういう評価がなされてもしょうがない気がします。
私にとっては2枚目のソロWord Of Mouthも、このアルバムのオマケみたいなイメージを持っています。その位、このアルバムはとんでもなかった。1ベーシストのソロアルバムとして見た場合、これを超える作品を生み出したベーシストは未だにいないと思います。
隅から隅まで「初めて聴く」サウンドと楽曲。1曲目のDonna Lee ~ Come On Come Overの完璧な流れ!この後に控えるTOTOのファーストにテイストは近いですね。楽曲の方向はとっちらかって収拾着かないのに、「ジャコのベース」で全部落とし前をつけてしまう。持てるテクニックの全てを注ぎ込み(Okonkole y Trompaの全曲ハーモニクス攻撃とか、何遍聴いても衝撃的です)、かつ極めて音楽的な作品に仕上がっている、そんなアルバムだと思います。
ちなみに、ベーシストとしてのジャコのピークはウェザーの「8:30」辺りかなあと考えています。すさまじい演奏ですが、このアルバム以降で聴かれるジャコのフレーズは、殆どこのライブで出てくるクリシェばかりになります。ワンパターンそのもので、ザヴィヌルが彼をクビにしたのも止むなしかなあ、という感じです。
ファースト・ソロアルバムでアイディアをほぼ使い切り、ベース技術もウェザー在籍時にピークを迎えてしまった、と言うのがジャコの残酷な真実なのでしょう。となると、ジョニ・ミッチェルとやっていたようなアンサンブル志向に舵を切っていれば、もうちょっとミュージシャンとしての寿命は長かったのかもしれない。だけど、それは本人のプライドが許さなかったのでしょうねえ。
6.TOTO / TOTO (1978)
「最強のファースト・アルバム」と言えばこれを取り上げないわけには行きますまい。デビューでいきなりグラミー賞7冠。とんでもない新人が出てきた!と思いきや、実はバリバリのスタジオミュージシャン集団だったという…パターンはもちろん2)。つーか2)はTOTOのファーストのためにある区分と言って良いです。
演奏技術とか楽曲のクオリティとか、いちいち挙げだしたらキリがないのですが、何と言っても「流れ」が凄すぎます。デビュー・アルバムの1曲目からインストwwの「Child's Anthem」で、次にガラッと変わってウェストコーストロック全開のI'll Supply The Loveが来て、さらに息もつかせずAORの代名詞Gyorgy Porgyがやってくるという…完璧すぎませんか、この流れ?一聴してとっちらかったこの選曲、TOTOだからこそ出来る力業だと思います。
TOTOはもちろん、この後さらに作品のクオリティを上げていき「TOTO IV」で一つのピークを迎えるわけですが、デビュー時点で全ての要素を高い水準で兼ね備えている…と言う観点で、エントリーしました。
単にスタジオ・ミュージシャンを集めるだけではこうはいかなくて、要はBozのバックなどを中心とした「バンド」でやってたからこそのクオリティだと思うんですよね。The Band辺りと一緒です。ちなみに前出のシカゴ「Chicago 17」(Stay The Nightが入ってる奴ね)も、実際にはTOTOがバックだったのは結構有名な話です。確かに聴いてみたらモロにTOTOww
7.The Chick Corea Elektric Band (1986)
先日逝去したチック・コリアへの追悼も込めて、エレクトリック・バンド(以下CCEB)です。
パターンとしては完全に2)で、当時既にReturn To Foreverなどの活動で十分なポピュラリティを得ていたチックが、万を持してスタートした新プロジェクトでした。多分にジョン・パティトゥッチとデイヴ・ウェックルという驚異のリズム体を発掘したことがきっかけになったのでしょうね。マイルスにおけるハービー~ロン~トニーみたいなもんです。
CCEBはいわゆるフュージョンの枠で語られることが殆どなんですが、発表以来35年が経った今聴いても「チックのオリジナルな音楽だった」としか言えない。耳障りの良い凡百のフュージョン音楽とは一線を画しており、実は大変厳しい音楽です。つまり、聴き手にかなりの聴取力を求める音楽だということ。
典型例は5曲目のGot A Matchですかね。ビ・バップの形を取りながらテーマは高速ユニゾン、ベースもドラムもジャズのイディオムから遠く離れたフレーズを繰り出し、チックはSaw Tooth系のリード音を殆ど単音でしか弾きません。いわばワンホーントリオのようなやり方を取っている。こういう方法論って、CCEBの前にはまずなかったと思います。漫然とジャズ聴いてきた人には、この曲・このアルバムの凄さは伝わらないでしょう(実際CCEBはジャズ・ファンからはそっぽ向かれましたしね)。
アルバム全体の構成・各楽曲の配置も素晴らしく、何より当時はまだサックスのエリック・マリエンサルがいなかったことからキーボードの比重が高い。これがこのデビュー作を唯一無二にしていると思います。テーマ~ソロ~テーマという単純な曲は殆どない。各プレイヤーが重層的に演奏し、一聴して自由でありながら最終的には一つにまとまっていきます。
CCEBは現在に至るまで7枚のアルバムを出していますが、結局このデビュー作を超えるものはなかった気がします。どちらかというとピアノ中心のクインテットっぽくなっていって、アプローチが変わったと言うべきか。3枚目とか4枚目は好きですが、1作目の衝撃には遠く及ばなかった。
8.First Love / 宇多田ヒカル (1999)
残り3枚は全てJ-POP、パターンは全て1)です。
「デビューアルバムもしくはシングルが一番有名なミュージシャン」って結構いますよね。宇多田ヒカルはその典型例で、既にデビュー20年を超えているというのに、たまに紹介されるときは必ずAutomaticがかかります。まあしょうがない。その位、このデビュー曲はPV含めて衝撃的でした。
今聴いても、おそらくはMisia直系のジャパニーズR&Bの完成形と言えるこのアルバム、何より当時16歳のヒカルちゃん、歌唱が完璧にできあがっているのに驚きます。何だろう、この陰影というか歌の老け具合というか。日本語をブツ切りにする歌詞センスとか、チープなラブソングに全く流れない物語性とか、新しさを含めて本当にJ-POPシーンを変えた1枚・1曲だったなあと。
彼女の場合上記ジャコとかと一緒で、最初からできあがっちゃってるのでこの後の発展性が余り見込めなかった…と言うのが弱点だったのかもしれません。もちろん歌手としてもソングライターとしても超一流の彼女、その後発表される作品はどれも水準以上なのですが、「佳作」という感触が抜けないのはおそらくこっちの思い込みなのでしょうねえ。
余談ですが、数年前のドキュメンタリーで再活動アルバムの録音風景が流れていたのですが、クリス・デイヴ以下NYの超一流ミュージシャン達をアゴで使っていて「宇多田凄えなww」と思いましたね。
9.ハイヌミカゼ / 元ちとせ (2002)
「ワダツミの木」はJ-POP史上に燦然と輝く大大大傑作だと信じておりまして、実際何度聴いても涙してしまうほどファンなのですが、アルバム「ハイヌミカゼ」は、実に素晴らしい作品です。この人もまた「デビュー曲が一番有名」という典型的な例です。
奄美の島唄という、初めて聴く音楽とポップスの融合。そして、宇多田ヒカル以上に完成されまくったヴォーカル…元ちとせは作曲家ではなく歌手ですが、歌だけで一生喰える天才の一人だと思います。
フルアルバムを通して聴いて気づくこと。ごく一部の楽曲(1曲目「サンゴ十五夜」の後半など)を除き、コーラスの類いが一切ありません。原則として、全て元ちとせのヴォーカル一本で成り立たせている。プロデューサーがそういう判断をしたと言うことです(数少ないコーラスも、パーソネルを見る限り本人によるものです)。
こんな音楽家、いますか?ロバート・ジョンソンみたいなもんですよ、この存在感。「サンゴ十五夜」なんて、演奏の大半はパーカッション(ブラシ)とヴォーカルのデュオですからね。ジャコみたいじゃね?
このアルバム、それ以外にも山崎まさよしによる「ひかる・かいがら」、アルバムタイトル曲の「ハイヌミカゼ」、ラストを飾る「凜とする」等、実に美しく聴き応えのある曲が揃っているのですが、演奏やアレンジを唯一無二のヴォーカルが軽々と超えていく、そんなアルバムです。
彼女も宇多田ヒカルなどと同様、初めから完成されちゃってるヴォーカルなのですが、その後も奄美島唄と言うフィールドにとどまっており、むしろ独自性を保っていると思います。島唄集の「元唄(はじめうた)」など、まさに原点が解って楽しめるというか、やっぱりジャパニーズブルーズじゃんこれ…(沖縄島唄とも、津軽三味線などとも全く違うんですよね、奄美島唄って)。
10.HELP EVER HURT NEVER / 藤井風 (2020)
最後はこれ。恥ずかしながら、藤井風君を発見したのはついこの間(先々週くらい)でした。余りの衝撃にアルバムとEP(青春病)を秒で購入しました。アップルストアで。そのインパクトは、米津玄師を軽く超えてきました。
しかしまあ、こんな音楽家が出てくるんですねえ。岡山県浅口郡からww 最初インタビューを見たとき、その余りにもネイティブな岡山弁に(岡山県総社市出身の)妻は大爆笑していました。
とにかく、曲も歌詞も歌唱もオリジナリティの塊なんですよ。
・プロも絶賛する楽曲構築力、コード構成・進行や転調の意外さ
・特徴的ながらも耳に残るメロディと、23歳とは思えない老成した歌唱
・独特すぎる歌詞。「死ぬのがいいわ」とか、何でこんな死生観が持てるんだ…と思うし、「青春はドドメ色」なんて歌詞どこから思いつく?
音楽性そのものは、米津玄師やオリジナル・ラブ、或いはBUMP OF CHICKENなどに通じる部分も多いと思いますが、とにかくありとあらゆる音楽を聴いてきたのだろう…と言うことがよく解りますし(根っこにクラシックがあるのが大きい)、まさにネット世代・YouTube世代が生み出した音楽家なのだと思います。
アレンジをYaffle氏に委ねたのも大きかったですね。新しい音、に徹底的に拘る人だし、何よりJ-POPの良さをよく解っている。
このアルバムを聴くと、J-POPの底力を感じます。少なくとも藤井風のような音楽を作れる人が、欧米ポップシーンにどれだけいるのか?個人的にはビリー・アイリッシュなんかよりこっちの方が100万倍良いと思います。と言うか、日本の「歌謡曲」がいかに優れているかと言うことですねえ。
さて、藤井風もデビュー時点で完成されすぎているミュージシャンなわけですが、ここからどういう展開を見せてくるのか?音楽的引き出しが既に多い上に、これからさらに増やしていくでしょうから、その成長はそう簡単に頭打ちにはならないでしょう。実に楽しみです。
7,500字超えてしまった…
本当はボストンとかシンディ・ローパーとかスリップノットとか、他にも書きたい人がいたのですが涙を呑んで10枚に絞りました。後、FZ御大のFreak Out!は熟考の上、該当しないとして外しました。