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フランク・ザッパの聴き方:個人的オススメ作品(初級編)

フランク・ザッパ(以下FZ、FZ御大、もしくは御大)を聴き始めて、40年が経過します。
さすがに没後の作品は余りフォローできていませんが、生前の作品(Freak Out~Civilization Phase III)までは全て入手し、繰り返し聴き、自分なりの聴き方も確立しています。
かつては自分のウェブサイトでアルバムレビューなども公開していました。

FZ御大って(どのミュージシャンもそうですが)深みにはまると本当にキリがなくて、かつネット上で情報がいくらでも取れる今「全てのライブの全ての曲目や参加アーティストを諳んじることが出来る猛者」がゴロゴロいるんですよね。全世界的に。
実際The Big Noteと言う、FZ全アルバムの完璧なディスコグラフィなども存在する現在「FZ御大について語ることにどれだけの意味があるのか?」と思ってしまいます。自分はやはりライトなファンなので、全部の作品が好きなどととても言えませんし、何か発信したときに知識マウントを取られると辟易します。

ではありますが、ここでは敢えて自分なりのFZの聴き方と言う視点で、FZ御大のオススメ作品を「初級・中級・上級・マニア向け」に分けて書いてみたいと思います。基本おのおの5枚ずつをピックアップするつもりです。
対象はFZ御大生前の全てのオフィシャルアルバムです(一応、Beat The Bootsも入ります)。
本稿を書くに当たって、前出「The Big Note」を最大限活用しております。Freak Out~2018年のDance Me Thisに至るオフィシャルリリース全曲のデータ(時期・メンバー・対象となったツアー等)が網羅されており、FZデータベースのまさに決定版。英語版しかなくA4サイズで754ページという鈍器のような本ですが、FZマニアは必携ですね(残念ながらAmazonですと現時点で5万円を超えてしまっておりますが…)


1.Them Or Us(1984):最初の一枚はこれ?

私が初めて聴いたFZ御大の作品です。友達にアルバムを貸してもらいました。初めて聴くFZでいきなり2枚組…でもそれはごくごく普通のことであるとあとで気づきます。

当時(16歳頃)の私の音楽傾向は
・Van Halen~David Lee Roth大好き
・プログレ大好き、特にクリムゾン・Bruford辺りにドハマリ中
・ホーさん(アラン・ホールズワース)を神と崇めていた時期
・もともと現代音楽含めたクラシック聴いてたので、その辺にも抵抗がない
と言うもので、友達がこのアルバムを貸してくれたのも「ヴァイがいるよ」「FZの息子のドヴィージルはエディの弟子だよ」「チャド・ワッカーマンがドラム叩いてるよ」という理由でした。完全に参加ミュージシャン目線。
でも、これってFZの入り方としては結構アリなんですよね。
いざ聴いたら…作品を気に入るまでには数年かかりました。1曲目の「The Closer You Are」から「うわ何じゃ、このネチネチしたボーカル」。FZバンドの場合大きな弱点がひとつありまして、「普通の目線で上手いボーカリストが少ない」んですよね。文句なしに力があるのはIke Willis、Bobby Martin、Ray Whiteくらい。ヒゲデブ(フロ&エディ)も個人的にはイマイチだし、マザーズ時代にはいいボーカリストが本当にいない。
と言うことでFZは自分で歌うことになるわけですが、本人も認めるとおりお世辞にもいいシンガーではない。FZを聴くことには「本人のボーカルにどこまで耐えられるか」という課題が常につきまといます。
その点このアルバムが良いのは、2曲目からJohnny Guitar Watsonのバンカラな語りボーカルを楽しめますし、最後のWhipping Postではボビーの極上テノールを満喫できます。ボーカリストが多彩なんですよ。後ろで述べるYou Are What You Isも同じ理由で激推しですが。

アルバム全体としては見事なごった煮。ドゥーワップ調の曲からファンク・メタル・レゲエ・ゴスペル・複雑怪奇な変拍子インストまで、FZの殆ど全てのスタイルを経験することが出来ます。この点も、私が「1枚目の体験として」本作を推す理由です。
LPで言うとB面のSinister Footwear~Truck Driver's Divorceを聴いて「ん?」と引っかかったあなた、おめでとうございます。FZ沼に突入するきっかけはそれで十分です。

2.One Size Fits All(1975):Inca Roadsの衝撃

個人的にFZ史上最強のバンドはいわゆるdiscreetバンド、具体的にはRoxy & Elsewhereのメンツなんですが、そこから2名が抜けた本アルバムのメンツも十分に超一流です。このメンツの白眉は何と言ってもその黒さ。どれだけ難解な楽曲を演奏しても常にファンキーで、ドライブ感が最高なんです。
アルバム1曲目「Inca Roads」は、FZ全キャリアを通しても知名度の高い名曲ですが、1曲でdiscreetバンドのエッセンスを全て体現しています。ファンキーなイントロからジョージ・デュークのボーカルに引っ張られ、破壊的なリフなども挟みつつギターソロになだれ込み、怒濤のユニゾン大会(実際にはこの曲はこのユニゾン部分がオリジナルで、前後はあとから足されたもの)、さらには超高速7拍子のキーボードソロを経て大団円に至る…FZらしい、先の全く読めない楽曲展開です。
もちろんSofaも大名曲だし、Andyのかっこよさときたら余人の追随を許さないし、Florentine Pogenも重要なコンサートチューンですが、やっぱりInca Roadsなんですよね。Inca Roadsは単曲で「これが気に入ったらFZの全部を好きになれる可能性がある」という楽曲だと思います。

3.Sheik Yerbouti(1979):「ロックが好き」ならこれかな

FZ御大がワーナーと完全に決別して立ち上げたZAPPA RECORDSの一発目がこれ。当時としては大部なLP2枚組(CDは1枚)で全18曲というボリュームですが、今の時代はパッケージの場合このくらいの長さが当たり前になってるので、むしろ今の方が取っつきやすいのかもしれません。
恐らくはレーベル1発目ということでセールス的にも狙ったのでしょう。シングルを意識したDancin' FoolやBobby Brown(思いっきりゲイの歌詞のこれがヨーロッパでウケたのが不思議ですが)なんかも十分楽しいですが、何と言ってもストレートなロックンロールが多いのですよ。特に2曲目Freaksから5曲目Jones' Crusherまでの流れが最高。テリー・ボジオの引き攣るようなボーカルがかなり効果的ですね。
私はFZを誰かに勧めるときは、その人の音楽的バックグラウンドを考慮します。世の中的に最も人口が多い「ロックファン」には、このアルバムが一番いいんじゃないかなあ。
もちろんRat TomagoやYo-Mamaに代表されるギターソロ抽出曲、クセノクロニー大爆発のRubber Shit、Sinister Footwearの動機が出てくるWild Loveなど、ヒネった楽曲もそれなりに入っており、往年のファンへの目配りも忘れていません。
問題がひとつ。1曲目I Have Been In Youが例によってFZ御大のネチネチボーカルスタートという…これ、狙ってるとしか思えません。

4.You Are What You Is(1981):極上のコーラス・アルバム

本作を真の「初級編」とすべきかどうか、随分悩みました。その位この作品は、FZの音楽を知らない人にとっても取っつきやすく、かつ音楽的価値も非常に高いアルバムです。
この時期のFZは既に、ライブを全部録音・編集してアルバムリリースする手法にかなり傾倒していますが、本作はその大部分がスタジオ録音をベースとしています。それだけに、スタジオ録音ならではの豪華かつ緻密なアレンジが光ります。ちょっとしたキーボードのリフや装飾音が実に考え抜かれていますね。
何と言ってもボーカルのラインナップが実に秀逸なんです。1曲目Teen-Age Windはボブ・ハリスのシャープなハイトーンで幕を開け、次のHarder Than Your Husband(なんちゅうタイトルじゃ)では何とお久しぶりのジミー・カール・ブラックがリード。次のDoreenはレイ・ホワイト、さらにGoblin GirlではFZ御大と、リードがめまぐるしく変わり飽きさせません。
でもって、殆ど全パートに施された分厚いコーラス。これこそが本作最大の特徴であり、聴きやすさの原点となっています(コーラスのお陰でFZのネチネチボーカルがかなり緩和されている側面も…)。その極北がHeavenly Bank Accountで、極上のゴスペルです。ゴスペル曲の歌詞が新興宗教団体のヘッドをDisる内容…と言うのも、実にFZらしい。
一方で、難解なインストゥルメンタル曲や長大なギターソロ曲は殆どありません。前者はJumbo Go Awayの間奏部分、後者は「不吉な靴下第3楽章のテーマ」で聴かれるのみです。
最大の聴き所は、やはりSociety Pages~Coneheadの6曲で構成されるBeautiful Suiteでしょうか。息つく暇ないスピード感と構成、難解なフレーズとポップなメロディの同居。FZ音楽の真髄と言えます。
難点は…長すぎることですかねえ。もともと2枚組アルバムだったのでしょうがないですが、全20曲・70分。ビニールなら「今日はC面を聴こう」というやり方が出来ますが、CDやサブスクでは不可能だし…

もう1点、ドラマーのデヴィッド・ローグマンについて。もともとスタジオワークで多忙を極めていたヴィニー・カリウタ親方の代役で1年だけ参加していたこともあり、FZ史上最も影の薄いドラマーと言えます。アルバムで参加しているのは本作とTinseltown Rebellionのアタマ1.5曲だけで、それも途中からヴィンス親方の怒濤のタイコに切り替わるという不遇ぶり。いやね、ヴィンス親方と比べるのは可哀想ですよ。テリー・ボジオでさえ10秒で降参する超絶変態ドラマーですよ、当時のヴィンス親方。
それはそれとして、先入観なしに良く聴くと、デヴィッドは派手さこそないしギターソロのバックでFZを煽りまくることもしませんが、手堅い良いドラマーですし、ノリもしっかりしています。Beautiful Suiteは彼のドラムがないと成り立っていない気がします。個人的にはスネアのチューニングが緩くズボズボした音なのが気に入りませんが、FZがOK出したのならまあしょうがないかなあ。

5.The Grand Wazoo (1972):極上のジャズ・ロックアルバム

FZ御大の作品の中で「ジャズ・ロック」と言って差し支えない作品はいくつかあります。最も有名なのは言うまでもなくHot Rats、本作の前のWaka / Jawakaもよく知られています。Hot Ratsは全英チャートで9位取ってるんでFZ全作品の中で最も有名かもしれません。

え?
じゃあ何でHot Rats挙げないのかって?
いやー、ワシあんまりHot Rats好きじゃないんですよ(苦笑)
Peaches En Regaiaは聞き飽きちゃったし、Willie The Pimpはビーフハート隊長のボーカル最高だけど、ギターソロ長すぎて飽きるし、何か全体的にアンサンブルがこなれてない気がするし…と。まあ主観です。
Hot Ratsはオリジナルマザーズの末期にソロアルバムとして制作されている点も含め、FZ御大がややサイドワーク的に手がけたものかと勝手に考えていて、オールスターキャストであることを含めやや「軽い」感じがするんですよね。
それに対して、WakaとGrand Wazooは、FZがバカにステージから突き落とされた後の車椅子生活中・オリジナルマザーズも止むなく解散後…と言うタイミングのものであり、FZ御大は正しく心血を注いでこのプロジェクトを進めていたと思うのです。本気度が違う。特に本作はWakaに比べてもバンドの躍動感が素晴らしく、FZ流ジャズロックの頂点だと思います。
とにかくタイトル曲、The Grand Wazooが最高。白眉中の白眉。ノリとしてはマイルスの「ジャック・ジョンソン」を思い浮かべてください。あれです。しかもあっちはフリーなスタジオ・セッションなのに比べ、FZ御大は相変わらず一糸乱れぬ緻密なアンサンブルで聴かせる。ギターソロの長さもちょうどいいし、ブルージーで最高だし。
全5曲ですが、構成が実に良い。私がもう一曲大好きなのはEat That Questionです。殆ど単一リフみたいな曲なんですけど、テーマ再現部で高音ブラスパートが鋭く被さってくるところがもう最高です。
そして「Billie The Mountain」を彷彿とさせるFor Calvin、いつものごった煮アップテンポピースであるCletus Awreetus-Awrightusを経て、オーラスのBlessed ReliefはFZ御大としては相当珍しい、スローテンポワルツの楽曲。ホントにこの人は何でも書けるんだなあ…メンバー全員ソロもいちいち素晴らしくて、最初から最後まで全く飽きません。


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