Bill Bruford : 世界で最も革新的だったドラマー(後編)

後編サルベージします。

5. セッションワーク

さて、Disciplineクリムゾンと並行してビル先生はいろいろなセッションワークをこなしています。
有名なのはMoratz & Bruford辺りですが、筆者は余り好きではなく…よって省略。

■教則テープ(1985年頃?)

ビル先生が、Earthworks発表直前くらいにリリースした教則テープ。英語のテープに日本語訳のついた解説ブックレットが付いていました。
私、これを大学時代に憑かれたように聴き続けてました。が、車のボンネットに置きっぱなしにしたこと等が祟り、聴取不可能となって泣く泣く処分したのです。
これは、私の人生の中でも最大級の失敗です。今思い出しても、実に示唆に富んだ内容だったのです。

Disciplineのドラム・ベースパートは17/16拍子であることを解説(言われなきゃ絶対解らん)
・Earthworksの収録曲のシモンズプログラミングを、微に入り細にわたって解説
・その他、ドラム各パーツのチューニング方法などを解説

ネットで探してもほぼ全く出てこない本教則テープの情報。どなたか、情報あったら教えて下さい。

■David Torn "Cloud About Mercury"(1986)

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ビル先生のエレドラ仕事最高峰の一つ、と言って良いと思います。
David Torn2枚目に当たるこの作品は、後期の作品のようなアンビエントに過度に寄った作りでもなく、ジャズと環境音楽が入り交じった絶妙の作品で、ビル先生はシモンズによる「メロディドラム」を最大限に活用しています。
トニー・レヴィンとの相性がまた抜群にいいんだわこれが。
このセッションが、後の前期Earthworksに結実したのは疑いもなく、実に重要なアルバムだと言えましょう。今でもECMでフツーに入手できます。

ライブ映像がちゃんと残ってます。
ベースはミック・カーンにチェンジしてますが。

https://www.youtube.com/embed/oZM3vHVjYzQ

■渡辺香津美「The Spice Of Life」(1987)

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当時1曲目の「Melancho」はCMソングにもなってましたね。
いや、このアルバムは興奮したなあ。なんと言ってもBrufordリズム体の再来でしたから。
今聴くと音楽的には結構どうってことないのですが、ビル先生のエレドラワークは冴えまくってますねえ。当時まだジェフ・バーリンのベースに惚れていた私は、City辺りのベースソロを全部唄える状態でした。
同じメンバーで2枚目もリリースされましたが、殆ど話題にならず。まあ、この1枚目でほぼ完成されてますからね。

これもYouTubeにちゃんと動画残ってますね。ジェフの格好がクソダサイww

https://www.youtube.com/embed/-zmxnfzl86Q

6.Bill Bruford's Earthworks 前期(1986-1993)

はー、やっとここまで辿り着いた。
Earthworksは、ビル先生のキャリア総括にふさわしいバンドだと思います。ここで先生は「世界に一つしかないブリティッシュ・ジャズロック」をいとも簡単に構築してしまいました。
ただし、前期と後期ではその趣が大きく異なります。前期のアースワークスは、ビル先生のエレドラアプローチを最大限に発揮しつつ、ブリティッシュ・ジャズ界の新進気鋭メンバーを集め「これでもか」と世に問うた側面が強かった。例えがマニアックですが、スティーブ・コールマンのM-Base初期に近いテイストがあります。

1枚ずつレビューしていきましょう。

1) Earthworks(1986)

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Bill Bruford : drums, electronic drums, percussion, producer
Iain Ballamy : alto, soprano, and tenor saxophones
Django Bates : tenor horn, trumpet, keyboards
Mick Hutton : bass
Dave Stewart : keyboards, sampling, producer

いや、改めてパーソネル見るとDave Stewart入ってるのかこのアルバム。道理でこの完成度…
本作、多くのファンに衝撃を与えたようですが、私は殆どビックリしませんでした。何せ前出の教則テープで大半の曲のネタバレしてましたからね(苦笑)

本作で改めて感動したのが、ビル先生の「メロディックアプローチ(Chordal drums)」です。
エレドラをメロディで使うのって、大抵はろくなことにならないんですよ。デイヴ・ウェックルでさえそうだった。神保彰の体たらくときたら「お前は黙ってフュージョンバンドのバックやってろ」と言いたくなるレベル。テク見せがメインになって、全く音楽になってない。
しかし、ビル先生はエレドラをメロディ楽器として確立させた、殆ど唯一のドラマーだと思います。これってドラマーのスタンドプレイでは実現不可能で、作曲を含めメンバーと緻密にコラボしてないと絶対に出来ない。その意味でもアースワークスは「世界で一つだけのサウンド」を持ったバンドなのです。
1曲目「Thud」からオリジナリティ爆発。「ホヘ」「ヒポ」とか変な音満載なのに、全体としては見事にブリティッシュ・ジャズロックになっているところが、本当に素晴らしい。今聴くとミキシングがやや粗いところもあるのですが、エポックメイキングな傑作かと思います。
メンバーは当時のブリティッシュ・ジャズシーンの筆頭児達ですが、なんと言ってもジャンゴ・ベイツには最大限の衝撃を受けました。超一流のピアノ演奏に加え、テナーホーン(ホルンとトロンボーンの間くらいの音域)を自在にこなす。実際本作でも、サックス・テナーホーンユニゾンでテーマが演奏される中、ビル先生が和音ドラムでアンサンブルを支えるというシーンが多用されています。

2) Dig?(1989)

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ベースがエレベ弾きのTim Harriesにチェンジ。前任のMich Huttonはウッドベース奏者で、エレドラとのミスマッチ風味が特徴的なサウンドに貢献してたので、ちょっとガッカリな感じでした。やはり、サウンドがややフュージョンっぽくなります。
個人的にはすげえ不気味なアレンジが特徴的な「Downtown」と、ディジリドゥを前面に出した「Coroboree」が好みでしたが、アースワークスサウンド全開の1曲目「Stromboli Kicks」も素晴らしい。

3) All Heaven Broke Loose(1991)

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メンバーは前作と全く同じで、第1期Earthworksの完成形が本作です。フリーキーな部分はかなり少なくなり、アンサンブル中心になります。
アースワークス王道と言える1曲目「Hotel Splendour」がある一方で、「Nerve」「Splashing Out」など、今までと違うアプローチも随所で見られるようになります。

これ以外にライブアルバムが1枚(Stamping Ground)がありますが、余り面白くないので省略。アルバムを再現出来るのは凄いと思いつつ、結局アルバムの方が完成度高いので。
で、1993年に前期Earthworksは解散となります。英語版Wikiによれば、ビル先生のニーズにシモンズの技術がついてこられなくなったこと、ツアー中の機材トラブル(殆どがシモンズ絡み)、さらにはジャンゴ・ベイツの脱退などが決定打となったそうな。さもありなん。

初期のEarthworks動画です。やっぱりこのメンツが一番好きだなあ。

https://www.youtube.com/embed/R57EwfMEFu8

この後、ビル先生はVrooomクリムゾンに加入します。個人的にはVrooomクリムゾン大好きなのですが、どちらかというとトレイ・ガン/パット・マステロットのリズム体の斬新さが光っており、ビル先生はあんまり重要な役割を持っていませんでした。と言うことでここは省略。
とは言え、VROOOM期で一番好きなのはVROOOMですね。

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7.Bill Bruford's Earthworks 後期(1999-2004)

いよいよ後期Earthworks、ビル先生の最後のキャリアです。
個人的には、この後期Earthworksにおいてビル先生は真の意味でのオリジナルな音楽に辿り着いたと考えています。メンツは一見地味になりました。ですが、ブリティッシュ・ジャズの最先端をこれ以上ない形で示した、ビル先生にしか作れないバンドが後期Earthworksだったと思うのです。
それもキャリアの最後で。真に恐るべしビル先生。

さてここで、後期Earthworksの動画を観てみましょう。

https://www.youtube.com/watch?v=uZ4-NGx_GD4

ドラムセット思いっきりアコースティックやしw つーかタムのセッティング、どんだけフラットやねんww
ビル先生、ここで完全にアコースティック回帰。ベーシストも1回変わっていますがウッドベース奏者で統一されていました。スタンダードなジャズフォーマットに戻ったと言うことですね。ドラムセットは相変わらず変則ですが。

4) A part, and Yet Apart (1999)

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Bill Bruford(ds)
Steve Hamilton(p,kbd)
Patrick Clahar(sax)
Mark Hodgson(b)

もおねえ。1曲目「No Truce With The Furies」から大興奮ですよ。
いきなりの8/11拍子、それも5/16拍子3回+7/16で周回するという、FZ御大並みのシーケンスで、それでいて完全にブリティッシュ・ジャズという。「変拍子ブリティッシュジャズ」が確立された瞬間です。
曲がまたいいんだ。激しく転調しているのにメロディがくっきりと頭に残ります。
タイトル曲は切ない感じのバラード、実に前向きな曲調の「Footloose and fancy free」など、名曲が目白押しです。8曲目「Eyes Of The Horizon」では、オーソドックスな4バースドラムソロなども聴けます。
あと、ビル先生ブラシが絶品なんです。5曲目「Srah's Still Life」を聴いて下さい。エルヴィン・ジョーンズのような粘っこいブラシが聴けます。先生、こんなスキル今まで隠してたなんて…

5) The Sound Of Surprise (2001)

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これがEarthworks最後のスタジオアルバムとなりました。
1曲目「Revel Without A Pause」は、ビル先生の切れのいいオープンクローズハットからスタート。後期Earthworksを代表する名曲がここでも聴かれます。
アルバム全体は…個人的には前作の方が好きかな。耳に残る曲がちょっと少ない感じがします。それでも10分を超えるバラード「Come To Dust」は、胸に沁みます。

6) Footloose And Fancy Free (2002)
7) Random Acts Of Happiness (2004)

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Random Acts... ではライブなのに新曲が聴けます。これはEarthworksの次展開、Earthworks Underground Orchestraへの布石だったのでしょうか。さらにはBruford時代のカバーが3曲あり、客は大盛り上がりですが、個人的にはちょっと…Brufordはオリジナルフォーマットが唯一無二なので。

上記、Underground Orchestraは総決算なのですが、個人的には余り興味が湧かず。ビル先生のキャリアはここで終了となります。

60歳でスパッと引退、というのも上岡龍太郎みたいで実にカッチョイイですな。
昔のネームバリューにすがり、過去曲をズルズル演奏しながら食っていくミュージシャンが多い中、常に「世界で一つだけのバンドサウンド」を作り続け、跡を濁さず退いたビル・ブルーフォード御大に、改めて敬礼です!


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