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"The LEPLI" ARCHIVE 135/『”ファッションを デザインすることとは?”を考えてみませんか? 内山節著/”新・幸福論 「近現代のつぎにくるもの」を読む。』

 『 今回は、内山節さんの著書、「新・幸福論 」”近現代のつぎにくるもの”を読んで、
僕は、”このような時代”とはを改めて考えてしまった。そして、”このような時代”と
”これからの新たな時代”のために、もう一度、”ファッションをデザインすること”とはを
考えてみよう。』

文責/平川武治:
初稿/ 2015年6月11日:
 
プロローグ。/ 
 「成熟社会があるとすれば、それは目標など持たない社会のことだ。
文化や人間たちの営みの質を深めながらつくられていく調和した社会こそが成熟社会である。
 そして今日の日本の人たちは、次第にそういう社会をつくりたくなってきている。
目標の実現をめざして一丸になることを強要される
変わらぬ、途上国的な社会システムにはもうんざりなのである。 」
 引用;内山節著/”新・幸福論「近現代のつぎにくるもの」”

  『大衆が求める”イメージ”とは、いつの時代も、あり得るべきこれからの生活と
そのライフスタイリングを”夢”としたものである。
 ファッション産業とは、そのあり得るべき生活とそのスタイリングへ自由さと共に、
”ときめき”と”心地良さ”を与えるものであり、それが生み出す”リアリテ”と”繫がる”を
軸性とした「安心と安全そして、快適さ」を求めている事には変わりはない。』
 
一例から、/
 昨年は雑誌「暮しの手帖」が若い世代にフォーカスされた。
僕の母も毎月購読をしていたのを覚えている。
この本から中学生になった時に僕の家でもアラジン製の石油ストーブを使うようになった。
それによって僕の家は石油の匂いと共に、少し文化的な匂いがし始めた。
 これは、イメージが現実化した幸せ感でもあったもう、半世紀も前のことである。
しかし、この雑誌が持ち得た”戦中と戦後”という現実には次なる差異がはめ込まれている。

  『 1948年(昭和23年)にリベラル派の生活雑誌として『美しい暮しの手帳』が刊行され、
1953年(昭和28年)には『暮しの手帳』と誌名を変えている。
この雑誌の編集長として活躍していたのが花森安治である。
彼は戦時中は「大政翼賛会宣伝部*」に所属し、ここで多くの戦争を美化するス ローガンや
ポスター製作に関わっていた。「あの旗を撃て」「贅沢は敵だ」「足らぬ足らぬは工夫が
足らぬ」「欲しがりません勝つまでは」。 (中略)
 敗戦後、「知識人」たちが素早く転向していった。
それまで抱ていたイメージの世界が壊れ、新しい戦後のイメージの世界が芽生えたとき、
人々がとらえる「正義」も「事実」も変ったのである。
 だが、戦中、戦前、戦後に一貫していたものがある。それは多くの人たちが、
自分の利益になるように行動していたということだ。自分の保身をはかるという精神世界、
戦中、お国のためにという生き方そして、戦後は自分は被害者であり、国にだまされて
損をしたというイメージへ、(中略)こうして戦中、戦後を貫く個人主義が形成された。
 戦中には自己のために全体主義のなかで生きるという個人主義があり、戦後には、
自己を被害者にするイメージを確立する事によって保身をはかる個人主義があった。(中略)
 戦前の日本は、「国家のために生きる」ことと「公のために生きる」ことを、同一視した
時代 だった。その結果戦後に「自分のために生きる」という精神世界が形成されると、
「国家のため に生きて損をした」というイメージが、「公のために生きる」ことさえも
否定させてしまったのである。
 それがむきだしの個人主義をつくりだした。自分の利益になるかどうかですべてのことを
考え、その価値判断にしたがって行動する人々の群れを生みだしたのである。』

 引用;内山節著/”新・幸福論「近現代のつぎにくるもの」”から、

 僕たちの世代から、皆さんの両親世代の”価値観”と称された選択手段によって産み出された
3世代に渡る現実であり、『核家族」や『ニューファミリィー」という合言葉に乗っかって、
生きてきた”イメージ”の現実化でもあった。
 そして、今、そのジュニアたちが大事なものが遠くに逃げていく現象を感じ始めている。

 『 しかし個人がつくりだすイメージとその時代の政治や経済などがつくりだすイメージが
共振し、 一体化したときには新しい一面が生まれる。イメージの社会化が成立し、
そのイメージがあたかも真実であるかのごとくその社会の人々を支配するのである。
 戦後の高度成長期もそういう時代だった。人々は自分のために生きるのが有益な生き方だと
いうイメージが確立していた。自分のためとは、自分の欲望を満たすために生きることで
あり、自分の目標を実現するために生きることであった。そしてこの時代には、政治や経済もまたそこに豊かさがあるというイメージを提供していた。 (中略)
 その背景には自分の保身を第一とする戦前からの個人主義があり、「国家」と「公」を
同一視するがゆえに戦後は「公」をも彼方にやった個人主義があった。』

 引用;内山節著/”新・幸福論「近現代のつぎにくるもの」”

 多分、多くのこの時代の当事者たち世代は自分たちが選択し、求めた個人主義とは
何だったのかを忘れてしまっているのであろうか、あるいは思い出したくないのであろう。
 そして、彼等世代のジュニアたちは、”妄想”あるいは、「遠逃現象」を感じつつ、

 『 さまざまなものが遠くに逃げていくという感覚に包まれて、現代の私たちは生きている。
家族もそのひとつだろう。家族と縁が切れたわけでもないし、関係が悪化したわけでもない。
モノにも恵まれている。それなのに、少しずつ少しずつ遠い存在になっていく。
それは自分自身にたいしても起きていて、日々活動をしているこの自分が自分自身であるはずなのに、それは頭でわかっていても、感覚の世界では、自分自身もまたどこか遠くにいる
つかめない存在なのである。』

 引用;内山節著/”新・幸福論「近現代のつぎにくるもの」”

 そして、現実に起こった「3.11」との遭遇によってもたらされた、新たな”共存観”と
新-コミュニティ論へそして、新たな家族主義とその幸福主義の全盛時代を迎えるでしょう?
 どうか、ヴァーチャルリアリテチィへ逃げ込まないでください。
戦後の個人が忘れてしまった「公」を思い遣ってください。

”デザインすること”で考えなければならない、”倫理観”/ 
 昨年来、僕が発言させていただいている”倫理観”とはここへ帰します。
”「公」への思いやるこゝろの有り様”が新しい共同体としてのコミュニティ=地域再創生
=新しい国つくりへと広がり、そこでの新しいスタンダードとしての、
”あり得るべき新たなライフスタイリング QOL"が今後のファッション関連ビジネスへの
新しさを生み出せるでしょう。
 ”ファッションデザインとは”の根幹はここにあります。
「公」を思い合うための”カッコイイ、コミュニケーション”手段の一つです。
”ときめき”という好奇心と共に。
 決して、自己満足や自己肯定のためのデザインではありませんね。
「着てもらう」ためのファッションであり、「ゴミ」を生み出すための
ファッションではありません。

 エピローグ。/
 ロンドンのレジェントデザイナーの一人である、ザンドラ・ローズが語っている言葉です。 
僕にはまだ、”自由”という言葉が燦然と輝いていた時代の懐かしくなってしまった言葉です。 

 『いつも自分だけの道を歩んでいますから、人一倍さかんに働かなくてはいけないんです。
デザインの仕事って、簡単なことではないのです。まわりに人がたくさんいるのは好きなんですけど、なにかを作り出すときには自分ひとりになって閉じこもります。
 自分のつくった服を人が着ているのを見ると、
それに啓発されてまた自分ひとりで閉じこもって服をつくり出す力がわいてきます。
 頭の中がまるっきり空白状態になってしまって怖いときもあるのですが、
頭がからっぽになってしまったほうがいいのです。
 そうなれば、まったく新たに考えなおして前へ進む以外にないですから、
かつて使った古いアイデアをひねくりまわすという罠にはまらなくてもすみます。』
 
 引用/ ”チープシック” C.ミリネア+C.トロイ著 片岡義男訳-草思社 ‘77年刊より。

*引用文献/ [新・幸福論「近現代のつぎにくるもの」] / 内山 節著/ 新潮選書:新潮社刊:
      / ”チープシック” C.ミリネア+C.トロイ著 片岡義男訳/草思社 ‘77年刊:

 花森安治/
https://www.kurashi-no-techo.co.jp/hanamorisan/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E6%A3%AE%E5%AE%89%E6%B2%BB

 大政翼賛会/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%94%BF%E7%BF%BC%E8%B3%9B%E4%BC%9A
 大政翼賛会宣伝部 /
 
https://www.bunsei.co.jp/old-book/ctg-10/%E5%A4%A7%E6%94%BF%E7%BF%BC%E8%B3%9B%E4%BC%9A%E5%AE%A3%E4%BC%9D%E9%83%A8%E6%8E%A8%E8%96%A6-%E6%BC%AB%E7%94%BB/

 ザンドラ・ローズ
https://en.wikipedia.org/wiki/Zandra_Rhodes
https://www.udiscovermusic.jp/news/zandra-rhodes-designing-queen-udiscover

文責/ 平川武治。
初稿/ 2015年6月11日。

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