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"THE LEPLI-ARCHIVES"#154 『JUNYA WATANABE パリ・コレクション’17 S/S ”モダン・テクノロジーとヒューマン・テクノロジー”のブリコラージュのダイナミズムを愉しむ。』
初稿 / 2016年10月19日。
文責/平川武治。
写真 /"ヴィエナ・ シェーンブルン宮殿の秋庭園" By Taque.
1)今シーズンのJUNYA WATANABEは、
”パンキー& ニユー・エレガンス”コレクション。
見事なバランス感覚で表現した、”モダン・テクノロジーとヒューマン・テクノロジー”のブリコラージュ。
それは”パンキー& ニユー・エレガンス”コレクション。
時代に向き合った、一つの判り易いコレクション・パターンを見せてくれた今シーズンのジュンヤ・ワタナベ。
彼はここ数シーズン、自分の世界をこれからの時代へチューニングする
ためのトライアルを新しさとしてコレクションに残してきた姿勢です。
僕は彼のこの姿勢が好きであったし、彼のトライアルに勇気と覚悟が伺えるまでのとても素晴らしい、いいコレクションだったことを覚えている。
JUNYAの世界には、”軽さと重さ”、”エレガンスと激しさ”が
絶妙なバランスでまとめられていたからだ。
それらは、僕が数年前から提案していた「WITHOUT SEWING」
プロジェクトの一環に値する視点での新たな発想に基づいた
コレクションにいつも挑戦している。
これは”モダン・テクノロジーとヒューマン・テクノロジー”の
ブリコラージュであり、”I.D"との”ラップ”のザッピング。
その世界は、時代の”新しい自由さ”を感じさせるまでの美しさに
まとめられ、着る女性を生き生きと伸びやかな姿にするマジックを
このデザイナーは既に、持っている。
2)今シーズンの彼のコレクションもその延長上であった。
もともと平面である素材を彼も、”3D" 構造のメイン・エレメント・
パーツに仕立て、その3D.エレメントの連続性で”服”を仕立てるという
マティマティックスな(算術的)手法はここ3シーズンの継続コレクション。
前々回のコレクションで、それまでの3シーズンほどを塩ビ素材を使って
エナメル加工したものも含めて、それらを平面のパターン・ピースを作り、
このピースを一片づつつなぎとめる手法で”服”を仕立て上げて来た。
僕はこのシリーズは”ポリーマグー”的なイメージと新しさ、晴れやかさと爽やかさとともに、このデザイナーの美意識がエレガントに感じた。
その後、彼は2シーズン、3D.のエレメントで”新しい自由”を提案した。
トライアングル・グリットによる”折り紙”あるいは、”ペーパークラフト”的発想で3D.エレメントを構成し、これらを使った世界をこれらも見事な、
彼の性格であろう、端正さと几帳面さが作品の品を表すまでの
軽やかなコレクションを行なった。
安価な合繊素材そのものを先ず、”加工ー部品”化するすなわち、
”I.D"の手法によってこの世界の延長、バリエーションが今シーズンだった。
3)しかし、今シーズンはコマーシャルをも意識したバリエーション。
この発想の初回のコレクションは、こんなアイディアでこれほどの
コレクションが出来ますよという力の入ったシリーズー1。
そして、2回目の先シーズンはこの発想をここまで広げられ尚且つ、
力を抜いて軽妙にまとめられますと言う迄の充実したエレガントを前面に
出したなコレクション。
そして、結果的には、このシリーズのコレクションとしては
一番いいコレクションだった。
その結果、今回はこの3D.エレメントを使い、”売ること”を考えられた
ところでまとめられたコレクション。
”ナイン・インチ”の激しいリズムがコレクション中鳴り響くなか、
颯爽と”パンキー& ニユー・エレガンス”コレクション。
シーズンごとの彼の眼差しと好奇心が輝いた、進化が見られた。
4)このような発想のコレクションは、”縫わない”で”組み立てる”手法。
僕が提案していた”WITHOUT SEWING"でもそうであるが、
これらのモードの創造性の根幹には、
”モード”と”インダストリアル・デザイン”のコラボ的発想の
新しさが存在している。
もっと、わかりやすく言ってしまえば、”レゴ・ブロック”世代へ
共感する発想の根幹があり、オリジナリティがある。
まず、パーツとしての”エレメント”を作り、次にそれらを組み合わせて
人体に”装着”させるという発想でありここでは、”縫わないで組みあげる”という手法を”モード”の世界へ持ち込むという”新しい自由”の一つである。
したがって、この”エレメント”を作る場合、機械加工に委ねるため
それなりのロットが発生しそこに”リスク”が生じる。
そのため、それらの”エレメント”である”部品”を使いまわし、このコストを下げなければ実ビジネスに繋がりにくい。
新しいことをするために生じる”リスク”と”コスト”はいつの時代にも
それなりに派生する。その”リスク”と”コスト”を工場が持った上での
製品化が”インダストリアル・デザイン”の世界である。
その結果、この世界はその後の量産によって、売れれば売れるほどに
”儲け”が生まれる。
この現実は、かつての”I.MIYAKE"のプリーツシリーズが
現在の”I.MIYAKE"ブランドを経営的に救ったことでも理解できる。
5) 今回、JUNYAは、3シーズン目のこの世界に挑戦した結果となった。
ジュンヤ ワタナベのコレクションは彼のセンスとまとめ方という
”モード”の世界での経験とスキルが十分に生かされてまとめられた
コレクションだった。
”軽さと雰囲気”を大切にしたコレクション・テーマでの
彼が考えた”創造のための発想”は”パーツ オブ ボディ”であった。
着たい女性の全身を”ラッピング”するのではなく、彼女たちの姿態の部分に
この”エレメント”を使って”装着”するというアイディア。
その結果が、”エプロン”や”肩掛け”といったアイテムに見事に落とし
込まれて彼、特有の世界観を生み出した、心地よいコレクションだった。
ここには”センスの良さと頭の良さ”が伺えるまでのコレクション。
6)だが、ビジネスである”売るため”の商品構成は強かに計算されている。
インナーは分かり易いBIG・メッセージT-シャツ。
時代性としての”ストリート感覚”をベルリンの今では、”グラフィテー・
アーチスト”に成り上がった連中とここでも”お助けコラボ”。
これは”売る”ための時代感覚が計算され、織り込まれたコレクション。
一方で、最近では日本のストリート・ブランドにおけるこの感覚は
若き日本人の”書道家”の登場が見られる。
さて、どちらが世界ウケするのだろうか?
”JUNYA WATANABE”ぐらいのデザイナーになれば、
”ネイション・アイデンティティ”に堂々と挑戦することもある意味で、
”義務”かもしれないとも考えてしまうのですが、
このブランドも、いつまでも白人たちへの眼差しを気にした
目線から生まれる”オカ・PUNKY"。
だからイメージはすでに、「カウンターカルチャー」では無く、
寧ろ「ヤッピィー・カルチャー」でしかない。
あの僕たち世代へ強烈なカウンターを放った、B.ディランさんも
ノーベル平和賞が授けられる時代なのだから。
初稿 / 2016年10月19日。
文責/平川武治。モロッコ、ティツアン市にて、