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書き下ろし/『3年半ぶりの僕のパリ。』 その五-エピローグ 墓参。

文責/平川武治:
初稿/2023年07月23日:
写真/Francine Paironの墓石と猫。

 暑い最中の6月の終わり。
待っていたかのように僕はブリュッセルへ移動。
久しぶりに乗った、TGV。
乗り換えがあって知らない駅で結局1時間以上も待たされて着いた
ブリュッセル北駅はもう治安の悪い時間帯になっていた。
小雨も降ってきた。
 この駅からさほど遠くないところに取った筈のホテルだったが
タクシーを使った。イミグレターの運転手は案外、親切だった。

 ただ、駄々広いホテルの部屋での独りは落ち着かない夜だった。
明日の彼女の墓参に緊張をしてしまっていたために余計だったのだろう。

 朝食も取らず、八時前にはホテルを出た。
歩いて駅まで行くと、やはりホテルは近い所に在ったことを知る。
 駅中のカフェで朝食まがいをそして、トラム駅へ行く。

 共通の友人の映像作家のミッシェルに
あらかじめ教えてもらっていた道順で彼女の元へ向かう。
 そそっかしい僕はもう、今日の失敗を始めた。
乗ったトラムが反対方向のものだったために、さあ大変!!
 不安がって乗っていたので、途中で気づき降りて反対の停車場へ。
ここが何処なのかは全く不明なところで小一時間ほど待つ。
 同じ停車場で待っている老人に尋ねるが、
尋ねると余計に、不安になってしまうのがこの街の僕の経験。
こんな時、モバイルを持っていればと自らのアナログぶりをやじるが
この体験が旅だと言い聞かせる。

 行ったり来たりのトラムでやっと乗り換え停留所へ辿り着き、
バスに乗り換える。
さっきの経験で学習したので今度は大丈夫。
 そしてやっと、十四時過ぎには霊園に辿り着く。

 僕と誕生日が1日違いという繋がりでフランシーヌとは仲がよかった。
彼女との出会いは、パリのメトロの中だった。
 当時、僕はすでに、アントワープアカデミーの
卒業コレクションの審査員をさせていただいていた。
 確か、マルタンのコレクション帰りの車中、
気がついてみると、多くのアントワープの連中の中に、
微笑んでいるフランシーヌもいた。

 リンダ ロッパの紹介で、
フランシーヌはブリュッセルに古くからある美術学校、
”ラ カンブル”校のファッション ディレクターであることも知った。
 以後、フランシーヌがパリのI .F.M.へ来るまでの数年、
この”ラ カンブル”校の審査もさせていただいた。

 同じベルギィーの学校であるが、全く校風もその気質も
そして、生徒たちの作風も違っていたので
僕は大いに好奇心を持って勉強にもなるので参加させていただいていた。
”マイルド”と”ビター”という感の違いであろか?
 また、”フランス語”教育という事実が、”ラ カンブル”校の卒業生たちの
”イエールファスティヴァル”参加とともに、”パリ登竜”が早く、
案外、スムースに行われていた学校だという違いもあった。
 この違いはその後の事実、”パリファッションメゾン”を担う
若手デザイナーたちの人脈を構築もし、現在までも継続している。

 多分、このフランシーヌの教育実績が
その後、”I.F.M."校におけるファッションディレクター招聘に繋がり、
彼女は10年間をパリで住み、多くの素晴らしい生徒を輩出させた。
 その一人に、日本人生徒では、”三宅陽子”さんがいる。
彼女は優秀な生徒でロンドンのセントマーティン校からこの”I .F.M.校へ
そして卒業後、パリで”ランバン”と”purple fashon"で働き、
現在は東京でスタイリスト&ディレクターをなさっている。
 僕が知っているファッション海外留学生はその殆んどが、
”なりすまし”デザイナーで虚述の元に活躍している輩たちが多い世界。
 ヨウコさんは寡黙に、彼女の自由さと聡明さと感覚で
好きなモードと関わっていらっしゃる。

 今年も、1月に入ってから、フランシーヌからメールが届いた。
恒例の「そろそろ、誕生日が近づいたね、元気でやっていますか?」
のメールだと僕は思い、それなりの返事を出した。
 するとその次に、1週間もしないで、
彼女の自身の病気の告白が記されているメールが届き、
以下の文が添えられていました。

『 外出先から、
私はこれまでずっと、既成概念にとらわれない思考をやめずに
生きてきました。
「思い切ったことをする」こと。
「新しい領域を開拓する。」
それが、私の世界でのあり方です。
いや、生きてるだけだ!

テリトリーによっては、もっと優しいテリトリーもあります。
アイデンティティがコア・ターゲットになれば、
あらかじめ地盤が掘り起こされる。
私はこの火薬庫の上に家を建てたんだ!

ファッションは私の遊び場です。
セルフコンストラクションを、優先する。
イメージより本物志向。
ストレートトーク、私の表現方法です。

この冒険では、皆さん、つまり全員を同じ船に乗せました。
私はあなたを押し、挑発し、楽しませ、邪魔をし、愛してきました。
その一方で、皆さんは私に栄養を与え、感動を与え、刺激を与え、
成長させてくれました。

振り返ってみると、私たちは何か恐ろしいほど生きているもので結ばれているような気がします......。
"同じ馬車に乗った2頭の馬が、
それぞれ自分の側で猛スピードで引っ張るように。
雪道を行く騎手たちは、正しい歩幅を探し、正しい考えを探している。
美は時に、通り過ぎる枝が顔を叩くように私たちを焼き、
美は時に、喉に飛びかかる驚異の狼のように私たちに噛みつく" 』
 参考/クリスチャン・ボビン: ”La folle allure”
https://www.fredericlenoir.com/ja/news2/クリスチャン・ボビン-この人生で私を驚かせるのは善です-それは悪よりもはるかに特異です/

 やっと、辿り着いた墓石の前に。
全く、彼女らしい表情の墓石だ、
多くの人たちとの出会いのように、波の彷徨いを想う。

 その静かで平和な雰囲気の中で、
僕独りだけがフランシーヌの笑顔を思い浮かべることができた。

 そして、不思議なことが起こった。
鎌倉から持ってきたお線香をあげ、お祈りしていると
突然、隣の墓石の陰から猫が静かに、
しかし、堂々と姿を現し、僕を見つめるが如く対面した。
私たちはしばらくの間、160秒くらい見つめ合った、
それは、僕には長い時間に思えた。
僕が声をかけると、猫は静かに立ち去った。
僕は白昼夢を見ていた。

 フランシーヌが僕のところに来て言った!
「タケ、やっと来てくれたのね、待っていたわ。
ありがとう。」とフランシーヌが言いに来てくれたのだと信じて、
僕は嬉しくて、幸せな時間が流れた。

 しばらく芝生の上に座り込んで、独りでぼそぼそとしゃべった。

晴天の元、何事もなく、とても清らかで幸せな時間を
彼女と過ごせたことに感謝している。

"There is a lot of time for the everything under the sun.” 
"太陽の下にはすべての時間がある。"
 フランシーヌと共に、僕の好きな言葉がゆったりと漂いそして、流れた。
合掌。

" Thank you so much,
You are a so important piece of my jigsaw puzzle.
Rest in peace,Francine."
Taque.HIRAKAWA:

文責/平川武治:
初稿/2023年07月23日:
 

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