気がつけばテリヤキチキンライスの食券を買っていた

 街の中心部に近づくと、国道脇にある商店に人がたくさん集まっていた。そこ以外は人も歩いていないようなひっそりとした雰囲気だったので、ちょっと異様に思えた。前に台湾に行った時も、夜に同じような光景に出会ったのを思い出す。あれは確か、競りのようなことをしていた。

 やがて道の右手がアメリカ軍の敷地になる。道路を挟んだ向かい側が繁華街というか飲食店が集まっているエリアのようだった。細い道沿いに路上駐車の車が並んでいる。公共駐車場があったので、そこに車を駐める。

「寒いねえ」

 薄暗いトイレで用を足していると、後から入ってきたおじさんに隣から話しかけられる。しもやけで痛む手を保護するために手袋をしていたから、余計に寒がっているように見えたのかもしれない。どちらにしても、沖縄にしては寒い日なのだろう。ダウンジャケットを着ていてちょうどいいくらい。

「内地から来たの?」

ナイチとウチナーってどっちが本土でどっちが沖縄だったっけ、と思いながら、でも、わざわざ聞いてるんだから本土の意味だろうと思って「そうです」と答える。「金武町はタコライスの発祥だからねー」。おじさんはトイレを出た後、たむろしている別のおじさんと合流して、スナックのママに呼ばれるままに店に入っていった。

 古いキャバレーのような建物や、バーやクラブのような店が並んでいる。歓楽街の雰囲気だけど、活気があるわけではなく、営業している店がポツポツとあるくらい。赤とオレンジの、サイドミラーがボンネットに付いた古いセダン型のタクシーが道端に止まっている。子供を連れた女性がタコス屋の脇のらせん階段を上っていく。コンクリートの建物が黒ずんでいるのは湿気が関係しているのだろうかと思う。

 飲食店をのぞくと、アメリカ人が何人も食事をしているのが見えた。入ってみる。券売機で食券を買う方式。英語併記でドル表示もある。20人くらい入ればいっぱいになるくらいのサイズの店。カウンターのなかで日本人の男性2人が料理を作って出している。タコスを頼むつもりが、甘辛い匂いにそそられて、気がつけばテリヤキチキンライスの食券を買っていた。タレがかかったグリルチキンがご飯の上に載せられて出てくる。

 客は自分たち以外みんなアメリカ人だった。初めて来たのか、食器の片づけ方を別のアメリカ人に聞いているグループもいた。今日は木曜日だ。仕事というか、1日の任務が終わって夕食を食べに来ているのだろう。基地の中にも食堂などはあるだろうから、たまに外食でもするかという感じかもしれない。若めの人が多い。和気あいあいでもなく、よそよそしいわけでもない雰囲気。店の人もとくにお客と言葉を交わすわけではない。BGMは尾崎豊。

 でもやはりタコライスも食べてみるべきだろうと、本命の店にも行く。ここでは日本人の若い女性が働いている。ファストフード店という感じ。野菜タコライスを頼むと、プラスチックのタッパーに山盛り入れてくれる。ひき肉とレタスがたっぷり入っている。2人で1つで満足できるくらい。店の2階で食べる。客はほとんどいない。持ち帰る人が多いようだった。

(続く)

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