北風より太陽の質問術

 インタビューをして文章を書くことを何度かやってみたら、どんな質問をすればよいかが気になるようになった。飲み会なんかのときでも、どう聞けば話が展開するのか、おもしろい話が引き出せるのか、と意識するようになった気がする。

 『良い質問をする技術』(粟津恭一郎著)が目に留まったのは、そんなふうに質問に興味を持っていたからだろう。自己啓発っぽいんじゃないかと先入観があったけど、読んでみると、実際に誰かに話を聞くときに役に立ちそうなことが多く書かれていた。著者の質問に対する考え方にも共感できた。

 著者はエグゼクティブコーチという仕事をしている。会社の社長などに質問(インタビュー)をして、気づきを得てもらい、問題を洗い出したり、進むべき方向を考えたりすることをサポートする仕事だ。実際の経営についてのアドバイスやアイデアの提供はせず、基本的には質問をして話を聞くだけである。

 そう聞くと、何も生み出さずにお金をもらっている怪しい仕事と思われるかもしれないが、自分を客観的に理解するのはどんな人にとっても難しいことだ。とくに経営者は孤独だといわれる。そこを他人の目から質問をしてもらうことで、先入観や盲点に気づくことができたり、考えをリフレッシュできたりする。優秀な経営者ほど、客観的な観点から自分を見ることが有意義だと自覚しているのだろう。

 個人的には、質問について考えていたことが、著者がやっているスタンスと近く、これでいいのだと勇気づけられた気持ちになった。

 具体的には、質問はその場の流れによって考えるということ。事前に質問をリストアップしておくのは必要だけど、現場ではいったんそれを忘れて、相手の話をしっかり聞き、そこから次の質問を考えていく。「あらかじめ準備した言葉は相手の心をとらえません」というのはその通りだと思う。

 ネガティブなことばかり聞きたがる記者がいる、という話も印象に残った。個人的にも以前、インタビュー記事を書く際のアドバイスとして、人は他人の不幸を知りたがるのだから苦労話を聞きなさい、と言われたことがある。そのとき少し違和感があった。

 取材はコーチングとは違って何でもポジティブに、とはいかないと思うけど、でも信頼関係を作っておもしろい質疑応答を展開していれば、おのずと苦労話や言いにくい話も出てくるんじゃないだろうか。最初から、苦労した話はないか?と聞いてしまったら相手は態度を固くするだろう。自分が話を聞かれる側だとしたら警戒すると思う。

 北風と太陽でいうと、太陽でいきたい。というか自分にはジャーナリスティックに問いただすような質問をするのは無理だろう。しっかりと相手の話を聞いて、その中から次の質問を探して、真実が立ち現れてくるのを待つしかないと思う。

 インタビューして文章を書くこととコーチングは似ていると思った。やりたい手法としてはコーチングの方が近い気がする。コーチングについてもう少し知ってみたいと思ったのだった。

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