自分の手で誰にも邪魔されない場所を作る
坂口恭平さんの本は何冊か読んでいるけれど、モバイルハウスの具体的な作り方を読んだのは、この『モバイルハウス 三万円で家をつくる』が初めてだった。
日本では勝手に家を建てるのは法律違反になる。だけど車輪がついていたら、それは住宅ではなく車両とみなせる。だから、人が1人住めるくらいの小さな家を作って、それに車輪をつけて、駐車場などに置けば、それで立派な……とまでは言わないまでも、必要十分な住まいができる。それがモバイルハウスのアイデアだ。そして、それをアイデアだけでなく実践してしまうのが、坂口恭平というアーティストである。
発想の元になった路上生活者というか、ホームレスというか、住んでいるのは路上ではなく河川敷で自分の家もあるので、なんと呼んでいいのかわからないけど、その世界の天才的なおじさんから手ほどきを受けて、坂口恭平氏は自分ひとりが暮らせるほどの家を完成させる。総工費は2万6000円。
しかし簡易な家とはいえ、「多摩川のロビンソンクルーソー」とも呼ばれるこのおじさんは、木材のミリ単位の誤差も見逃さない。それくらいの精度でしっかり作らないと、あとあとガタがくることを経験上知っているのだ。
「土台は本当に大事なんです。手で切ると、どうしても誤差ができてしまう。だから土台の材木は、必ず電気鋸でまっすぐ切らないといけないんです」
その基本のもと、著者は見た目にもこだわって、外見もモダンな家を作り上げた。その経緯がこの本に書かれている。
個人的に「モバイルハウスいいなあ」と思うのは、自分の空間が確保できるところだ。自分の手で、誰にも邪魔されない自分の空間を作ることができる。しかも自分の好きな場所に置けばいい。この感覚はいいなあ、と思う。それは一言でいえば、自由ということなのかもしれない。
可動式でなくても、10平方メートル以内の建物であれば、申請することなく家を建ててもいいそうだ。自分だけの小さな家に住んで暮らすことを想像してみると、ちょっと楽しい気分になってきた。
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